本来尿管から膀胱、尿道と経て排泄する尿の流れですが、それとは逆に上へと細菌が(逆行性に)感染をきたし、腎盂や腎臓が感染を起こした状態を腎盂腎炎(読み方は「じんうじんえん」、英語表記でPyelonephritis)と言います。
腎臓からさらに血流に乗って、全身に細菌が回ることもあり、重症の場合、腎盂腎炎は命に関わる病気の一つとも言えます。
今回は、腎盂腎炎について
- 原因
- かかりやすいリスク
- 症状
- 診断
- 治療(抗生物質は何を使うのかを含めて)
についてまとめました。
腎盂腎炎とは?その原因は?
腎盂腎炎とは、腎盂〜腎臓が細菌感染した状態を指します。
腎盂腎炎は、上に述べたように細菌が、尿管を上行性に感染する上行性が最多ですが、それ以外にも
- 血行性:血流に乗って腎臓に到達してそこで感染する。
- リンパ行性:リンパに乗って感染する。
といったタイプもあります。
原因の菌は大腸菌が最多で、ついで腸球菌、クレブシエラ、プロテウスと続きます。
ただし、院内感染では、MRSAなどの日和見感染も増えています。
尿路感染を引き起こす基礎疾患・原因とは?
尿路感染を引き起こす基礎疾患・原因には以下のようなものがあります。
- 尿路結石
- 膀胱尿管逆流
- 水腎症
- 前立腺肥大
- 神経因性膀胱
- 尿管奇形
- 膀胱留置カテーテル
尿の流れを妨げる基礎疾患があれば、当然感染のリスクも高くなりますし、重症化しやすいといえます。
ですので、腎盂腎炎は、尿路を妨げるような基礎疾患がある場合とない場合で分けることができます。
尿路基礎疾患がある場合を複雑性腎盂腎炎、ない場合を単純性腎盂腎炎と言います。
腎盂腎炎の多くは単純性で、性的活動期の女性に多く認められます。
一方で複雑性は頻度が少ないですが、高齢者や小児に見られる傾向があり、かつ基礎疾患があるため腎盂腎炎を繰り返し、慢性の経過をとることが多いとされます。
腎盂腎炎の症状は?
腎盂腎炎の症状には、
- 発熱
- 腰背部痛・腹痛
- 悪心・嘔吐
- 腰背部叩打痛(CVA tenderness)
- 頻尿
- 食欲不振
といったものが挙げられます。
発熱を除くこれらの症状は、尿管結石でも認められることがあり、注意が必要です。
尿路結石とは治療が異なる(腎盂腎炎の場合は、感染症であり抗生物質が必要になる)ので、安易に尿路結石だろうと早とちりしないことが重要です。
腰背部叩打痛(CVA tenderness)とは?
腰背部叩打痛(CVA tenderness)とは、肋骨脊椎角(costovertebral angle)と呼ばれる背中の部分を叩いた時に痛みが出るかどうかをチェックする診察方法で、以下の動画のように行います。
腰背部叩打痛は肋骨脊椎角叩打痛とも呼ばれます。
腎盂腎炎や尿管結石においても、叩くことで痛みが出ることがあります。
腎盂腎炎の診断は?
腎盂腎炎の診断には、上にあげた症状、腰背部疼痛/叩打痛(CVA tenderness)と行った診察結果に加えて、
によりされることが多いですが、エコーやCT検査などの画像検査が行われることもあります。
ただし、これらの画像検査で異常がないからといって、腎盂腎炎を否定することはできず、あくまで補助診断として用いられます。
腎盂腎炎のCT所見は?
腎盂腎炎を起こした場合、CTでは、
- 腎臓の腫大
- 腎臓周囲の脂肪織濃度上昇・Gerota筋膜の肥厚
- 造影CTでの斑状・楔状の造影不良域
として描出されます。(されることがあります。)
尿管結石などの基礎疾患がある場合などには、腎盂が拡張した水腎症として描出されることもあります。
症例 20歳代女性 発熱、右腰痛
造影CTで右腎の上極内側に楔型の造影不良域を認めています。
他の所見と合わせて、急性腎盂腎炎と診断されました。
腎盂腎炎の画像所見についてはこちらに詳しくまとめました。→急性腎盂腎炎・AFBN・腎膿瘍のCT画像所見まとめ!
腎盂腎炎はなぜ怖い?
軽い膀胱炎などと異なり、同じ尿路感染症であっても、特に複雑性の腎盂腎炎の場合、重症化することがあるので注意が必要です。
- 尿路感染→血液に細菌が移行(敗血症)→DIC→多臓器不全→死
という転機を取る可能性があります。
尿路感染から敗血症に陥ることをウロセプシスとも呼ばれます。
このような場合は入院の上、経口ではなく、点滴による抗生物質の投与が必要となります。
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腎盂腎炎の治療は?
点滴などで水分摂取量を多くすると同時に、抗生物質により治療します。
痛みがある場合などには鎮痛薬が処方されることがあります。
治療は、場合によっては入院が必要となります。
特に尿路基礎疾患がある複雑性の腎盂腎炎の場合や、敗血症への移行が疑われる腎盂腎炎の場合は入院が必要となります。
抗生物質は何を用いる?
- 経口薬の場合:アンピシリン、セファロスポリン系薬剤、ST合剤など
- 点滴薬の場合:セファロスポリン系薬剤、アミノグリコシド系薬剤など
が用いられます。
- セフトリアキソン 2g + 生食100ml 24時間ごと
- アンピシリン 1g+ 生食100ml 6時間ごと + ゲンタマイシン 240mg +生食100ml 24時間ごと
- シプロフロキサシン300mg +生食100ml 12時間ごと
腎盂腎炎の治療の注意点は?
抗生物質などの投与により解熱し、症状が消失してもその後1-2週間は抗生物質を投与し、尿の培養検査で陰性となり、尿が完全に改善することを確認しなければなりません。
また腎盂腎炎の治療を開始して、3日以上発熱が持続する場合は、再度画像検査で、閉塞機転がないか、腎膿瘍を形成していないかなどの検索が必要となります。
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最後に
今回は腎盂腎炎についてまとめました。
腎盂腎炎は場合によっては命に関わる重大な病気の一つです。
特に尿路結石などの尿路基礎疾患がある人は、入院による治療が必要となることがあります。
いつもの軽い膀胱炎だろうなどと安易に考えないことが重要です。