Acute pancreatitis Eye-catching image

 

急性膵炎(きゅうせいすいえん)というと、文字通り膵臓に炎症が起こる病気です。

この急性膵炎ですが、アルコールが原因でなると思われていることが多いと思います。

ですが、急性膵炎の原因はアルコールだけではなく、特に女性の場合は、むしろアルコールが原因となることは少ないのです。

そこで今回は、急性膵炎(英語表記でacute pancreatitis)について、

  • 原因
  • 症状
  • 診断
  • 治療
  • 合併症

など、最新の2015年急性膵炎診療ガイドラインを含めまとめました。


急性膵炎とは?

腹部の臓器の1つである膵臓(すいぞう)に起こる急性の炎症のことです。

pancreas

活性化された膵酵素が、膵臓だけでなく、その周囲の臓器(十二指腸や胃、横行結腸、肝臓、胆嚢など)にまで影響を及ぼします。

下のように、輪切りで見ると膵臓に起こった炎症は周囲に広がることがあります。

重症化すると膵壊死組織に感染症を合併したりサイトカインや好中球によって全身に炎症反応が出たり、多臓器障害を引き起こすこともあります。

サイトカインとは?
免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質のことで、標的細胞は特定されない情報伝達をおこなうもののことです。

急性膵炎の原因は?

原因は男女により異なります。

  • 男性の場合、アルコールが最多
  • 女性の場合は特発性(原因不明)・胆石

によるものが多くなっています。

他には、以下のものが挙げられます。
  • ERCP後
  • 術後(肝臓、胆嚢、膵臓、胆嚢、胃、輸入脚閉塞)
  • 薬剤性
  • 高脂血症
  • HIV感染、HIVの治療薬
  • 感染症
  • 膠原病
  • 内分泌疾患
  • 透析

など。

急性膵炎になりやすい人は?

男女比が、2.2対1と約2倍男性に多いのが特徴です。

また男性では50歳代、女性では70歳代にそれぞれピークがあります。

当然男性の場合、アルコール摂取量が多い人がリスクということになりますし、女性の場合は胆石がある人の方が起こりやすいといえます。

ただし、若い人でも起こる病気ですので注意が必要です。

アルコール摂取の場合、1日あたり60gの摂取でリスクが高いとされ、胆嚢結石がある人はない人と比べてリスクは12-35倍高いというデータもあります。

急性膵炎の症状は?

急性膵炎の症状は以下の通りです。
  • 上腹部痛
  • 背部痛
  • 食欲不振
  • 発熱
  • 悪心
  • 嘔気・嘔吐

などがありますが、背中を丸めると痛みが和らぐ特徴にあります。

これらは初発症状であり、悪化するとさらに

  • 頻脈
  • 呼吸困難
  • 乏尿
  • 血圧低下
  • 胸水
  • 腹水

といった症状が出現することもあります。

中には、皮膚に着色斑が見られることがあり、Grey-Turner徴候と言われますが、その出現頻度は3%程度と稀とされます。

また膵炎以外の場合もこの着色斑が見られることがありますので、注意が必要です。

急性膵炎の検査は?

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 画像検査
  • 超音波検査

などを行い診断されます。

血液検査・尿検査

採血検査や尿検査で、膵臓の酵素である膵酵素(アミラーゼ)が上昇していないかを確認します。

上昇していれば膵炎の可能性が高いと診断されますが、この値が高いほど重症というわけではありません。

重症度とは相関しないとされています。

他には、炎症反応であるCRPは重症度と相関すると言われますが、症状が起こって48時間以内の場合は重症度を反映しないこともあるので注意が必要です。

その他、急性膵炎で見られることがある異常を示す項目は以下の通りです。
  • エラスターゼ上昇
  • WBC↑、CRP↑、Plt↓
  • 血清Ca↓(重症のサイン)
  • 高血糖(インスリン↓のため)
  • 血清K↑、BUN↑、Cr↑(腎障害)
  • Ht↑(血液濃縮)
  • 重症例ではLDH↑

画像検査

造影CTによる検査が重要です。

造影CTで

  • 膵臓周囲の炎症所見の有無
  • 膵臓自体の腫大の有無
  • 膵臓の壊死の有無
  • 周囲への炎症の波及の有無

などを確認することができます。

症状に加えて、これらの検査結果により膵炎と診断します。
症例

pancreatitis CT

造影CTで膵臓の腫大及び周囲に脂肪織濃度上昇を認めています。

膵体部では造影不良域を認めており、膵壊死を示唆する所見です。

 

こちらの動画も参考になります。

腹部超音波検査

  • 膵腫大
  • 壊死
  • 出血
  • 膵周囲への炎症の波及
  • 滲出液貯留

などが確認できます。

 

急性膵炎の治療は?

