「尿沈渣の上皮細胞が基準値よりも多いと言われた場合、どんな病気が考えられるのでしょうか。」
誰でも一度は尿検査を受けたことがあるでしょう。
この検査で気になる所見があったときにはさらに尿を詳しく検査します。
これが尿沈渣です。
尿沈渣では尿検査ではわからなかったことが詳しくわかります。
尿の成分によって膀胱の疾患なのか腎臓の疾患なのか、それとも細菌感染症なのかがわかるのです。
そこで今回は尿沈渣で検出されることがある上皮細胞についてのお話です。
- 上皮細胞の基準値は?
- 上皮細胞が多い場合に考えられる病気は?
- 上皮細胞が多くても大丈夫な場合はあるのか?
- そもそも上皮細胞とは?
それでは始めます!
尿沈渣の上皮細胞とは?
上皮細胞とは
- 扁平上皮細胞
- 尿細管上皮細胞
- 移行上皮細胞
- 円柱上皮細胞
- 封入体細胞
- 卵円形脂肪体
- 異型細胞
これらの細胞の総称です。
では次に、尿沈渣の上皮細胞の基準値について見ていきましょう。
尿沈渣の上皮細胞の基準値は?
上皮細胞の基準値は
- 1個以下/HPF(男性の場合)
- 5個以下/HPF(女性の場合)
となります。
HPF(Hi power fieldの略語)とは400倍に拡大した顕微鏡で見た1視野のことです。
ただし、扁平上皮細胞は尿道口付近の粘膜にある細胞で、特に女性の場合は混入しやすいため、1個以上でも異常なしと言われることもあります。
扁平上皮細胞の場合は、再検査で経過観察をすることが多いです。
尿沈渣で上皮細胞が陽性の場合考えられる病気は?
上皮細胞の種類は
- 扁平上皮細胞
- 尿細管上皮細胞
- 移行上皮細胞
- 円柱上皮細胞
- 封入体細胞
- 卵円形脂肪体
- 異型細胞
ではこれらについて詳しく見ていきましょう。
扁平上皮細胞(squamous epithelial cell)
扁平上皮細胞が多い場合に考えられる疾患は以下です。
- 尿道炎
- 尿路結石症
- 前立腺がんなどのエストロゲン治療中
- 放射線治療中
扁平上皮細胞は外尿道口周辺の粘膜に由来する細胞です。
この細胞は数十層の細胞になっており、表層細胞、中層細胞、深層細胞に分けられます。
このことから一番奥にある深層細胞は出現しにくいため、この深層細胞が見つかると病状がかなり進行しているということがわかります。
ただし、この細胞はホルモンの作用により増殖する細胞で、扁平上皮細胞が多数見つかる場合の90%以上が女性です。
また、カテーテル挿入時に損傷した場合にも見られます。
女性の場合と男性の場合に分けてまとめてみました。
女性の場合
扁平上皮細胞は特に思春期以降から閉経前の女性に多く見られ、尿路感染症と生殖器からの混入することもあります。
そのため、異常がなくても見られる場合もあるため、扁平上皮細胞だけで疾患を判断することはできません。
男性の場合
男性で扁平上皮細胞が多数出現する場合は、トリコモナスやクラミジアによる尿道炎であることが多いです。
では次に尿細管上皮細胞について見ていきましょう。
尿細管上皮細胞(tubular epithelial cell)
尿細管上皮細胞は、糸球体で濾過された原尿の通り道である尿細管の中にある細胞です。
尿細管上皮が剥離、脱落することによって出現します。
この細胞が出た場合は尿細管に何らかの障害が起こっている可能性があります。
尿細管上皮細胞が認められる場合は、上皮円柱や 顆粒円柱を認める場合が多くなります。
考えられる疾患は
- 急性尿細管壊死
- 糸球体腎炎
- ネフローゼ症候群
- 腎硬化症
- 腎盂腎炎
- 糖尿病性腎症
があります。
上記の疾患の中で糸球体腎炎以下の慢性の腎疾患では尿蛋白が陽性になることが多いです。
また、糸球体疾患以外の場合は尿蛋白が陰性でも尿細管上皮細胞が出現することもあります。
移行上皮細胞(transitional epithelialcell)
この細胞は腎盂から尿管・膀胱・内尿道口付近由来の細胞です。
普通の尿ではほとんど認められません。
ですのでこの細胞が散在している、または塊として検出される場合には次のような疾患が考えられます。
- 腎杯、腎盂から膀胱、尿管、尿道口までの炎症
- 結石
- 腫瘍
移行上皮細胞と共に血尿を伴う場合や、50歳以上の方の場合は悪性細胞の疑いがあります。
こちらもカテーテル挿入時に損傷した場合にも見られることがあります。
