若年者の胃がんの早期の内視鏡(胃カメラ)所見・バリウム検査所見として知られているものに、「鳥肌胃炎(とりはだいえん)」があります。
後述するように、この鳥肌胃炎をベースに生じた胃がんは悪性度が高いことで知られています。
今回は鳥肌胃炎の原因と、治療などについてまとめてみました。
鳥肌胃炎とは?
鳥肌胃炎は読んで字のごとく、胃の内視鏡(胃カメラ)所見が、「鳥肌」のようにみえることからこのような名前が付けられています。
実際の内視鏡所見はこんな感じです。
2013年放射線科診断専門医試験問題62より引用。
まさに「鳥肌」のような胃の壁ですね・・・。
鳥肌胃炎は慢性胃炎に分類され、特に胃の前庭部側の粘膜がこのような形態を定することで知られています。
10~20歳代の若い人、特に女性のピロリ菌感染の胃によく見られます。
鳥肌胃炎の原因は?
鳥肌胃炎は、ピロリ菌への初感染が原因となります。
なぜ鳥肌のような胃壁になるかというと、病理組織学的には、粘膜固有層のリンパ濾胞の増生が隆起を形成するためと言われています。
隆起を形成した結果、鳥肌のように見えるということです。
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鳥肌胃炎を見つける検査方法は?
この鳥肌胃炎を見つけるには、実際に胃の壁の様子を見る検査をする必要があります。
その検査は2つあります。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
- 胃透視検査(バリウム)
この2つです。
腹部の触診などではもちろん診断できませんし、CTやMRIなどの画像検査でも診断できません。
ちなみに胃透視検査で鳥肌胃炎を見ると次のように見えます。
2013年放射線科診断専門医試験問題62より引用。
内視鏡で見られたのと同様に「鳥肌」のような形態(胃小区が類円形で密集している)を示していることがわかります。
胃カメラとバリウム検査の違いについてはこちらに詳しく解説しました。→胃カメラとバリウムのどっちを受ければいい?徹底比較!
鳥肌胃炎は胃がんになりやすい?
鳥肌胃炎の、最大の問題は胃がんになりやすいことです。
20歳代の場合、非鳥肌と比べて、鳥肌胃炎の場合、発がんのオッズ比は64と報告されています1)。
つまり、この場合64倍胃がんになりやすいということです。
特に鳥肌胃炎では、悪性度の最も強い未分化胃癌が多く、若年女性に多い特徴があります1)。
鳥肌胃炎は、若い人で悪性度が高い胃がんが発症しやすい胃炎として、注目されているのです。
同じピロリ菌感染でも20歳以上では、鳥肌胃炎よりも、がんの発症の確率のずっと低い萎縮性胃炎の割合が増えてきます。
と申しますのは、若年者ピロリ胃炎の年齢別分布は以下のように報告されています2)。
鳥肌胃炎 | 萎縮性胃炎 | |
3-19歳 | 58% | 2% |
19-29歳 | 27% | 37% |
これを見れば20歳未満と若いほど、ピロリ胃炎における鳥肌胃炎の割合が高いことがわかります。
ピロリ胃炎は20歳以下という若い人ほど、悪性度の高い胃がん(未分化がん)が発生しやすい鳥肌胃炎の割合が高いということです。
鳥肌胃炎の治療は?
鳥肌胃炎は上に述べたように、ピロリ菌(H.pylori)感染が原因と言われています。
ですので、治療は、速やかにピロリ菌の除菌が効果的です。
胃がんを予防するためにはピロリ菌の除菌が有用であることは、日本ヘリコバクター学会が正式に推奨しています3)4)。
ピロリ菌除菌すると鳥肌胃炎は消えるのか?
10-20歳の鳥肌胃炎に対して除菌により多くは6ヶ月で鳥肌状の粘膜は消えたと報告されています。
また除菌により、腹痛などの消化器症状は83例中81例で消失したと報告されています5)。
鳥肌胃炎の治療は保険適応?
2013年までのピロリ菌除菌の保険適応は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がん内視鏡治療後のみでした。
しかし、2013年に「慢性胃炎」も健康保険の対象に加わりました。
そのため鳥肌胃炎や萎縮性胃炎といった慢性胃炎にも保険でピロリ菌の除菌が受けられるようになりました。
最後に
10-20歳という非常に若い、特に女性の鳥肌胃炎は胃がんの発症率が高く注意が必要です。
鳥肌胃炎の原因はピロリ菌ですが、若い人はなかなか症状がでない限りピロリ菌検査をしたり、胃カメラを飲む機会は通常ありません。
ですので、全国自治体の一部では中学生を対象にピロリ菌検査を実施しているところもあります。
県単位で検査している自治体はありませんでしたが、2016年には佐賀県内の中学3年生全員約9000人を対象にピロリ菌検査を実施するという「未来に向けた胃がん対策推進事業」が発表されました。
これは保護者の同意をとった上で検査を行い、陽性であった場合は除菌治療を行いますが、その費用を全て県が負担するというものです。
このように無症状であっても、10代という早い段階でピロリ菌をチェックして、陽性ならば除菌をしておくということが重要であるという認識が広まってきています。
参考)
1)Dig Endosc,19:180-184.2007
2)胃と腸46;1363-1369,2011
3)胃と腸,46:75-82,2011
4)Helicobacter Research,13:374-378,2009
5)胃と腸46:1353-1362.2011