健康診断や血液検査で「LDHが高い」「LDが基準値を超えています」と言われると、「がんなのか」「肝臓が悪いのか」「再検査が必要なのか」と不安になる人は少なくない。

結論からいうと、LDHは全身のさまざまな細胞に含まれる酵素であり、肝臓、筋肉、血液、肺、腎臓、心臓、悪性腫瘍など多くの原因で上昇する。

LDHは非常に広い臓器に存在するため、LDHが高いだけで、すぐに特定の病気がわかるわけではない。むしろ、LDHは「どこかの組織に負担や障害があるかもしれない」と考えるための非特異的な指標である。

そのため、LDH高値では、AST、ALT、ALP、γ-GTP、CK、ビリルビン、血算、CRP、腎機能、尿検査などと合わせて原因を絞り込むことが重要である。

この記事では、LDHとは何か、基準値、高くなる原因、がんとの関係、再検査の目安、受診すべき症状について整理する。

この記事のポイント

  • LDHは、全身の細胞に存在する酵素である。
  • LDH高値は、組織障害、炎症、溶血、肝疾患、筋肉障害、血液疾患、悪性腫瘍などで見られる。
  • LDHだけでは、どの臓器が悪いかは特定できない。
  • 採血時の溶血や激しい運動でもLDHが高くなることがある。
  • LDH高値が続く場合や、貧血・黄疸・発熱・体重減少・強い筋肉痛などがある場合は医療機関で相談する。

LDHとは何か

LDHとは、乳酸脱水素酵素とも呼ばれる酵素である。

LDHはLactate Dehydrogenaseの略で、体の細胞がエネルギーを作る過程に関わる酵素である。肝臓、筋肉、腎臓、赤血球、心臓、肺、脳など、ほぼ全身の組織に存在している。

通常でも血液中に少量のLDHは存在する。しかし、病気やけが、炎症、細胞の破壊などで組織が傷つくと、細胞内のLDHが血液中に出てくるため、血清LDH値が上昇する。

LDHは「全身のどこかで細胞障害が起きていないか」を見る検査である。

LDHの基準値

LDHの基準値は、検査機関や測定法によって異なる。

Cleveland Clinicでは、成人のLDH基準値の一例として、男性135〜225 U/L、女性135〜214 U/Lを示している。ただし、日本の健診施設や検査会社では、これと異なる基準値が使われることがある。

項目 考え方
LDH基準値 施設・測定法によって異なる。
軽度高値 一時的な変動、運動、溶血、軽い炎症などでも起こる。
明らかな高値 肝疾患、筋肉障害、溶血、血液疾患、悪性腫瘍などを考える。
持続高値 再検査や追加検査が必要になることがある。

LDHは基準値を少し超えただけで病気が確定する検査ではない。どの程度高いか、前回から上がっているか、他の検査も異常かを確認する必要がある。

LDHが高いとはどういう意味か

LDHが高いとは、体のどこかで細胞や組織が傷つき、LDHが血液中に漏れ出ている可能性があるという意味である。

ただし、LDHは全身の多くの組織に存在するため、LDH高値だけでは原因を特定できない。MedlinePlusも、LDH検査単独では、どの組織が障害されているか、どこが原因かはわからないため、他の検査と組み合わせて判断すると説明している。

たとえば、LDHと一緒にAST・ALTが高ければ肝臓由来を考えやすく、CKが高ければ筋肉由来を考えやすい。貧血やビリルビン高値を伴えば溶血、白血球異常や血小板異常があれば血液疾患も考える。

LDH高値は「原因を探すきっかけ」であり、LDHだけで診断するものではない。

LDHが高くなる主な原因

LDHは多くの病気や状態で上昇する。

代表的な原因には、肝疾患、筋肉障害、溶血、血液疾患、肺疾患、心疾患、腎疾患、膵炎、感染症、悪性腫瘍などがある。

原因 一緒に見たい検査・症状
肝疾患 AST、ALT、ALP、γ-GTP、ビリルビン、腹部症状
筋肉障害 CK、AST、筋肉痛、脱力、運動歴
溶血 貧血、ビリルビン、ハプトグロビン、網赤血球
血液疾患 白血球数、血小板数、貧血、発熱、リンパ節腫大
肺疾患 息切れ、胸痛、肺炎、肺塞栓など
悪性腫瘍 体重減少、発熱、寝汗、画像検査、腫瘍マーカーなど
採血時の溶血 他の検査が正常で、再検査で正常化することがある。

