人間ドックや健康診断などで頭部CTやMRIといった画像診断を受けた時に、
「年齢不相応な脳萎縮」
と記載されることがあります。
実は、この脳萎縮とは、非常に診断が難しいものです。
というのは脳の萎縮は、
- 加齢により起こる。
- 個人差もある。
からです。
つまり、「脳萎縮がある」と診断するには、この両者を考えてもやはり異常な萎縮だ!と判断しなければならないからです。
この脳萎縮は、正常であっても加齢と共に起こりますが、それ以外にも様々な原因で起こります。
今回は脳萎縮(英語で「Brain atrophy」)について、
- そもそも脳萎縮とは何なのか
- 脳萎縮の症状
- 原因
- 画像所見
- 脳萎縮は回復するのか?
といったところについて実際の画像を交えながら、ご説明していきたいと思います。
脳萎縮とは?
脳が年齢相応よりも小さくなる(萎縮する)ことを脳萎縮といいます。
人間の脳(細胞)は生まれて3歳までに80%が完成するといわれ、全体的な完成は20歳頃になります。
しかし30歳頃から、年をとるごとに徐々に脳が萎縮し、60歳を過ぎると画像検査で見てわかるほどになります。
この脳萎縮のスピードには個人差があり、脳の部位によっても異なります。一般的に加齢による脳萎縮は
に目立つとされています。
百聞は一見に如かず!ということで実際のCT画像を見てみましょう。
どうですか?
いずれも正常な方の頭部CTのほぼ同じ部位での断面像です。
若い人ほどみっちり詰まっていて、加齢とともに脳の溝が開いて、脳室と呼ばれる中心部の黒い部位の面積が増えているのがわかります。
正常であっても、加齢によりこの程度は脳の体積は減少する、つまり萎縮するということを覚えておきましょう。
こちらの実際のCT画像はこちらからご覧いただけます。(PCやタブレット端末で開いてください。)
病的な脳萎縮と診断するには、この加齢に伴う脳萎縮のスピードを超えた脳萎縮であると判断しなければなりません。
そしてこの脳萎縮は年齢的な要素に関係なく後述するように様々な原因で起こります。
脳萎縮の症状は?
では、脳萎縮には自覚症状があるのでしょうか?
- 物忘れ
- 前日の食事を思い出せない
- 言葉が出てこない
ふとした物忘れや、前日の食事内容を思い出せなかったり、今言おうとした言葉が出てこないといった症状があらわれます。
これらの症状は、脳萎縮にともなう認知症の症状の可能性があります。
放置していると、症状は治るどころか徐々に進行します。
物忘れがさらにひどくなり、幻聴・幻覚・妄想などにより統合失調症もあらわれ、人格変化が起こります。
また、排泄が正しい場所でできないといった、人間が人間らしくいるための行動ができなくなったりします。
脳萎縮の原因は?