急性膵炎のガイドラインにより、まずは重症度を分類し、治療法を検討することになります。
  1.  Base Excess≦- 3 mEq/L・またはショック(収縮期血圧≦ 80 mmHg)
  2.  PaO2≦60 mmHg(room air)・または呼吸不全(人工呼吸管 理が必要)
  3.  BUN≧40 mg/dL(or Cr≧2 mg/dL)・または乏尿(輸液後も 1 日尿量が 400 mL 以下)
  4.  LDH≧基準値上限の 2 倍
  5. 血小板数≦10 万/m㎥
  6. 総 Ca≦7.5 mg/dL
  7. CRP≧15 mg/dL
  8. SIRS 診断基準における陽性項目数≧3
  9. 年齢≧70 歳

(急性膵炎診療ガイドライン2015より)

急性膵炎は、9つの項目からなる予後因子とCTでの画像の結果を踏まえて、

  • 軽症・中等症の急性膵炎
  • 重症の急性膵炎(3つ以上当てはまる場合)

に分けられます。

軽症・中等症の急性膵炎の治療

  • 絶食
  • 点滴
  • タンパク分解酵素阻害薬
  • 抗生物質の点滴

などをおこないます。

重症の急性膵炎の治療

厳密な循環呼吸管理と多臓器不全や感染症に対処するために、集中治療が必要となります。

上記の治療に加えて、

  • タンパク分解酵素阻害薬・抗生物質持続動注療法
  • 血液浄化療法
  • 場合によっては、開腹手術

が必要なことがあります。

持続動注療法というのは、カテーテルを用いて、膵臓を栄養する動脈から直接薬を流し込むというものです。

急性膵炎の合併症

「急性膵炎は怖い」

と言われていますが、それは様々な合併症や感染症が起こり命に関わるからです。

急性膵炎は膵臓の炎症ですが、単に膵臓にとどまらず、様々な合併症を起こすので非常に怖い病気です。

起こってから、時期により様々な合併症が起こります。

早期の合併症(2週間以内)

  • 炎症物質による多臓器不全(肺、腎臓、肝臓、消化管、心臓)
  • 膵臓の感染
  • 膵臓以外への感染(肺炎、カテーテル感染、尿路の感染、血液の感染)

後期の合併症(2週間以降)

  • 感染による膵臓の壊死(腐ってしまうこと)
  • 膵臓や膵臓周囲への膿瘍の形成(膿ができてしまう)
  • 仮性嚢胞、感染性嚢胞の形成
  • 膵液漏(膵臓の消化酵素が漏れ出て、周囲の臓器を溶かす)
  • 仮性動脈瘤(膵液漏により動脈瘤ができ、破裂すると即命に関わる)

このように、単なる膵臓にとどまらず、全身に及び命に関わることがあり、非常に恐ろしい病気であることがわかります。

ですので、早急に診断して、重症度による治療を開始する必要があります。

まとめ

  • 急性膵炎は、急に起こる膵臓の炎症
  • 男性の場合はアルコール・女性の場合は原因不明や胆石で起こることが多い
  • 上腹部痛・背部痛・食欲不振・発熱・悪心・嘔気・嘔吐などの初期症状で発症
  • 血液検査・尿検査・画像検査・超音波検査をおこない診断する
  • 重症度判定基準を元に、治療法が決まる
  • 合併症が怖い

 

急性膵炎が単なる膵臓の炎症にとどまらない恐ろしい病気であることがお分かりいただけたと思います。

また、アルコールだけが原因ではなく、特に女性は原因不明の急性膵炎もしばしばあります。

急性膵炎に特徴的な症状はありませんが、激烈な背部痛の場合、急性膵炎の可能性があります。

おかしいと思えば、病院に行くようにしましょう。




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