年々増加傾向の大腸がんであり、手術のケースも増えています。手術の合併症の一つに縫合不全があります。縫合不全とは、腸管のつなぎ目である縫合部が完全ではなく、そこから腸管液や内容物などが漏れる(リーク:leak)ことがあり、注意が必要なが合併症です。
腸管内容物が腸管外に漏れ出てしまうと、腹膜炎の原因となり命にかかわることもあります。
そこで今回は大腸がんの手術の後に起こりうる縫合不全について原因から診断までまとめました。
大腸がんの縫合不全の原因は?
縫合不全とは消化管の縫合部の癒合が起こらずに破綻してしまった状態をいいます。縫合不全が起こる原因として、大きく2つに分けることができます。
- 全身的要因
- 局所的要因
の2つです。
全身的要因
全身的要因とは、
- 低栄養、ビタミンC欠乏、カルシウム欠乏
- 糖尿病など慢性疾患の併存
- ステロイドや抗生物質の長期投与
など、手術を受ける患者さんの全身状態が原因となることです。これらの場合は、一般の元気な方よりも縫合不全が起こりやすいと言われています。
局所的要因
一方で局所的要因とは、
- 手術をした部位局所の血流や浮腫
- 吻合部の緊張の程度
- 緊急手術
などが挙げられ、これらが原因で縫合不全を引き起こすことがあります。
大腸がんの縫合不全の頻度は?
大腸の縫合不全は、胃や食道などの上部の消化管と比べて縫合不全の頻度は少ないとされていますが、
- 大腸である結腸直腸の手術をした人のうちの5%程度にこの縫合不全
が起こると言われています。中でも結腸よりも直腸に多いとされています。
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縫合不全はどんな時に疑う?
縫合不全を疑う臨床的な指標
- 腹膜炎症状がある。
- ドレーンや創部からの便汁様液体の排出
- ドレーンや創部、肛門部からの膿の排泄。
- 発熱
- 敗血症状態
これらが見られたら縫合不全の可能性を考慮します。
発熱や腹痛などの臨床症状に加えて、排液ドレーンの性状も重要です。
縫合不全であるとどうやって診断する?
- CT検査
- 注腸検査
通常は、より広範に状態を把握できるCTにより検査することが多いです。ただし、縫合不全があれば必ずCTでそれがわかるというわけではないので注意が必要です。注腸検査を行う場合は水溶性の造影剤の使用が推奨されています。
CTでは
- 空気を含んだ液の腸管外への流出(最重要)
- free air
- 膿瘍形成
などを手掛かりとして縫合不全の可能性をチェックしていきます。
術後お腹の中に空気はどれくらい残る?
腹腔内のairの事を遊離ガス(free air)と呼びますが、これは手術も何もしていない人に見られる場合は消化管穿孔などを疑う重要な所見ですが、手術をした場合は、このガスが残ることがあります。
- 通常術後7-10日程度はこの腹腔内遊離ガスが見られる
ことがあります。しかし、これ以上の日にちが経過している場合は、縫合不全の可能性も考慮します。
また同じように手術という侵襲により炎症が起こり液貯留することがありますがこれも通常7日程度では消えます。逆に術後1週間程度ならば、手術操作による炎症なのか、感染による炎症なのかは区別がつかないことがあります。
縫合不全の治療は?
治療は
- 抗生剤投与・絶食などによる保存的治療
- 膿瘍のドレナージ
- 重症な場合は再手術
が行われます。ドレナージはエコーガイド下で行われる場合と、CTガイド下で行われる場合があります。
最後に
大腸がんの術後の合併症には早期合併症と晩期合併症があります。この縫合不全は早期合併症に該当します。
- 吻合部関連合併症(縫合不全、出血、狭窄、瘻孔)
- 膿瘍
- イレウス
- 創感染
- 手術操作に伴う他臓器損傷
縫合不全は、leakが多ければ便汁が腹腔内に漏れ出て腹膜炎から命に関わることもありますので、まずはその可能性を疑うことが非常に重要です。
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参考文献)画像診断vol.33 No.11 臨時増刊号2013 P76-92