
「トイレに行きたいのに尿が出ない」「尿の量が急に少なくなった」「何時間も尿が出ていない」という状態になると、病気ではないかと不安になる。
結論からいうと、「尿が出ない」には、膀胱に尿がたまっているのに出せない「尿閉」と、腎臓で尿が作られなくなる「乏尿・無尿」の2つの場合がある。前者は男性の前立腺肥大症に多く、痛みを伴うため、迅速に医療機関を受診してほしい。後者は腎臓の機能低下(急性腎障害など)で起こり、原因を早く調べる必要がある。
この記事では、尿閉・乏尿・無尿のちがい、原因、受診の目安、自分で確認できることを整理する。
- 尿閉は、尿が膀胱にたまっているのに出せない状態で、多くは前立腺肥大症が原因である。
- 乏尿・無尿は、腎臓で作られる尿が減る、またはほとんど作られない状態である。
- 薬(風邪薬、胃腸薬、抗うつ薬など)で尿閉が起こることがある。
- 尿閉は痛みを伴い、迅速な受診が必要である。尿が極端に少ないときも、早めに受診する。
尿閉・乏尿・無尿とは
日本泌尿器科学会によると、「尿がまったく出ない」という状態には原因が2つある。ひとつは、腎臓で正常に作られた尿が膀胱まで運ばれてたまっているのに、排尿しようとしても出てこない状態で、これを尿閉という。もうひとつは、腎臓の機能が低下して尿が作られなくなり、膀胱にたまる尿が少なくなる状態である(日本泌尿器科学会)。
尿閉は、強い尿意や下腹部の痛みを伴い、下腹部が張って見える(厚生労働省 2009)。
乏尿は尿の量が少ない状態、無尿は腎臓でほとんど尿が作られない状態をいう。


乏尿・無尿の基準
急性腎障害(AKI)の国際的な基準であるKDIGO基準では、尿量を体重あたりで評価する。尿量が1時間・体重1kgあたり0.5mL未満の状態が6時間以上続くと、尿量による基準でAKI(ステージ1)にあたる。12時間以上続くとステージ2、0.3mL/kg/時間未満が24時間以上、または12時間以上の無尿が続くとステージ3(最も重い段階)に分類される(日本腎臓学会ほか 2017)。体重50kgの人なら、0.5mL/kg/時間は1時間あたり25mLにあたる。
なお、従来の説明では、乏尿は1日の尿量が400mL未満とされてきた(Stavi 2025)。ただし、1日尿量の基準は資料によって異なる。尿の量を測れる場合は、「おおよその量と、何時間出ていないか」を医師に伝えるとよい。
また、尿量だけでAKIを診断するときは、尿路の閉塞や、水分を補えばすぐに回復する乏尿は除いて判断する(日本腎臓学会ほか 2017)。つまり、尿が少ないときは、まず「出せない(閉塞)」のか「作られていない」のかを区別することが大切である。
尿が出ない・少ないときに考えられる原因
尿閉の原因
尿閉の原因は、膀胱の出口が開かないことと、膀胱を動かす神経の障害に大きく分けられる(日本泌尿器科学会)。
- 前立腺肥大症:尿閉のほとんどの原因で、男性に多い。肥大した前立腺が膀胱の出口をふさぐ(日本泌尿器科学会)。
- 尿道狭窄、前立腺炎、膀胱炎、尿道炎など:男性では、前立腺の病気の次に尿道狭窄が多い(厚生労働省 2009)。前立腺炎、膀胱炎、尿道炎、外陰腟炎なども原因になり、女性では、骨盤内の臓器による閉塞も多い(Selius 2008)。
- 神経の障害:膀胱の働きを調整する神経が障害される神経因性膀胱がある。直腸がんや子宮がんの手術後に起こることがあり、男性にも女性にも起こりうる(日本泌尿器科学会)。
- 薬:過活動膀胱の治療薬、胃腸薬、下痢止め、抗精神病薬・抗うつ薬、抗不整脈薬、総合感冒薬(市販の風邪薬を含む)などで起こることがある(厚生労働省 2009)。薬による尿閉は、高齢者や前立腺肥大症のある人(Verhamme 2008)、糖尿病などで膀胱の筋肉の収縮力が落ちている人(厚生労働省 2009)で起こりやすい。
- 出産後:出産後の数日間に、尿が出しにくくなることがある。放置すると膀胱の筋肉や神経を傷めることがあるため、早めの診断が必要とされる(Nutaitis 2023)。
引き金として、長時間座り続けること、飲酒、咳止め薬、感冒薬、精神安定剤、不整脈の薬が挙げられている(日本泌尿器科学会)。
乏尿・無尿の原因