加齢が関係するということはご説明しましたが、それ以外にも脳萎縮には原因があります。
- 加齢
- 過度なアルコール摂取
- 喫煙
- 過度なダイエット
- 過度なストレス
- 血行不良
- 脳疾患
アルコール
アルコールは適度な量は問題ありませんが、飲み過ぎは脳の神経細胞を障害することになり、この神経細胞が減ると脳の萎縮につながります。
これには、アルコールの成分であるエタノールの一次性(直接性)障害、メタノールによる両側被殻の出血性壊死が関係します。
さらに、アルコールによる脳の病気には以下のものがあります。
慢性アルコール依存症で認められうる脳の病気
- 大脳びまん性萎縮(最多)
- アルコール性小脳変性症:小脳の萎縮
- ウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)
- 浸透圧性脱髄症
- Marchiafava-Bignami症候群:脳梁
喫煙
また喫煙によりニコチンが血管や毛細血管を収縮させ、それが詰まりにもなり、脳に十分な酸素が運ばれなくなる可能性があります。
脳が酸欠状態となると、萎縮を引き起こすこともあります。
ダイエット・拒食症
過度なダイエットや拒食症による栄養不足も、脳に十分な栄養が行き届かない原因になります。
ストレス
ストレスは感じる人によって個人差がありますが、過度なストレスで脳の海馬の萎縮につながるということがわかっています。
このストレスによる脳萎縮は、大人だけでなく、成長期の子供にもあらわれます。
子供の場合は、虐待やネグレクトやいじめなどが大きな精神的ストレスになるといわれています。
血行不良
近年増加傾向にあるのが、スマホやipadなどの利用の増加にともなう血行不良です。
姿勢の悪い状態が長く続くと、それが血行不良になり、脳に運ばれる酸素も低下するといわれています。
この血行不良につながる原因は、姿勢以外に運動不足やストレスも関係します。
その他
上記以外にも、怒りっぽい人や絵やスポーツに興味がない人、他人との接触が少ない人も脳萎縮が早くなる傾向にあります。
脳疾患
脳疾患によって脳萎縮をともなうこともあります。
- アルツハイマー病(Alzheimer病)
- 脳挫傷(慢性期)
- 頭部外傷
- 脳浮腫
- 脳炎
- HIV感染症
- 脳梗塞(小児・若年者)
- 低酸素脳症
- 水頭症
- くも膜下腔拡大
- 脳動静脈奇形(AVM)
- 微小血管病変
- 脳アミロイドアンギオパチー
- 多発性硬化症
- スタージ・ウェバー症候群
- キアリ奇形Ⅰ型
- 大脳皮質基底核変性症
- 脊髄小脳変性症
- クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD:Creutzfeldt-Jakob病)
といったものが脳萎縮の原因となります。
脳萎縮の診断は?CT、MRI画像は?
脳萎縮の診断には、CTやMRIによる画像診断が有用です。
萎縮がある場合は、頭蓋骨と脳の間に隙間が確認できます。
症例 60歳代男性 脳幹出血後
MRIのFLAIR像において、橋(きょう)の著明な萎縮を認めています。出血後の萎縮が疑われる所見です。
症例 40歳代男性 脊髄小脳変性症
年齢の割に、小脳半球の両側の萎縮が目立ちます(脳溝がここまで開いているのはこの年齢では正常範囲ではありません。)。脊髄小脳変性症と診断されています。
症例 40歳代 女性 脳性麻痺
MRIにおいて、左の大脳半球は広範に萎縮しています。右上下肢の麻痺があり、脳性麻痺と小児期より診断されています。
脳萎縮は回復する?
残念ながら現代医学では、萎縮した脳を元通りに戻すことはできません。
ですが、脳萎縮の進行を食い止めることや予防は可能です。
原因となるものを解消することが進行を遅らせることや予防にもなります。
- 禁酒(量を減らす)
- 禁煙
- 食生活の見直し
- 適度な運動
- 入浴
- ストレス解消
- 十分な睡眠
- 絵や読書を楽しむ
禁酒によってストレスを増加させる可能性もありますし、適度な量(350ml1缶ほど)を守ることでも効果はあります。
また、野菜や果物、青魚などビタミンの多い食材を摂ることもオススメです。
疲れを残さない程度の運動(ジョギングやスイミングなど)、入浴や十分な睡眠は血行不良を改善します。
自分に合ったストレス解消法を見つけることも大切ですし、絵や活字など目から入る情報で脳を鍛えるのもよいでしょう。
また、薬物療法(対処療法)として抗うつ剤を使用することもあります。
最後に
- 脳萎縮となると、物忘れなどの認知症状があらわれる
- 加齢・過度なアルコール摂取・喫煙・過度なダイエット・過度なストレス・血行不良・脳疾患などが原因となる
- MRIによる画像診断が有用
- 萎縮した脳は回復しない
- 原因を解消することが進行を遅らせることにも、予防にもなる
脳の萎縮は、以上のことからも高齢の人にだけ起こることではないといったことがお分りいただけたかと思います。
近年、若年性認知症も増加しています。
予防法を頭に入れ、毎日の生活の中で注意していきましょう。