突然の激しい上腹部の激痛があらわれ、起き上がっていられないほどの痛みで救急車を呼ぶことも・・・
そんな症状が出現した場合、それは消化管穿孔かもしれません。
消化管穿孔とは、消化管に穴が開いた状態です。
消化管内の食物などがお腹の中に漏れ出てしまうと、重篤な腹膜炎になることもあります。
今回は消化管穿孔(読み方は「しょうかかんせんこう」)について
- 原因
- 診断
- 治療法
について、分かりやすく説明します。
消化管穿孔とは?
消化管に穴が開くことを、消化管穿孔といいます。
消化管穿孔となると、腸管の内容物が腹腔内に漏れだすために腹膜炎(読み方は「ふくまくえん」)を起こし、命に関わることがあります。
(腹膜炎になるとそこから敗血症→多臓器不全となりうるため、命に関わることがあります。)
症状
- 上腹部痛
- 吐血
- 下血
- 貧血
- ショック
突然このような症状に襲われます。
激痛をともなう上腹部痛、大量出血になるとショックを起こします。
消化管穿孔の原因は?
などがありますが、上部消化管か下部消化管(つまり上か下か)によって分類されます。
上部消化管では胃・十二指腸潰瘍が、下部消化管では大腸癌や大腸憩室炎が原因として多くなっています。
また上部消化管穿孔は若年〜中年に多いのに対し、下部消化管穿孔は高齢者に多く見られ、自覚症状が乏しい傾向にあります。
(参考書籍:消化管ビジュアルブック・内科診断学 第2版・新 病態生理できった内科学8消化器疾患)
消化管穿孔の検査、診断は?
症状や採血結果などで消化管穿孔が疑われる場合、どのような検査をしてどのように診断していくのでしょうか?
まず消化管穿孔が疑われたら?
消化管穿孔が疑われたら・・・
- Step1 まず遊離ガス(free air)を探しに行きます。
- Step2 見つかれば、どこが穿孔しているのか推定します。
上にあるように、上腹部のみに遊離ガス(消化管内から腹腔内に漏れ出た空気を遊離ガス(free air)といいます)がある場合は、上部消化管穿孔の可能性が高くなります。
また、下腹部のみに遊離ガスがある場合は、下部消化管穿孔の可能性が高くなります。
ただし、発症から時間が経過して、上・下腹部両方に遊離ガス(Free air)があれば分布からだけでは、穿孔部位はわかりません。
- 上部消化管とは、食道、胃、十二指腸のことです。
- 下部消化管とは、小腸(空腸→回腸)、大腸のことです。
遊離ガス(free air)の診断をおこなうための検査は?
消化管穿孔が疑われる場合は、X線(腹部レントゲン検査)やCT検査を行い、診断します。
ただし、X線検査では消化管穿孔の検出率は高いとは言えません。
というのは、下の症例にあるようにX線検査で遊離ガス(消化管内から腹腔内に漏れ出た空気を遊離ガス(free air)と言います)が見られる場所は横隔膜下など限られているからです。
また仮に遊離ガス(free air)を検出できたとしても、消化管穿孔がどこから起こっているかの予想はX線ではなかなかできません。
手術をする場合、どこで穴が開いているのかを前もって予想できていることは、手術時間の短縮の意味でも重要です。
その点、腹部CT検査は、
- 遊離ガス(free air)を発見しやすい
- どこで消化管に穴が開いているのか発見しやすい
というメリットを兼ね備えています。
(もちろんCTでもどこで穴が開いているのかわからないこともしばしばあります。)
→X線検査で穿孔が疑われる場合や、穿孔が疑われなくても、症状や採血検査結果によって穿孔の可能性がある場合
→腹部CT検査を施行する。
というのが実際の医療現場では多い流れです。
症状から消化管穿孔が疑われる場合は、バリウムを使った造影検査は空いた穴から腹腔内へ流出する危険性があるため行えません。
X線検査
単純X線を行うと、穿孔した箇所から腹腔内に遊離ガスが漏れ出した状態が確認できます。
症例:53歳男性
朝食直後に突然上腹部の激痛により搬送。
(出典:医師国家試験100D17)
右横隔膜下に遊離ガス(free air)を認めており、消化管穿孔が疑われます。
