一度に全身を見られる検査として、がん検診として注目を集めるFDG-PET検査ですが、決して万能ではありません。PETでも見つけにくいがん、弱いがんが存在するのです。
つまり、それらの部位やがんについては別の検査を行う必要があります。
PET検査だけ受けておけば、がん健診は大丈夫というわけではないということです。
そこで今回は、
- PET検査の基礎
- PET検査が弱い、見つけにくいがんの種類と具体例、SUVとは
についてまとめました。
PET検査とは?原理は?
原子核は陽子と中性子から構成されます。
このとき、不釣り合いの陽子が多いと中性子になり、余った+の電荷、つまり陽電子(positron)が出されます。
この陽電子(positron)は非常に不安定なので、周りにある陰電子と衝突して消失します。
その際に消滅放射線のエネルギーが180°の方向に2本出ます。
それを対向する2つの検出器で計測します、これがPETです。
FDGとは?
PET検査で用いられる放射性薬剤のことで、糖(グルコース)と似ているけど少しだけ異なります。
下のようにOHの一つが18Fに変わっていますね。


下のように、グルコースつまり、糖は細胞の中に入ったあとは、代謝されていきますが、FDGの場合は途中で6リン酸化されたところで代謝が止まってしまい、細胞内にとどまる事になります。
つまり糖代謝が活発な細胞では、FDGが多くとどまることになります。
そして、以下のことが知られています。
つまり、悪性の腫瘍ほど、糖代謝が高い=FDGが集積する=PETで光るということです。
もちろん例外もありますが、一般的には悪いものが光るという認識で問題ありません。
がんがあるのにPET検査で検出しにくい(偽陰性を呈しやすい)悪性腫瘍とは?

PET検査にも苦手ながんがあります。
がんがあるのに、PET検査を受けても検出しにくいがんは以下の通りです。

- 細胞密度が低い癌
- G6Paseを持つ癌
- 等代謝の少ない癌
- 見えにくい場所に存在する悪性腫瘍
- 小さな癌
細胞密度が低い癌
- 癌性胸水
- 癌性腹水
- スキルス癌:ただし、胃がんの中では集積が強い傾向にあり。
- 白血病
- 嚢胞性の腫瘍
- 粘液性の腫瘍
- 壊死性病変
これらの癌は水などで薄められるため、細胞密度が低くなり、FDG-PET検査では検出しにくくなります。
G6Paseを持つ癌
- 分化型肝癌
- 一部の腎癌
Hexokinase活性は多くの腫瘍で活性亢進しているが、これらの腫瘍は亢進していないためです。
等代謝の少ない癌
- 分化型甲状腺乳頭癌の多発肺転移
- 肺腺癌(GGO主体のものは集積しにくい)
Hexolinase活性やGLUT活性の低いもの、つまり増殖が穏やかな悪性腫瘍がこれに該当しします。
症例 60 歳台の女性
2009年放射線科診断専門医試験70より引用改変
胸部CTで右の上葉にすりガラス影(GGO)主体の腫瘤を認めていますが、FDG PETでは集積は軽度のみです。
高分化型肺腺癌を疑う所見です。
見えにくい場所に存在する悪性腫瘍
例としては、
- 腎臓や膀胱などの生理的集積に埋もれてしまう腫瘍。
- 脳の生理的集積に比較して等代謝の低い脳腫瘍、
- 慢性胃炎の中に生じている小さな胃癌。
小さな癌
小さな癌でも見つけられるのが他の検査と比べてFDG-PETの強いところではありますが、当然小さすぎる癌は見つけられません。

SUVとは?(standardized uptake value)
体の比重を1とみなし、投薬した薬剤がすべて均一に体内に分布したと考えた場合の放射線濃度を1とした場合、組織の単位重量あたりの集積はその何倍にあたるかを示したものです。
SUV値を左右する因子は?
SUVが高いほど悪性のがんである可能性は高くなりますが、安易にSUVの値だけをみるのはよくありません。
というのは、この値は腫瘍の悪性度だけではなく、以下の要素によっても値が変わってしまうからです。
- 被験者の体格
- 静注から撮像までの時間(uptake time)
- 血糖値やインスリン値など
- 病変の大きさ
- 撮像装置の分解能・処理方法
- 生理的位置変動(呼吸性移動)
- 関心領域の取り方
特に体格や血糖値、インスリン値は重要です。
参考記事)PET検査の食事制限は?お酒は?
SUVが高い値なら悪性?がん?
このように、SUVは、さまざまな因子により値が変わってしまいます。
ですので、望ましい活用方法としては、人間ドックで経年変化を見る場合は、同じ施設で撮影したほうがよいですし、治療効果判定をチェックしたいときにも、同じ施設の同じ装置で撮影することです。
SUVは数値が高くなるほど、悪性の可能性は高くなりますが、SUVがいくらだから悪性と判断するのはダメだということです。
一緒ではありません。SUVが一緒でも意味が全く異なります。
また医師側の話になりますが、FDG-PETの画像を見る際には、SUVの値を絞ってみることが大事で、0-6SUVで見ることが多いようです。かといって0-3SUVと絞ると偽陽性が増えてしまいます。
逆に脳についてはもともとの生理的な集積が強いのでSUVを広げないと見れないといわれます。
PETでは生理的集積に注意
便利な検査ですが、いろいろ制約もあります。まず、検査前には4時間以上の絶食が重要です。
血糖値上昇するとインスリン分泌増加し、筋肉、脂肪のGLUT活性上昇し、筋肉に集積してしまい、相対的に腫瘍集積が低下してしまうからです。これでは、腫瘍があってもそれを検出できません。
- 血糖値上昇→腫瘍集積低下、バックグラウンド上昇、脳の生理的分布の低下。
- インスリン上昇→筋肉から脂肪組織への集積の上昇
また、生理的集積には注意が必要です。咳発作による、斜角筋や肋間筋に集積することがあるり、リンパ節と間違えないように注意することが必要です。
反回神経麻痺ある場合、逆の声帯運動が過剰となり、集積します。
症例 60 歳代の男性。食道癌の治療前精査を目的に FDG-PET/CT が施行された。
2016年放射線科診断専門医試験問題79より引用。
右頸部にリンパ節転移を認めており、それに伴う右反回神経麻痺→その結果左の声帯への集積が亢進しています。
また、褐色細胞組織(brown adipose tissue)にも集積します。頸部、鎖骨上部、縦隔、胸椎、肋骨周囲、腎周囲脂肪組織に含まれる。冬季、やせ形の若年者において時に集積するので注意が必要です。
女性の場合は、月経周期との関係にも注意が必要です。月経期は子宮に排卵期は卵巣、子宮に集積するからです。
以上は生理的な集積ですが、PETは良性疾患にも集積します。以下良性疾患への集積をまとめます。
- 黄色肉芽腫性胆嚢炎
- 痔核の硬化療法
- 活動性の炎症病変(膿瘍、結核、サルコイドーシス、放射線による炎症、皮下注射部位)
- 良性腫瘍(髄膜腫、下垂体腺腫、耳下腺腫瘍(ワルチン、多形腺腫)、大腸腺腫、甲状腺腺腫)
最後に
今回は、PET検査の原理から、メリット・デメリット、注意すべき点までまとめました。
非常に便利で優秀な検査ですが、万全ではありません。
他の検査と使い分けて総合的に判断していくことが重要です。
また、SUVや集積を過信してもいけません。
生理的な集積があったり、集積しにくいがんもあるので注意が必要ですね。
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