健康診断や人間ドックのバリウム検査中に、むせたり、咳き込んだりすると、「バリウムが肺に入ったのではないか」「このまま様子を見てよいのか」と不安になる人は少なくない。

結論からいうと、バリウムを誤嚥した可能性がある場合は、咳だけで落ち着くこともあるが、息苦しさ、強い咳、発熱、胸痛、低酸素症状がある場合は早めに医療機関へ相談すべきである。

誤嚥とは、本来は食道へ入るべき飲食物や液体が、気管や肺の方へ入ってしまうことである。バリウム検査では、硫酸バリウムという造影剤を飲むため、飲み込む力が弱い人やむせやすい人では、まれに誤嚥が問題になることがある。

少量の誤嚥で症状が軽い場合もある一方、大量に肺へ入った場合や、もともと肺や嚥下機能に問題がある場合は、肺炎、呼吸障害、低酸素、ARDSなどを起こす可能性がある。

この記事では、バリウム誤嚥とは何か、どのような症状に注意すべきか、検査中にむせた場合の対応、誤嚥しやすい人、検査後の受診目安について整理する。

この記事のポイント

  • バリウム誤嚥とは、バリウムが気管や肺に入ってしまうことである。
  • 軽い咳だけで落ち着く場合もあるが、大量誤嚥では呼吸障害を起こすことがある。
  • 息苦しさ、強い咳、発熱、胸痛、顔色不良、ぐったりする症状は受診目安である。
  • 高齢者、嚥下障害、脳梗塞後、パーキンソン病、食道狭窄がある人は注意が必要である。
  • 検査中にむせた場合は、我慢せず、すぐ検査担当者に伝えるべきである。

バリウム誤嚥とは何か

バリウム誤嚥とは、胃の検査で飲んだバリウムが、食道ではなく気管や肺に入ってしまう状態である。

通常、飲み込んだものは食道を通って胃へ流れる。一方で、飲み込むタイミングがずれたり、嚥下機能が低下していたりすると、液体が気管へ入ることがある。これを誤嚥という。

バリウム検査では、硫酸バリウムという白い造影剤を飲む。バリウムは胃や食道の形をX線で見やすくするために使われるが、気管や肺に入ると、本来そこにあるべきものではないため問題になる。

バリウム誤嚥は頻繁に起こるものではないが、起こった場合には症状の有無と程度を確認することが重要である。

バリウムを誤嚥するとどうなるか

バリウムを誤嚥した場合、咳き込みだけで済むこともあれば、息苦しさや低酸素を起こすこともある。

気管に異物が入ると、体は咳によって外へ出そうとする。そのため、検査中にむせたり咳き込んだりすることがある。

少量であれば、咳が出たあと落ち着くこともある。一方で、大量にバリウムが気管や肺に入った場合、肺の中に白い高吸収物質として残り、呼吸状態に影響することがある。

文献では、バリウム誤嚥後に無症状または軽い咳・発熱程度で済む例もある一方、呼吸困難、低酸素血症、ARDS、呼吸不全など重症化する例も報告されている。

「少しむせただけだから絶対に大丈夫」とも、「むせたから必ず重症」とも言えない。症状の推移を確認することが重要である。

バリウム誤嚥で起こりうる症状

バリウム誤嚥で最も注意すべき症状は、咳、息苦しさ、胸の違和感、発熱、低酸素症状である。

誤嚥直後に症状が出ることもあれば、しばらくしてから咳や発熱が目立つこともある。

症状 考え方
咳・むせ 気管に入ったものを出そうとする反応である。
息苦しさ 誤嚥量が多い場合や肺の状態が悪い場合に注意が必要である。
胸の違和感・胸痛 咳き込みや気道刺激、呼吸状態の変化で出ることがある。
発熱 誤嚥性肺炎や炎症を疑うきっかけになる。
顔色不良・ぐったりする 低酸素や全身状態悪化のサインである可能性がある。

特に息苦しさ、強い咳、発熱、胸痛、顔色不良がある場合は、自己判断で様子を見続けない方がよい。

検査中にむせた場合はどうするか

バリウム検査中にむせた場合は、我慢せず、すぐに検査担当者へ伝えるべきである。

検査中は、発泡剤で胃が膨らんだ状態で、バリウムを飲み、さらに体位変換を行う。そのため、緊張や胃の張りにより飲みにくくなることがある。

むせた場合に無理に飲み続けると、さらに誤嚥する可能性がある。検査担当者は、咳の程度、呼吸状態、顔色、会話できるかなどを確認し、必要に応じて検査を中断する。

検査中にすぐ伝えるべき状況

  • バリウムを飲んだ瞬間に強くむせた。
  • 咳が止まらない。
  • 息苦しい。
  • 声が出しにくい。
  • 胸が苦しい。
  • 気分が悪い。
  • これ以上飲めない。

