
ヘルペスというと、口の端に出来て、体力の弱っている時などに出ることが多いという認識の人が多いと思います。ですが、一口にヘルペスと言っても様々な種類があり、中にはこのヘルペスによって重篤な症状を起こしてしまう、単純ヘルペス脳炎というものがあります。
今回はこの単純ヘルペス脳炎について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療法
をご説明したいと思います。
- 単純ヘルペス脳炎は、単純ヘルペスウイルス(主に1型)が脳に感染して起こる脳炎で、日本でも代表的な散発性(流行しない)のウイルス性脳炎です。
- 発熱、頭痛、嘔吐に加え、意識の変化、けいれん、人格変化や異常な言動が出ることがあります。
- MRIで側頭葉を中心とした病変を確認し、髄液検査(ヘルペスウイルスのDNA検査など)で診断します。
- 治療は抗ウイルス薬(アシクロビルなど)の点滴で、早く始めることが大切です。疑われたら、検査結果を待たずに治療が始まることもあります。
- 発熱に意識の変化・けいれん・異常な言動が加わったときは、すぐに救急受診してください。
単純ヘルペス脳炎とは?
単純ヘルペス(HSV)が原因で起こる脳炎で、日本でも代表的な散発性(流行しない)ウイルス性脳炎です。
年齢関係なく起こり、抗ウイルス薬の登場により経過は以前より改善されたものの、いまも死亡や重い後遺症が残ることのある病気で、早期治療が最も大切です。
単純ヘルペス脳炎の症状は?
初期症状
- 発熱
- 頭痛
- 嘔吐
- 記憶障害
- 精神症状
- 軽度意識障害
が現われます。人格変化や異常行動、幻覚などが多く認められ、精神科を受診する人が珍しくありません。しかし、症状は数時間で軽度の意識障害から深い昏睡状態へと移行することもあります。
この症状と同時に項部硬直症状が見られますが、精神症状の有無が髄膜炎との鑑別ポイントでもあります。

経過症状
- 意識障害
- 髄膜刺激症状
- 痙攣
- ミオクローヌス
痙攣は高頻度に見られ、一過性のミオクローヌスが見られることもあります。この悪化する前の段階で治療を開始するのが改善への鍵となります。

発熱や頭痛で髄膜炎と区別したいときは、細菌性髄膜炎の症状・診断・治療法のまとめ|原因菌と救急受診の目安で解説しています。
単純ヘルペス脳炎の原因とは?
単純ヘルペスウイルス1型による潜伏感染が原因です。また、新生児の母体からの産道感染もあり、その場合は単純ヘルペスウイルス2型によるものです。
単純ヘルペスウイルス1型は、口唇ヘルペスが、2型は性器ヘルペスがあり、ほとんどは1型が急性ウイルス性脳炎を引き起こします。
ヘルペスウイルスは、初感染後神経節に潜伏し、免疫力が低下した時に再発を繰り返します。特に三叉神経節などに潜伏したウイルスが再活性化して神経を上行して発症すると考えられています。
単純ヘルペス脳炎の診断は?
- CT・MRI検査
- 脳波検査
- 脊髄液検査
以上の検査方法があります。
CT・MRI検査
側頭葉を中心とした部位に病巣を確認します。特にMRI画像の方が鮮明に確認出来るため、早期検出が可能です。辺縁脳炎の画像所見を示すこともあり、非ヘルペス性急性辺縁脳炎との鑑別が重要です。
T2WI、FLAIRにて高信号を示し、出血を伴う場合もあります。
脳波検査
早期の段階から一側性もしくは両側性の周期性てんかん型放電が、前頭部や側頭部に見られます。これは単純ヘルペス脳炎で見られることのある特徴的な所見です。
脊髄液検査
糖は正常なものの、圧上昇、単核の細胞数、蛋白と共に増加します。髄液中のヘルペスウイルスのDNAを調べる検査(PCR検査)で診断を確定しますが、発症の早い時期には結果が陰性になることもあるため、疑わしい場合は検査結果を待たずに治療を始めることがあります。

髄液検査でわかる別の髄膜炎として、結核性髄膜炎とは?症状・髄液検査・MRI・治療法をわかりやすく解説もあわせてご覧ください。
単純ヘルペス脳炎の治療法とは?
薬物療法が一般的です。
抗ウイルス薬の
- アシクロビル
- ビダラビン
などの点滴治療が行われ、アシクロビルが標準的に用いられます(Solomon 2026)。

また、対処療法として
- 抗脳浮腫薬にはグルセロール(濃グリセリン)
- 抗痙攣薬にはジアゼパム・フェノバルビタール
- 副腎皮質ステロイドが抗ウイルス薬に併用されることがあります
副腎皮質ステロイドの併用が経過をよくするかどうかは、はっきりしていません。2026年に発表された英国の臨床試験では、デキサメタゾンを加えても、26週後の言語記憶の成績に差はありませんでした(Solomon 2026)。使うかどうかは医師が判断します。
最後に
- 初期段階では、髄膜炎に似た症状に加え、精神症状、記憶障害、軽度意識障害が現れる
- 進行すると、意識障害や髄膜刺激症状、痙攣やミオクローヌス症状が現れる
- 単純ヘルペスウイルスが原因
- CT・MRI、脳波検査、脳脊髄液検査を行い診断
- 薬物療法が一般的で、症状に合わせ対処療法も行われる
抗ウイルス薬によって以前よりは経過が改善されたといっても、早期治療開始がポイントで、初期症状の段階から治療を開始する必要があります。
また、人格変化やてんかんなど、後遺症として残ることもあります。そのため、リハビリ治療も必要となります。
よくある疑問
Q. 口唇ヘルペスができると脳炎になりますか?
A. 口唇ヘルペスのある方の多くは脳炎になりません。脳炎はまれな病気です。ただし、発熱とともに意識の変化やけいれんが出たときは、すぐに受診してください。
Q. 髄膜炎との違いは何ですか?
A. どちらも発熱や頭痛が出ますが、単純ヘルペス脳炎では人格変化や異常な言動、記憶障害などの精神症状が目立つことがあるのが違いのひとつです。診断は髄液検査などで行います。
Q. どの科を受診すればよいですか?
A. 意識の変化やけいれんがあるときは救急外来を受診してください。経過をみて診る診療科は、神経内科や脳神経内科、小児では小児科です。
参考文献
- Solomon T, et al. Safety and efficacy of adjunct dexamethasone in adults with herpes simplex virus encephalitis in the UK (DexEnceph): a multicentre, observer-blind, randomised, phase 3, controlled trial. Lancet Neurol 2026. PubMed