LDH高値の原因は非常に幅広いため、他の検査項目とセットで読むことが重要である。

LDH高値と肝臓の病気

LDHは肝臓にも多く含まれるため、肝疾患で上昇することがある。

肝炎、肝硬変、胆道系疾患、肝うっ血、肝腫瘍などでLDHが上がることがある。ただし、肝臓の状態を見るには、LDHよりもAST、ALT、ALP、γ-GTP、ビリルビンなどの方が重要である。

肝臓由来を考える検査の組み合わせ

  • AST高値
  • ALT高値
  • ALP高値
  • γ-GTP高値
  • ビリルビン高値
  • 腹部エコーで肝胆道系異常

LDHだけが少し高い場合、すぐに肝臓病と決めつけることはできない。

LDH高値と筋肉の病気・運動

LDHは筋肉にも多く存在するため、筋肉障害や激しい運動後に上昇することがある。

激しい筋トレ、長距離ランニング、登山、肉体労働、筋肉のけが、横紋筋融解症、筋炎、筋ジストロフィーなどでLDHが上がることがある。

筋肉由来かどうかを見るには、CKが重要である。CKが高く、筋肉痛や脱力、褐色尿がある場合は、筋肉障害を考える。

筋肉由来を考える状況

  • 採血前に激しい運動をした。
  • 筋肉痛が強い。
  • CKが高い。
  • ASTも高いがALTはあまり高くない。
  • 褐色尿がある。
  • 脱力がある。

LDH高値が運動によるものか判断するには、運動歴とCKを合わせて見る必要がある。

LDH高値と溶血

LDHは赤血球にも多く含まれているため、赤血球が壊れる溶血で上昇する。

溶血とは、赤血球が血管内または脾臓などで壊れる状態である。溶血が起こると、赤血球内のLDHが血液中に出るためLDHが高くなる。

溶血では、LDH高値に加えて、貧血、間接ビリルビン高値、ハプトグロビン低下、網赤血球増加などが見られることがある。

溶血で見られることがある所見 意味
貧血 赤血球が減少している。
LDH高値 赤血球破壊で上昇する。
間接ビリルビン高値 赤血球破壊に伴って上がることがある。
ハプトグロビン低下 血管内溶血で低下しやすい。
網赤血球増加 骨髄が赤血球を増やそうとしている状態である。

LDH高値に貧血や黄疸がある場合は、溶血性貧血などを考えて医療機関で相談する必要がある。

採血時の溶血でもLDHは高くなる

LDH高値では、採血時の溶血も重要な原因である。

採血時や検体処理中に赤血球が壊れると、赤血球内のLDHが血清中に出てしまい、本来よりLDHが高く測定されることがある。

この場合、体の中で病気が起きているのではなく、検体の問題でLDHが高く見えているだけである。MedlinePlusも、採血・検査過程で赤血球が壊れるとLDHが高くなる可能性があると説明している。

採血時溶血を疑う状況

  • LDHだけが不自然に高い。
  • 他の肝機能やCK、血算が正常である。
  • 検査結果に「溶血あり」と記載されている。
  • 再検査で正常化する。

LDHが突然高くなった場合、まず本当に体内の異常なのか、検体溶血の影響がないかを確認することがある。

LDH高値と悪性腫瘍・がん

LDH高値は一部の悪性腫瘍で見られることがあるが、LDHが高いだけでがんとは言えない。

LDHは、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、精巣腫瘍、悪性黒色腫などで、病勢や予後、治療効果判定の指標として使われることがある。MedlinePlusやCleveland Clinicも、LDHが特定のがんの重症度や治療効果の評価に使われることがあると説明している。