検査中のむせは恥ずかしいことではない。安全に検査を進めるために、早めに伝えることが重要である。

バリウム誤嚥後に受診すべき症状

バリウムを誤嚥した可能性があり、呼吸器症状がある場合は受診を検討する。

特に、以下のような症状がある場合は、検査施設または医療機関へ連絡すべきである。

早めに医療機関へ相談すべき症状

  • 咳が止まらない。
  • 息苦しい。
  • ゼーゼーする。
  • 胸痛がある。
  • 発熱がある。
  • 顔色が悪い。
  • 会話がしにくい。
  • 呼吸が速い。
  • ぐったりしている。
  • 持病としてCOPD、間質性肺炎、脳梗塞後遺症、嚥下障害がある。

特に「息苦しい」「顔色が悪い」「会話がしにくい」「ぐったりしている」場合は、救急受診も含めて早めの対応が必要である。

症状が軽ければ様子を見てよいか

少しむせただけで、すぐに咳が落ち着き、息苦しさも発熱もない場合は、経過をみられることもある。

ただし、検査中に明らかにバリウムを誤嚥したと言われた場合や、検査後に咳が続く場合は、念のため検査施設へ確認した方がよい。

誤嚥後の症状は、直後だけでなく、数時間から翌日にかけて目立つことがある。特に高齢者や嚥下機能が低下している人では、症状を軽く見ない方がよい。

経過観察中に見るポイント

  • 咳が増えていないか。
  • 息苦しさがないか。
  • 発熱がないか。
  • 胸の痛みや違和感がないか。
  • 食事や水分でむせやすくなっていないか。
  • 全身状態が悪くなっていないか。

症状が悪化する場合は、「検査後だから仕方ない」と考えず医療機関へ相談するべきである。

誤嚥しやすい人

バリウム誤嚥は、嚥下機能が低下している人で起こりやすい。

嚥下機能とは、食べ物や液体を口から食道へ安全に送り込む働きである。この機能が低下すると、飲み物が気管へ入りやすくなる。

バリウム誤嚥の文献レビューでは、嚥下障害、食道腫瘍による閉塞、食道異物などがリスク因子として報告されている。また、高齢者や神経疾患のある人も注意が必要である。

誤嚥リスクが高い人 理由
高齢者 嚥下機能や咳反射が低下していることがある。
脳梗塞後の人 嚥下障害が残っていることがある。
パーキンソン病など神経疾患がある人 飲み込みのタイミングが乱れやすいことがある。
食道狭窄・食道腫瘍がある人 飲み込みにくさや逆流が起こることがある。
普段からむせやすい人 液体を飲むときに気管へ入りやすい可能性がある。
寝たきり・体力低下がある人 咳で出す力が弱いことがある。

普段から水分でむせる人、食事中に咳き込む人は、バリウム検査前に必ず申告すべきである。

検査前に伝えるべきこと

バリウム検査を安全に受けるためには、検査前の問診で誤嚥リスクを伝えることが重要である。

検査担当者や医師は、問診内容をもとに、バリウム検査を予定通り行うか、注意して行うか、胃カメラなど別の検査を検討するかを判断する。

検査前に伝えるべき情報

  • 水やお茶でむせやすい。
  • 食事中によく咳き込む。
  • 飲み込みにくさがある。
  • 脳梗塞や脳出血の既往がある。
  • パーキンソン病など神経疾患がある。
  • 食道狭窄や食道がんを指摘されたことがある。
  • 肺炎を繰り返している。
  • 過去のバリウム検査でむせたことがある。

「少しむせやすいだけ」と思っても、バリウム検査では重要な情報になる。

誤嚥が心配な場合はバリウム検査を避けられるか

誤嚥が心配な場合、バリウム検査を無理に受けず、代替検査について相談できる。

胃の検査には、バリウム検査だけでなく胃カメラという選択肢がある。胃カメラは、内視鏡で食道・胃・十二指腸を直接観察する検査であり、必要に応じて生検も可能である。

ただし、胃カメラでも咽頭反射、鎮静剤の使用、誤嚥リスク、基礎疾患による注意点があるため、どちらが安全かは個別に判断する必要がある。

「バリウムが怖いから胃の検査を受けない」のではなく、自分のリスクに合った検査方法を相談することが重要である。

バリウム誤嚥後に医療機関で行われる検査

バリウム誤嚥が疑われる場合、医療機関では呼吸状態の確認、胸部X線、必要に応じて胸部CTなどが行われる。

バリウムはX線で白く写るため、気管や肺に入った場合、胸部X線やCTで高吸収物質として確認されることがある。

また、酸素飽和度を測定し、低酸素がないかを確認する。症状が強い場合や低酸素がある場合は、酸素投与、入院管理、感染や炎症への対応が必要になることがある。

医療機関で確認されること

  • 酸素飽和度
  • 呼吸数、脈拍、血圧、体温
  • 胸部X線
  • 必要に応じた胸部CT
  • 発熱や炎症反応の有無
  • 誤嚥性肺炎の有無

受診時には、「いつバリウム検査を受けたか」「検査中にむせたか」「咳や息苦しさがいつからあるか」を伝えることが大切である。

治療はどうするか

バリウム誤嚥の対応は、誤嚥量、症状、酸素状態、基礎疾患によって異なる。

少量で症状がほとんどない場合は、経過観察になることもある。一方で、呼吸困難、低酸素、発熱、肺炎が疑われる場合は、酸素投与、入院管理、抗菌薬、呼吸管理などが検討される。