急性腎障害(AKI)の原因は、腎臓への血流が足りない「腎前性」、腎臓そのものの組織の障害による「腎性」、尿の通り道がふさがる「腎後性」に分けられる(日本腎臓学会ほか 2017)。
- 腎前性:脱水や低血圧による腎臓の血流低下、肝腎症候群、心腎症候群、ネフローゼ症候群、敗血症など
- 腎性:血管炎、全身性エリテマトーデス、急性糸球体腎炎、間質性腎炎、造影剤腎症、シスプラチン腎症など
- 腎後性:尿路の閉塞(超音波やCTなどの画像検査で確認する)
腎臓の機能低下による「尿がまったく出ない」状態は、実際には非常に少なく、腎不全の状態になる前に別の症状や検査所見が出てくるため、急に起こることはないとされる(日本泌尿器科学会)。ただし、AKIは血清クレアチニンが48時間以内に0.3mg/dL以上上がる、または7日以内に1.5倍以上に上がる(尿量が減る)など、短い期間で腎機能が低下する病態であり、治せる原因を早く見つけることが重要とされる(日本腎臓学会ほか 2017)。
尿閉の見分け方と、数値・症状がずれる場合
尿閉の判別は容易で、膀胱に尿が充満しているのに排出できない状態で、強い尿意や下腹部の痛みを伴い、下腹部が張る。超音波検査で、尿の充満した膀胱をすぐに確認できる(厚生労働省 2009)。
尿閉の手前の段階として、排尿困難(尿の勢いが弱い、尿線が分かれる、途中で尿がとぎれる、出るまでに時間がかかる、お腹に力を入れないと出ない、最後にしたたる)がある(厚生労働省 2009)。
注意したいのは、尿が漏れていても尿閉を見逃さないことである。膀胱に尿が多量にたまると、尿道からあふれて持続的に漏れる「溢流性尿失禁」になるためである(厚生労働省 2009)。
慢性的に尿が残る「慢性尿閉」には統一された定義がなく、非神経因性の場合は300mLを超える残尿が使われることが多い(Stoffel 2017)。
受診の目安(何科に行くか)
- 尿意があるのに出せない、下腹部が張って痛い:尿閉の可能性がある。迅速な受診が必要で(厚生労働省 2009)、泌尿器科(夜間・休日は救急外来)へ。尿閉では、尿道からカテーテルを入れて膀胱にたまった尿を出す処置が必要になる(日本泌尿器科学会)。
- 頻尿・排尿痛・残尿感などの排尿症状を伴う発熱がある:腎臓、前立腺、精巣上体などに細菌感染がある可能性があり、できるだけ早く泌尿器科専門医を受診する。糖尿病や前立腺肥大症などがあると重症化しやすい(日本泌尿器科学会)。
- 12時間以上ほとんど尿が出ない、尿の量が極端に少ない状態が続く:腎臓の急な機能低下の可能性がある(12時間以上の無尿はAKIの最も重い段階にあたる)。内科・腎臓内科(症状が強ければ救急外来)へ。血液検査(クレアチニンなど)、尿検査、超音波やCTで原因を調べる(日本腎臓学会ほか 2017)。
- 尿の勢いが弱い、残尿感があるなどの症状が続く:尿閉に進む前に、泌尿器科で相談する。前立腺肥大症では、症状の改善とともに、尿閉の予防が治療の目的になる(日本泌尿器科学会)。

血液検査で腎臓の働きを確認する場合は、健康診断でクレアチニン・eGFRの異常を指摘されたら?基準値・腎臓病の目安・受診の目安や尿素窒素(BUN)の基準値は8〜20mg/dL|高い・低い原因と受診の目安が参考になる。男性で前立腺の検査が気になる人は、PSAが高いと言われたら?前立腺がんの可能性・基準値とグレーゾーン・精密検査もあわせて読んでほしい。
自分でできること
- 飲んでいる薬を確認する:風邪薬、胃腸薬、下痢止め、抗うつ薬などを飲み始めてから尿が出にくくなった場合は、医師・薬剤師に連絡する。自己判断で処方薬をやめず、相談する(厚生労働省 2009)。
- 尿の様子を記録する:尿が出た時間、おおよその量、勢い、下腹部の張りや痛み、発熱、むくみなどをメモして、受診時に伝える。
- 長時間座りっぱなしや飲酒を避ける:前立腺肥大症のある男性では、長時間の座位や飲酒が誘因になることがある(日本泌尿器科学会)。
- 産後に尿が出にくいと感じたら、早めに相談する:産後の尿閉を放置すると、膀胱の筋肉や神経が傷むおそれがある(Nutaitis 2023)。
よくある疑問
Q1. 尿が出ないとき、水をたくさん飲めば出るか。
