
一度に全身を見られる検査として、がん検診として注目を集めるFDG-PET検査ですが、決して万能ではありません。PETでも見つけにくいがん、弱いがんが存在するのです。
つまり、それらの部位やがんについては別の検査を行う必要があります。
PET検査だけ受けておけば、がん健診は大丈夫というわけではないということです。
そこで今回は、
- PET検査の基礎
- PET検査が弱い、見つけにくいがんの種類と具体例、SUVとは
についてまとめました。
- FDG-PETは、ブドウ糖に似た薬(FDG)が糖代謝の盛んな細胞に集まることを利用して、全身のがんを探す検査です。
- SUVは、FDGの集まり具合を数値にしたものです。高いほど悪性の可能性は上がりますが、SUVだけで良性・悪性は決められません。
- 脳・心臓・腎臓・膀胱、筋肉、褐色脂肪などには、病気がなくてもFDGが集まります(生理的集積)。
- 小さいがん、すりガラス状の肺腺がん、粘液性のがんなどは、PETでは見つけにくいことがあります。
- PET検査だけで、がん検診が十分とはいえません。他の検査と組み合わせて判断することが大切です。
PET検査とは?原理は?
原子核は陽子と中性子から構成されます。
このとき、不釣り合いの陽子が多いと中性子になり、余った+の電荷、つまり陽電子(positron)が出されます。
この陽電子(positron)は非常に不安定なので、周りにある陰電子と衝突して消失します。
その際に消滅放射線のエネルギーが180°の方向に2本出ます。
それを対向する2つの検出器で計測します、これがPETです。

FDGとは?
PET検査で用いられる放射性薬剤のことで、糖(グルコース)と似ているけど少しだけ異なります。
下のようにOHの一つが18Fに変わっていますね。

下のように、グルコースつまり、糖は細胞の中に入ったあとは、代謝されていきますが、FDGの場合は途中で6リン酸化されたところで代謝が止まってしまい、細胞内にとどまる事になります。
つまり糖代謝が活発な細胞では、FDGが多くとどまることになります。

そして、以下のことが知られています。
つまり、悪性の腫瘍ほど、糖代謝が高い=FDGが集積する=PETで光るということです。
もちろん例外もあり、光る=がんとは限りません。一般的には悪いものが光りやすいという理解になります。

検査前の食事制限が必要な理由は、PET検査の前の食事制限は?で解説しています。
がんがあるのにPET検査で検出しにくい(偽陰性を呈しやすい)悪性腫瘍とは?
PET検査にも苦手ながんがあります。
がんがあるのに、PET検査を受けても検出しにくいがんは以下の通りです。
- 細胞密度が低い癌
- G6Paseを持つ癌
- 糖代謝の低い癌
- 見えにくい場所に存在する悪性腫瘍
- 小さな癌
細胞密度が低い癌
- 癌性胸水
- 癌性腹水
- 嚢胞性の腫瘍
- 粘液性の腫瘍
- 壊死性病変
これらの癌は水分などで薄められるため、細胞密度が低くなり、FDG-PET検査では検出しにくいとされています。
G6Paseを持つ癌
- 分化型肝癌
- 一部の腎癌
これらの腫瘍は、FDGがリン酸化されたあとに分解する酵素(G6Pase)を持つため、FDGが細胞内にとどまりにくく、集積が弱くなるとされています。
糖代謝の低い癌
- 分化型甲状腺乳頭癌の多発肺転移
- 肺腺癌(GGO主体のものは集積しにくい。Liu 2018)
糖を取り込む力(GLUTなど)が低いもの、つまり増殖が穏やかな悪性腫瘍がこれに該当します。
症例 60 歳台の女性

2009年放射線科診断専門医試験70より引用改変
胸部CTで右の上葉にすりガラス影(GGO)主体の腫瘤を認めていますが、FDG PETでは集積は軽度のみです。
高分化型肺腺癌を疑う所見です。
見えにくい場所に存在する悪性腫瘍
例としては、
- 腎臓や膀胱などの生理的集積に埋もれてしまう腫瘍。
- 脳の生理的集積に比較して等代謝の低い脳腫瘍、
- 慢性胃炎の中に生じている小さな胃癌。
小さな癌
小さな癌でも見つけられるのが他の検査と比べてFDG-PETの強いところではありますが、当然小さすぎる癌は見つけられません。日本の全国調査でも、PETによるがん検診では、小さいがんや浸潤の少ないがんの発見は限られていました(Minamimoto 2014)。

SUVとは?(standardized uptake value)
体の比重を1とみなし、投薬した薬剤がすべて均一に体内に分布したと考えた場合の放射線濃度を1とした場合、組織の単位重量あたりの集積はその何倍にあたるかを示したものです。
SUV値を左右する因子は?
SUVが高いほど悪性のがんである可能性は高くなりますが、安易にSUVの値だけをみるのはよくありません。
というのは、この値は腫瘍の悪性度だけではなく、以下の要素によっても値が変わってしまうからです。
- 被験者の体格
- 静注から撮像までの時間(uptake time)
- 血糖値やインスリン値など
- 病変の大きさ
- 撮像装置の分解能・処理方法
- 生理的位置変動(呼吸性移動)
- 関心領域の取り方
特に体格や血糖値、インスリン値は重要です。
参考記事)PET検査の食事制限は?お酒は?
SUVが高い値なら悪性?がん?
このように、SUVは、さまざまな因子により値が変わってしまいます。
ですので、望ましい活用方法としては、人間ドックで経年変化を見る場合は、同じ施設で撮影したほうがよいですし、治療効果判定をチェックしたいときにも、同じ施設の同じ装置で撮影することです。
SUVは数値が高くなるほど、悪性の可能性は高くなりますが、SUVがいくらだから悪性と判断するのはダメだということです。