大量誤嚥では、画像上は非常に目立つ白い陰影を示すことがある。画像所見が派手でも症状が軽い例も報告されているが、逆に症状が強い場合は重症化に注意する必要がある。

自宅で無理に咳で出そうとしたり、市販薬だけで済ませたりせず、症状がある場合は医療機関で判断を受けるべきである。

バリウム誤嚥を防ぐための対策

バリウム誤嚥を防ぐには、検査前にリスクを伝え、検査中は焦らず指示に従うことが重要である。

特に、むせやすい人、飲み込みにくい人、過去にバリウム検査でむせた人は、事前申告が最も重要である。

誤嚥予防のポイント

  • 水分でむせやすいことを事前に伝える。
  • 過去に検査中むせた経験を伝える。
  • 検査中に急いで飲みすぎない。
  • 検査技師の指示に従って飲む。
  • むせたらすぐに伝える。
  • 不安が強い場合は代替検査を相談する。

誤嚥リスクが高い人では、バリウム検査を受けるかどうかを含めて、事前に医療機関へ相談することが望ましい。

バリウム誤嚥とアレルギーは違う

バリウムを飲んだ後の体調不良には、誤嚥だけでなく、アレルギー様症状や消化管トラブルもある。

誤嚥は、バリウムが気管や肺に入ることで起こる。一方で、蕁麻疹、顔の腫れ、息苦しさ、冷や汗、血圧低下などがある場合は、アレルギー様反応やショックの可能性も考える。

また、バリウム検査後には、便秘、腹痛、腸閉塞、消化管穿孔などもまれに問題となる。

状態 主な症状
誤嚥 むせ、咳、息苦しさ、胸の違和感、発熱など
アレルギー様症状 蕁麻疹、かゆみ、顔や喉の腫れ、息苦しさ、冷や汗など
腸閉塞・便秘 腹痛、腹部膨満、便やガスが出ない、嘔吐など

バリウム検査後の異常は、すべてを誤嚥と考えるのではなく、症状の種類で整理する必要がある。

よくある質問

バリウムを少し誤嚥しただけでも危険か?

少量で咳がすぐ落ち着き、息苦しさや発熱がなければ経過をみられることもある。ただし、咳が続く、息苦しい、発熱がある場合は医療機関へ相談する。

検査中にむせたら必ず肺に入っているのか?

むせたからといって必ず肺に入ったとは限らない。ただし、強くむせた、咳が続く、息苦しい場合は誤嚥の可能性を考える。

バリウム誤嚥はレントゲンでわかるか?

バリウムはX線で白く写るため、気管や肺に入った場合、胸部X線やCTで確認できることがある。

誤嚥したバリウムは自然に消えるのか?

症状や誤嚥量によって異なる。少量で症状が軽ければ経過観察になることもあるが、大量誤嚥や呼吸症状がある場合は医療機関での評価が必要である。

むせやすい人はバリウム検査を受けない方がよいか?

水分でよくむせる人、嚥下障害がある人、脳梗塞後の人などは、検査前に必ず相談すべきである。胃カメラなど代替検査が検討されることもある。

まとめ

バリウム誤嚥とは、胃の検査で飲んだバリウムが気管や肺に入ってしまう状態である。

少量であれば咳だけで落ち着く場合もあるが、大量に誤嚥した場合や、嚥下障害・肺疾患・高齢などのリスクがある場合は、呼吸困難、低酸素、肺炎、ARDSなどを起こす可能性がある。

検査中にむせた場合は、我慢せず、すぐ検査担当者へ伝えることが重要である。検査後に咳が続く、息苦しい、発熱がある、胸痛がある、顔色が悪い場合は、早めに医療機関へ相談する。

また、普段から水分でむせる人、飲み込みにくさがある人、脳梗塞後、パーキンソン病、食道狭窄、食道腫瘍などがある人は、バリウム検査前に必ず申告するべきである。

バリウム検査は胃を調べる有用な検査だが、すべての人に同じように安全とは限らない。誤嚥が心配な場合は、胃カメラなどの代替検査も含めて相談することが大切である。

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出典

  • Yan GW, Deng JF, Bhetuwal A, et al. A case report and literature review of barium sulphate aspiration during upper gastrointestinal examination. Medicine (Baltimore). 2017;96(47):e8821.
  • Daw HA, et al. Barium aspiration. BMJ Case Reports. 2012.
  • PMDA. 医薬品・医療機器等安全性情報 No.219. 硫酸バリウム製剤に関する使用上の注意.
  • 日本消化器がん検診学会. 胃がん検診に関する情報.