しかし、LDHは肝疾患、筋肉障害、溶血、感染症などでも上昇するため、LDH高値だけでがんを疑うのは適切ではない。

がんだけに直結させない理由

  • LDHは全身の多くの組織に存在する。
  • 炎症、感染、運動、溶血でも上昇する。
  • LDH単独では原因部位がわからない。
  • がん診断には画像検査、内視鏡、病理検査などが必要である。

LDH高値を見てすぐに「がん」と考えるのではなく、他の検査や症状と合わせて総合的に判断する必要がある。

LDH高値と血液疾患

LDHは血液疾患で高くなることがある。

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、溶血性貧血などでは、細胞の増殖や破壊、腫瘍量、溶血などによりLDHが上昇することがある。

血液疾患を考える場合は、LDHだけでなく、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、血小板数、末梢血液像、貧血症状、発熱、寝汗、体重減少、リンパ節腫大などを確認する。

血液疾患で注意したいサイン

  • 貧血がある。
  • 白血球が著しく多い、または少ない。
  • 血小板が少ない。
  • 発熱が続く。
  • 寝汗がある。
  • 体重減少がある。
  • リンパ節が腫れている。

LDH高値に血算異常や全身症状を伴う場合は、血液内科での評価が必要になることがある。

LDH高値と肺・心臓・膵臓の病気

LDHは肺、心臓、膵臓などの病気でも上昇することがある。

肺炎、肺塞栓、間質性肺炎、心筋梗塞、膵炎などでLDHが高くなることがある。ただし、現在では心筋梗塞の診断にはトロポニンなど、より特異的な検査が用いられることが多く、LDHだけで判断することは少ない。

臓器 考えられる病気 一緒に見る検査・症状
肺炎、肺塞栓、間質性肺炎など 咳、息切れ、胸痛、酸素飽和度、胸部画像
心臓 心筋梗塞など 胸痛、心電図、トロポニン、CK-MBなど
膵臓 膵炎など 腹痛、アミラーゼ、リパーゼ、腹部画像

胸痛、強い息切れ、激しい腹痛を伴う場合は、LDH値に関係なく早急な受診が必要である。

LDHアイソザイムとは

LDHアイソザイムとは、LDHを種類別に分けて、どの臓器由来かを推定する検査である。

LDHには複数のアイソザイムがあり、臓器によって分布が異なる。以前は、原因臓器の推定にLDHアイソザイム検査が使われることがあった。

MedlinePlusは、LDHアイソザイム検査は組織障害の程度や臓器の推定に使われることがあるが、現在はより特異的な検査が使われることも多いと説明している。

アイソザイム 多い臓器・組織の例
LDH1 心筋、赤血球など
LDH2 白血球、赤血球など
LDH3 肺など
LDH4 腎臓、膵臓など
LDH5 肝臓、骨格筋など

LDHアイソザイムは原因推定に役立つことがあるが、現在はAST、ALT、CK、トロポニン、画像検査などと組み合わせて判断するのが一般的である。

LDHが低い場合

LDHが低いことは、通常大きな問題にならないことが多い。

MedlinePlusは、LDH低値は一般的ではなく、通常は健康上の問題とは考えられないことが多いと説明している。また、大量のビタミンCやビタミンE摂取で低値になることがあるとされる。

まれに、LDH欠損症という遺伝的な病気が関係することがあるが、一般的な健康診断で少し低いだけなら、通常は高値ほど問題視されない。

健診で注意されるのは、多くの場合LDH低値よりもLDH高値である。

LDH高値で再検査になる場合

LDHが高い場合、再検査で一時的な上昇かどうかを確認することがある。

採血時の溶血、激しい運動、感染症、軽い炎症などで一時的に高くなることがあるためである。再検査で正常化すれば、一時的な変動だった可能性がある。

一方、LDH高値が持続する場合、上昇幅が大きい場合、他の検査異常を伴う場合は、原因検索が必要になる。

再検査・追加検査を考える状況

  • LDH高値が持続している。
  • 前回より明らかに上昇している。
  • AST、ALT、CK、ビリルビン、血算にも異常がある。
  • 貧血、黄疸、発熱、体重減少などの症状がある。
  • LDHがかなり高い。