円柱上皮細胞(columnar epithelial cell)
円柱上皮細胞は男性の尿道の隔膜部や海綿体部の粘膜、尿道球腺、前立腺、女性の尿道の一部や大前庭腺に由来する細胞です。
この円柱上皮細胞が出現する場合に考えられる疾患は以下です
- 尿道炎
- 前立腺炎
- 前立腺肥大症
これらの疾患が考えられますが、女性の場合は、月経時や細胞診の検査後の尿中に子宮内膜の円柱上皮が赤血球や白血球とともに混入することがあります。
また、前立腺マッサージ後や回腸導管による尿路変更後などにも円柱上皮細胞は見られます。
その場合は、医師にその旨を伝えておきましょう。
封入体細胞(inclusion body cell)
封入体細胞とは・・・核の中または細胞質内に円形から卵円形の無構造の封入物(封入体)が入っている細胞のことです。
封入体とは、ウイルス感染に伴い、感染された細胞の中に現れる異常な物質と言われています。
上記で説明してきた扁平上皮細胞、尿細管上皮細胞、移行上皮細胞、円柱上皮細胞の中に封入体が入っていれば封入体細胞と呼ばれます。
これらが混入していた場合に考えられる疾患は
- 尿道や外陰部の単純ヘルペス感染症
- 腎盂腎炎
- 膀胱炎
- 悪性リンパ腫
- 白血病
- 癌
以上です。
ただし、健康な人の尿の中に見られることもありますので、この細胞が出ても、再検査が必要です。
また、こちらも回腸導管術後にも見られることがあります。
卵円形脂肪体(oval fat body)
卵円形脂肪体は、尿細管上皮細胞が脂肪変性したもののことです。
この細胞が現れる疾患は
- 重症ネフローゼ症候群
です。
異型細胞(atypical cell)
異型細胞とは正常な細胞と比較して悪性の所見を疑う異型所見がある細胞のことで、良性細胞と悪性細胞に分けられます。
良性細胞の場合は、炎症や尿管結石、放射線治療などによる非腫瘍性の細胞です。
一方で、悪性細胞は腫瘍性の細胞(悪性腫瘍の細胞)を指します。
ですので、異形細胞=悪性というわけではないのですが、単に異形細胞だけでは、良性を示唆するのか悪性を示唆するのかわからないため、
- どの細胞系のどういう異形なのか
- どのような病態が考えられるか
といったコメントをつけて報告することがJCCLS(日本臨床検査標準協議会)では推奨されています。
悪性腫瘍の場合、一般的には尿路系の腫瘍が考えられます。
一般的に膀胱癌の場合、尿路上皮癌が一番多く、膀胱癌の90%を占めます。
次いで扁平上皮癌で7%、腺癌が0.5%・肉腫が0.5%です。
特に膀胱癌は中高年の男性に好発します。
そのため50歳以上の男性で、血尿や潜血反応がある場合は、膀胱癌の可能性があります。
上皮細胞の数値が高くても大丈夫な場合ってある?
さきほど挙げた扁平上皮に関しては特に女性の場合は、採尿の時に出始めの尿を採取してしまった場合にも出る可能性がある細胞で、大抵は経過観察になります。
また円柱上皮細胞も女性の場合、月経中や子宮内の細胞診後などであれば、異常がない場合でも混入することがあります。
さきほど挙げた細胞が検出されただけではなく、血尿・白血球・赤血球・細菌なども検出された場合は尿道炎や膀胱炎、結石や腫瘍などが疑われます。
ただし、上皮細胞が出たというだけで疾患ということにはなりません。
尿沈渣で検出された成分を総合的に判断し、他の検査もすることで総合的に判断することになります。
参考書籍
- 尿沈渣ガイドブック 東海大学出版会 p.119 p.136-152
- 最新 尿検査 その知識と考え方 第2版 p.80-81 p.85-88
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まとめ
- 上皮細胞の基準値は10視野内1個である
- 上皮細胞は上移行上皮細胞、尿細管上皮細胞、移行上皮細胞、扁平上皮細胞がある
- 上皮細胞は炎症を起こすとかなりの数が剥がれ落ちてくることがある
- 扁平上皮細胞は女性によくみられる細胞
いかがでしたか?今回は上皮細胞についてのお話しでした。
尿沈渣ではいろいろな成分が検出されるため、内容が気になるかもしれませんが最終的な判断は上皮細胞以外の成分を見ながら総合的に行います。
上皮細胞が出たからと言って即病気ということにはなりませんので安心してくださいね。