同じSUVの値でも、病変の種類によって意味は異なります。
また医師側の話になりますが、FDG-PETの画像を見る際には、表示するSUVの幅の設定によって見え方が変わるため、臓器や病変に応じて調整します。脳はもともと生理的な集積が強いため、幅を広げて観察します。
PETでは生理的集積に注意
便利な検査ですが、いろいろ制約もあります。まず、検査前には、施設の指示に従った絶食が重要です。
血糖値上昇するとインスリン分泌増加し、筋肉、脂肪のGLUT活性上昇し、筋肉に集積してしまい、相対的に腫瘍集積が低下してしまうからです。これでは、腫瘍があってもそれを検出できません。
- 血糖値上昇→腫瘍集積低下、バックグラウンド上昇、脳の生理的分布の低下。
- インスリン上昇→筋肉から脂肪組織への集積の上昇
また、生理的集積には注意が必要です。咳発作による、斜角筋や肋間筋に集積することがあるり、リンパ節と間違えないように注意することが必要です。
反回神経麻痺ある場合、逆の声帯運動が過剰となり、集積します。
症例 60 歳代の男性。食道癌の治療前精査を目的に FDG-PET/CT が施行された。

2016年放射線科診断専門医試験問題79より引用。
右頸部にリンパ節転移を認めており、それに伴う右反回神経麻痺→その結果左の声帯への集積が亢進しています。
また、褐色細胞組織(brown adipose tissue)にも集積します。頸部、鎖骨上部、縦隔、胸椎、肋骨周囲、腎周囲脂肪組織に含まれる。寒い環境で集積が目立つことがあり、注意が必要です(Erba 2022)。
女性の場合は、月経周期との関係にも注意が必要です。月経期は子宮に排卵期は卵巣、子宮に集積するからです。
以上は生理的な集積ですが、PETは良性疾患にも集積します。以下良性疾患への集積をまとめます。
- 黄色肉芽腫性胆嚢炎
- 痔核の硬化療法
- 活動性の炎症病変(膿瘍、結核、サルコイドーシス、放射線による炎症、皮下注射部位)
- 良性腫瘍(髄膜腫、下垂体腺腫、耳下腺腫瘍(ワルチン、多形腺腫)、大腸腺腫、甲状腺腺腫)

ワクチン接種後に脇のリンパ節が光る例は、PET検査でインフルエンザワクチン接種後にリンパ節へFDG集積?で紹介しています。
PET検査はがん検診として十分?
日本で行われたFDG-PETのがん検診の全国調査(約15万人)では、肺がんは早期で発見されていましたが、小さいがんや浸潤の少ないがんの発見は限られていました(Minamimoto 2014、肺がん)。大腸については、PETでは大腸ポリープ・がんをすべて見つけることはできず、便潜血検査との併用が補い合う関係とされています(Minamimoto 2014、大腸)。PET検査は便利な検査ですが、他のがん検診と組み合わせて考えるのが基本です。
肺がんでのPETの得意・苦手は、PET検査で肺がんはわかる?PET/CTでわかること・限界・検査の流れでくわしく解説しています。
大腸がんでのPETの見え方は、PET検査で大腸がんはわかる?進行がんや転移は見えやすく、早期がん・ポリープは見逃されやすいでまとめています。
FDG-PETのよくある疑問
Q. SUVがいくつなら悪性ですか?
SUVには、悪性と良性を分ける決まった境目はありません。体格、血糖値、撮影のタイミング、病変の大きさなどで値が変わるため、画像全体とあわせて医師が判断します。
Q. 検査前の絶食はなぜ必要ですか?
血糖値が上がるとインスリンが分泌され、FDGが筋肉などに集まってしまい、相対的にがんへの集積が下がるためです。詳しくはPET検査の食事制限は?お酒は?をご覧ください。
Q. 検査でPETが「光った」ら、がんですか?
そうとは限りません。炎症や良性腫瘍、生理的な集積でも光ることがあります。気になる結果があれば、医療機関で精密検査を受けましょう。
参考文献(PubMed):
Minamimoto R, et al. Detection of lung cancer by FDG-PET cancer screening program: a nationwide Japanese survey. Anticancer Res 2014(PubMed)
Minamimoto R, et al. Detection of colorectal cancer and adenomas by FDG-PET cancer screening program: results based on a nationwide Japanese survey. Ann Nucl Med 2014(PubMed)
Liu Y. Lung Neoplasms with Low F18-Fluorodeoxyglucose Avidity. PET Clin 2018(PubMed)
Erba PA, et al. (18)F-FDG Uptake in Brown Adipose Tissue After Exposure to the Cold. J Nucl Med 2022(PubMed)
最後に
今回は、PET検査の原理から、メリット・デメリット、注意すべき点までまとめました。
非常に便利で優秀な検査ですが、万全ではありません。
他の検査と使い分けて総合的に判断していくことが重要です。
また、SUVや集積を過信してもいけません。
生理的な集積があったり、集積しにくいがんもあるので注意が必要ですね。






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