LDH高値の評価では、単回の数値だけでなく、推移を見ることが重要である。

LDH高値で追加される検査

LDH高値の原因を調べるには、疑われる臓器に応じて追加検査を行う。

LDHは非特異的な検査であるため、追加検査によって原因を絞り込む必要がある。

追加検査 目的
AST・ALT・ALP・γ-GTP・ビリルビン 肝臓・胆道系の評価
CK 筋肉障害の評価
血算 貧血、白血球異常、血小板異常の確認
ハプトグロビン・網赤血球・ビリルビン 溶血の評価
CRP 炎症や感染の評価
腎機能・尿検査 腎臓や尿路の評価
画像検査 症状や検査異常に応じて、エコー、CT、MRIなどを検討する。

LDH高値では「どの追加検査が必要か」を、症状と他の検査異常から決めることが重要である。

受診すべき症状

LDH高値に加えて、以下の症状がある場合は早めに医療機関で相談するべきである。

早めに受診すべき症状

  • 発熱が続く。
  • 体重が減っている。
  • 寝汗がある。
  • リンパ節が腫れている。
  • 強いだるさ、息切れ、動悸がある。
  • 黄疸、尿が濃い、白目が黄色い。
  • 強い筋肉痛、脱力、褐色尿がある。
  • 胸痛、息苦しさがある。
  • 強い腹痛がある。
  • 血液検査で貧血、白血球異常、血小板異常を指摘された。

LDHが少し高いだけで過度に不安になる必要はないが、症状や他の検査異常がある場合は放置しない方がよい。

よくある質問

LDHが高いとがんですか?

LDHが高いだけでがんとは言えない。LDHは肝疾患、筋肉障害、溶血、感染症、炎症、採血時溶血などでも上昇する。がんの診断には、症状、画像検査、血液検査、病理検査などが必要である。

LDHが少し高いだけでも再検査が必要ですか?

施設の判定や他の検査結果による。軽度高値で他の検査が正常なら、運動や採血時溶血などの一時的な要因を考えて再検査することがある。

LDHだけ高い場合はどう考えますか?

採血時の溶血、運動、軽い炎症、一時的な変動なども考える。再検査で確認し、持続する場合はAST、ALT、CK、血算などを追加して原因を調べる。

LDH高値は肝臓が悪いということですか?

肝疾患でもLDHは上がるが、LDHだけで肝臓が悪いとは判断できない。AST、ALT、ALP、γ-GTP、ビリルビンなどと合わせて見る必要がある。

運動でLDHは上がりますか?

激しい運動や筋肉損傷でLDHが上がることがある。筋肉由来かどうかを見るにはCKが重要である。

まとめ

LDHは、肝臓、筋肉、腎臓、赤血球、心臓、肺など全身の細胞に存在する酵素である。

LDHが高い場合、組織障害、炎症、溶血、肝疾患、筋肉障害、血液疾患、肺疾患、心疾患、感染症、悪性腫瘍など幅広い原因が考えられる。

LDHは非特異的な検査であり、LDHだけではどの臓器が悪いかはわからない。AST、ALT、CK、ビリルビン、血算、CRP、腎機能、尿検査、画像検査などと合わせて判断する必要がある。

採血時の溶血や激しい運動でもLDHが高くなることがあるため、軽度高値では再検査で確認することがある。

LDH高値が続く場合、上昇幅が大きい場合、貧血・黄疸・発熱・体重減少・リンパ節腫大・強い筋肉痛・褐色尿などがある場合は、医療機関で相談することが重要である。

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出典

  • MedlinePlus. Lactate Dehydrogenase (LDH) Test.
  • MedlinePlus. Lactate Dehydrogenase (LDH) Isoenzymes Test.
  • Cleveland Clinic. LDH (Lactate Dehydrogenase) Test.
  • StatPearls. Biochemistry, Lactate Dehydrogenase.