尿閉では、すでに膀胱に尿がたまっているのに出せない状態なので、飲水を増やしても解決しない。尿閉が疑われるときは、飲水量を増やすより先に受診する。脱水による尿量の減少(腎前性)は、水分と体液量を適正にすることで改善することがある(日本腎臓学会ほか 2017)。
Q2. 女性でも尿閉になるのか。
なる。骨盤内の臓器による閉塞、神経の障害(直腸がんや子宮がんの手術後など)、薬、出産後などで起こりうる(Selius 2008、日本泌尿器科学会、Nutaitis 2023)。男性に多いのは、原因の多くが前立腺肥大症のためである。
Q3. 尿閉は一度起こると繰り返すのか。
前立腺肥大症では、適切な治療をしても尿閉が繰り返される場合、肥大の程度によっては手術が必要になることがある(日本泌尿器科学会)。尿閉があった人は、原因を調べるために、後日泌尿器科専門医の診察を受けることがすすめられる(日本泌尿器科学会)。
気になる症状や結果があれば、早めに医療機関に相談してほしい。
まとめ
- 尿閉は、尿が膀胱にたまっているのに出せない状態で、前立腺肥大症に多く、痛みを伴う
- 乏尿・無尿は、腎臓で作られる尿が減る、またはほとんど作られない状態で、尿量は体重あたり(0.5mL/kg/時間未満など)で評価される
- 薬や神経の障害、出産後にも尿閉は起こる
- 尿閉が疑われるときは迅速な受診を。尿の量が極端に少ないときも早めに受診する
参考文献
- 日本泌尿器科学会「尿がまったく出ない」(一般のみなさま 患者さん向け症状解説) https://www.urol.or.jp/public/symptom/06.html
- 日本泌尿器科学会「排尿症状を伴う発熱がある」 https://www.urol.or.jp/public/symptom/22.html
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 尿閉・排尿困難」(平成21年5月) https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1n01.pdf
- 日本腎臓学会・日本集中治療医学会・日本透析医学会・日本急性血液浄化学会・日本小児腎臓病学会「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」日腎会誌 2017;59(4):419-533. https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/419-533.pdf
- Selius BA, Subedi R. Urinary retention in adults: diagnosis and initial management. Am Fam Physician. 2008;77:643-50. PubMed 18350762
- Verhamme KM, et al. Drug-induced urinary retention: incidence, management and prevention. Drug Saf. 2008;31:373-88. PubMed 18422378
- Stoffel JT. Non-neurogenic Chronic Urinary Retention: What Are We Treating? Curr Urol Rep. 2017;18:74. PubMed 28730405
- Nutaitis AC, et al. Postpartum urinary retention: an expert review. Am J Obstet Gynecol. 2023;228:14-21. PubMed 35932877
- Stavi D, et al. Short-Term Reactions to Oliguria in Critically Ill Patients: A Retrospective Cohort Study. J Clin Med. 2025;14. PubMed 40364135