正常なレントゲンではこの場所にこのような空気の線が見えないことをチェックできますね。
CT検査
X線(レントゲン)検査をおこなっても、遊離ガス(free air)を認められなかった場合に有用なのがCT検査です。
CT検査では、
- 遊離ガス(free air)が存在していること
- 穿孔した部位の推測
- 腹膜炎の有無
- 腹水の有無
を診断することができます。
まず大事なのが、遊離ガス(free air)が存在していることの診断です。
- 肝表(肝臓の表面)
- 肝円索裂
- 尾状葉周囲(網嚢内側上陥凹)
- 胆嚢周囲(胆嚢床)
- Morrison(モリソン)窩
- 腸間膜間
実際のCT画像で見てみると次のようになります。
症例 50歳代 男性 上部消化管穿孔
肝臓の表面、肝円索裂、モリソン窩、胆嚢周囲に遊離ガス(free air)を認めています。
消化管穿孔が起こり、遊離ガス(free air)の存在が確認できたら、次にチェックすべきはどこから穿孔しているか(どこに穴が開いているのか)のチェックです。
- 大量→胃十二指腸穿孔、大腸穿孔
- 上腹部腹腔内のみ→胃、十二指腸球部
- 後腹膜→十二指腸下行〜水平脚
- 腸間膜内→結腸、小腸
- 骨盤内に限局→結腸、小腸
上のような関係があります。
また穿孔を起こしているということはその部位の腸管には炎症などの何らかの変化があります。
またその周囲の腸間膜にも脂肪織濃度上昇などの変化が起こります。
これらの変化に着目して以下のように穿孔部位を推測することができます。
- 腸管壁の肥厚・造影効果増強、壁の欠損。
- 周囲脂肪織濃度上昇。
- 消化管内容物の逸脱。(特に結腸からの便塊(dirty mass sign))
これらを踏まえて下の症例を見てみましょう。
症例 50歳代男性 突然の上腹部痛
肝臓の表面や肝門部に遊離ガスを認めています。
腹部下部には遊離ガスは認められませんでした(非提示)。
また十二指腸球部には壁の肥厚と造影効果増強、周囲には脂肪織濃度上昇を認めています。
続いての症例です。
症例 80歳代男性
上腹部と下腹部に大量の遊離ガス(free air)を認めています。
骨盤内に消化管と連続性を有さない糞便(ぷつぷつと空気を含むもの)と液貯留を認めています。
消化管内容物(今回は糞便)の逸脱を疑う所見であり、S状結腸穿孔に伴うdirty mass signが疑われます。
消化管穿孔の治療は?
上部消化管穿孔では症状が軽ければ、保存療法が行われますが、重症例では腹腔鏡手術が選択されます。
下部消化管穿孔では、開腹手術が行われます。
保存療法
入院管理のもと、
- 絶食
- 絶飲
- 抗菌薬投与
- 酸分泌抑制薬投与
- 胃管挿入
などが行われます。
ただし保存療法は原則、発症から24時間かつ腹部所見が限局性(病気による影響が局所に限定されている状態)、腹水がわずかで全身状態が良好な場合に限ります。
しかし70歳を超える高齢者では、手術による治療が優先されます。
腹腔鏡手術
腹腔鏡において穿孔部を塞ぐ手術を行います。
開腹する手術に比べ、患者自身の負担も少なく、術後の回復も比較的良好です。
開腹手術
開腹し、実際に穿孔を確認し、穿孔部を閉鎖します。
手術では、穿孔部閉鎖とともに腹腔内に漏れ出した内容物を洗浄するため、腹腔洗浄ドレナージも行われます。
また、大網(腹膜)によって穿孔部を覆う大網被覆術を行うこともあります。
最後に
- 消化管に穴が開き、腸管の内容物が腹腔内に漏れだすことを消化管穿孔という
- 突然の激しい上腹部痛をともなう
- 胃・十二指腸潰瘍や胃・大腸癌などの疾患が原因となる
- バリウムを使った造影検査は空いた穴から腹腔内へ流出する危険性があるため行えない
- X線やCTにより穿孔部や浮遊ガスを確認する
- 軽症例では保存療法、重症例では手術を行う
原因となる疾患がある場合には、穿孔を防ぐためにしっかり治療を行うことが大切です。
そして、穿孔が見つかれば早期に治療することが予後の回復にもつながります。