肺は、私たちの命を維持する為に欠かす事の出来ない呼吸を司る重要な臓器です。
その肺の呼吸機能を検査するために用いられている計測機器が『スパイロメーター』ですが、このスパイロメーターを用いた生理検査を「スパイロメトリー(spirometry)」といいます。
今回はスパイロメーター(英語表記で「Spirometer」)について
- どんなものなのか
- 検査でわかる項目
- 原理
- 使い方
などを説明していきます。
スパイロメーターとは?
スパイロメーターとは、呼吸機能を検査する為の医療機器のことです。
この呼吸機能検査(測定方法)のことを、スパイロメトリー(英語表記で「 spirometry」)ともいいます。
スパイロメトリーは、呼吸機能の全体像を把握することができる基本的な検査であり、人間ドックなどでも行われる検査です。
具体的には、肺に出入りする空気の換気機能のレベルを調べ、
- 肺の働き
- 気管支喘息
- 肺気腫
など、肺の病気が疑われる疾患がないかを調べる検査にスパイロメーターは用いられます。
メーカーによって多少形は異なりますが、スパイロメーターの本体部分には、流量計・マイクロコンピュータ・プリンター・液晶ディスプレイなどがあり、それに付属したチューブとマウスピースがあります。
スパイロメーターの種類
- 上記でご説明した本体とチューブ、マウスピースがついたもの
- スマホのような形状のものにマウスピースがついたもの
- パソコンと繋がったもの
など、さまざまです。
ですが、形状は異なっても、上記のような原理・方法で行われるというのはほとんど変わりません。
スパイロメーターでわかる(測定できる)項目は?
- 肺活量
- %肺活量
- 努力性肺活量
- 一秒量
- 一秒率
肺活量(VC)
空気を胸一杯に深く吸い込んだ後に、それをすべて吐き出し、それによりどれ程の空気を吐き出したかをチェックします。
VC(vital capacity)と呼ばれます。
努力性肺活量(FVC)
空気を肺一杯に吸い込み、最大の速度で一気に吐き出した空気の量を調べるもので、FVC(forced vital capacity)と呼ばれます。
一秒量(FEV1)
努力性肺活量で、最初の1秒間に吐き出された空気の量を調べるもので、FEV1(forced expiratory volume in 1 sec)と呼ばれます。
一秒率(FEV1%)
努力性肺活量(FVC)に対しての一秒量(FEV1)の比率を調べます。
FEV1/FVCで計算され、Ganslerの1秒率やFEV1%と呼ばれます。
この値が70%を切る場合、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような閉塞性換気障害があると診断されます1)。
%肺活量(%VC)・%FEV1・%PEF
性別と年齢、体格(身長、体重、体表面積)などから予測値を求め、
- %肺活量(%VC)
- %FEV1(対標準1秒量)
- %PEF
などの対標準指標を計算することができます。
とくに%FEV1と%PEFは、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期管理において重要な指標となります。
また、治療過程においては、その治療効果を調べる事にも使用されます。
換気機能の異常をチェックするのに重要な項目は?
色々項目が出てきて、ややこしいと思いますが、換気機能異常の有無を測定にするには、
- %肺活量(%VC)
- 1秒率(FEV1%)
の2項目が重要です。
- %肺活量(%VC)が80%未満→拘束性換気障害(間質性肺炎・じん肺・結核後遺症・肺切除後・胸水・腹水・妊娠など)
- 1秒率(FEV1%)が70%未満→閉塞性換気障害(気管支喘息・肺気腫・慢性気管支炎など)
- 両方当てはまる→混合性換気障害(上記の混合疾患)
と判断します2)。
スパイロメーターで測定できない項目は?
逆に、スパイロメーターでは測定できない項目が以下です。
- 残気量
- 機能的残気量
- 全肺活量
残気量は息をすべて吐き出した後の、肺に残る空気の量のことです。
これはスパイロメーターでは測定することができないため、残気量を含む機能的残気量、全排気量も測定できません。
スパイロメーターの原理とは?
肺の呼吸機能が十分な働きをするためには、口から肺胞までの換気・肺胞や末梢でのガス交換などが重要で、このスパイロメーターは、口から肺胞までの換気を調べる検査です。
(肺胞や末梢でのガス交換を調べるのは、ガス交換機能検査をおこなう。)
上記で説明した項目が呼吸機能検査(スパイロメトリー)をやることで分かり、その結果が下のようにスパイロプログラムとして出ます。
※スパイロメーターを使った測定結果の図を、スパイログラム(英語表記で「 spirogram」)と言います 。
スパイロメーターは一度だけおこなうのではなく、安静時呼吸(自然に無理のない呼吸)・吸気(吸う力)・努力性呼気(頑張って吹き出す力)を調べます。
それによってフロボリューム曲線というものが得られ、スパイロプログラムと合わせて測定します。
このフロボリューム曲線のパターンを見ることで、どんな問題(疾患)が隠れているのかを探ります。
スパイロメーターの使い方は?
使い方は、鼻をノーズクリップで挟み、呼吸管を接続したマウスピースを口にくわえて、一度吸ったら思いっきり息を吐くだけです。
STEP①
- 鼻をノーズクリップで挟み、呼吸管を接続したマウスピースを口にくわえる
- その後、静かな呼吸を何度か繰り返し行い、一度目は大きく息を吐き出す
- そして次に、息を深く大きく吸い込み、さらに大きくもう一度息を吐き出す
同じ事を2〜3回繰り返し行ないます。
STEP②
次に、努力性肺活量、一秒量の測定を行ないます。
呼吸の量はグラフに表示され、一秒量を測り、一秒率の計算をします。
これらの検査は、大体10分程で終わります。
また、検査による痛みなどは全くありません。
この検査ではマウスピースを使用しますが、これを使い息を吐き出す事は、最初は困難な事もあり、正確な数値が出ない事もあります。
その為、より正確な数値を出す為に、数回の練習をする事が多いです。
練習の後は、一時的ですが酸欠状態になる事もありますので、安静に出来る時間を取り、その後本番の検査となります。
(医療機関により異なります。)
参考文献:
1)よくわかる検査数値の基本としくみP178・179
2)3)最新 健康診断と検査がすべてわかる本P150・151
病気がみえる vol.4:呼吸器 P58~63
新 病態生理できった内科学 2呼吸器疾患 P60~65
最後に
スパイロメーターについて、ポイントをまとめます。
- 呼吸機能を検査する為の医療機器
- 肺の病気が疑われる疾患がないかを調べる検査
- さまざまな形はあるが、機能は同じ
- 肺活量・努力性肺活量・一秒量・一秒率などがわかる
- 肺の病気の可能性を診断でき、その重症度などの判断にも役立つ
- 口から肺胞までの換気を調べる検査
- 鼻をノーズクリップで挟み、呼吸管を接続したマウスピースを口にくわえて、一度吸ったら思いっきり息を吐く
注意点としては、この検査だけで病気を診断することはできません。
この検査で肺の疾患の疑いを拾い上げ、さらに詳しく画像検査や血液検査などをおこなう必要があります。