胸痛を起こす病気の中で、命に関わる非常に重篤な病気は、

の4つであり、早期診断及び早期治療が非常に重要です。今回は、中でも

  • 突然発症の原因不明の呼吸困難
  • 低酸素血症

の原因となる、急性肺動脈血栓塞栓症(肺塞栓症)について、その原因、症状、診断(採血所見から画像診断)、治療までまとめました。


肺血栓塞栓症とは?

PE1

肺血栓塞栓症とはどういう状態でしょうか?

肺動脈に血栓が詰まった状態です。

肺動脈にどこかから飛んできた血栓(血の塊)が詰まる状態を肺血栓塞栓症(肺塞栓症)と言います。

特に太い血管が詰まってしまうとより末梢の肺動脈に血流が流れにくくなり、その支配域の肺はガス交換ができなくなります。ですので、広い範囲の肺血管に血流障害を生じる、太い(中枢の)血管が詰まるほど重症となります。

肺血栓塞栓症の原因は?

なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
原因は何でしょうか?

主に下肢の静脈でできた血栓が原因となります。

肺動脈を詰まらせる原因となる塞栓子の多くは、下肢や骨盤内の静脈でできた血栓です。下肢の深いところの静脈でできる血栓ですので、深部静脈血栓と言います。

  1. 下肢や骨盤内に深部静脈血栓ができる。
  2. それが静脈内に遊離
  3. 心臓(右房→右室)を経て肺動脈へと移動し、そこで詰まる。

という流れです。

「下肢の深いところで静脈血栓ができ、肺動脈が詰まる」ということが多く、これを一連の病態として捉えて、「静脈血栓塞栓症」という疾患名で呼ばれることもあるくらいです。

造影CTにて、右下肢静脈に低吸収の血栓(黒く抜けている)あり。

CT of DVT

肺血栓塞栓症の症状は?

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どのような症状が出るのでしょうか?

症状は非特異的ですが、以下のようなものが挙げられます。

肺血栓塞栓症の症状
  • 突然発症の原因不明の呼吸困難
  • 突然発症の胸痛
  • 低酸素血症
  • 重症例では急性右心不全による突然死

 

突然死が起こることがあるのですね・・・。

塞栓の大きさにより無症状から突然死まで経過は様々ですが、死亡率は、心筋梗塞よりも高く14%と言われています。

なお、胸痛が起こる機序としては以下の2種類が考えられます。

  • 末梢肺動脈閉塞→肺梗塞→胸痛
  • 中枢肺動脈閉塞→右室虚血→胸痛

参考)『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、 治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)』

肺血栓塞栓症の検査は?診断は?

どうやって肺血栓塞栓症と診断するのでしょうか?

確定診断は造影CTでされることが多いですが、胸痛の人になかなか造影CTまで撮影しないことが多いです。つまり、まずはこの疾患を疑うことが非常に重要です。

PE diagnosis1

肺血栓塞栓症を診断するには、

  1. 症状や身体所見、既往歴などから肺血栓塞栓症の検査前確率を予測すること
  2. D-dimerを測定すること

が非常に重要です。

検査前確率を予測するには、Wells scoreを用いられることが多く、以下の通りです。

Wells scoreとは?その判定方法は?

DVTの臨床所見(下肢腫脹、疼痛) 3.0
心拍数>100 1.5
4週間以内の手術・長期臥床 1.5
DVTもしくはPEの既往 1.5
喀血 1.0
悪性疾患(6ヶ月以内の治療) 1.0
PEが他の鑑別疾患と比べてより濃厚 3.0

これらの得点を足して、

  • 0-1点ならば、肺血栓塞栓症である臨床的可能性が低い。
  • 2-6点ならば、肺血栓塞栓症である臨床的可能性が中等度。
  • 7点以上ならば、肺血栓塞栓症である臨床的可能性が高い。

と判定します。

D-dimer(ディーダイマー)はなぜ重要?

D-dimerはなぜ重要なのでしょうか?

これを測れば、この病気を除外できる場合があるからです。

この病気であると診断するのではなく、この病気を除外するのに用いるのですか?

その通りです。

D-dimerは陰性であった場合に、肺血栓塞栓症ではないとこの病気を除外(否定)できることがあります。

特に、これは、検査前確率が低い場合つまり、上のWells scoreが低い時に有効であり、D-dimerが陰性ならこの病気の可能性は極めて低くなり、肺血栓塞栓症ではないと除外することができます。

一方で、検査前確率が高い場合、つまり臨床上は肺血栓塞栓症の可能性が高いと考えるのに、D-dimerが陰性の場合は、陰性だからといってすぐに否定(除外)しないように注意が必要です。

つまり、検査前確率が中等度以上なら、D-dimerが正常であっても、CT、換気・血流シンチなどさらなる精査を必要とする場合があるので注意しましょう。

ちなみに、D-dimerが陰性とはD-dimer値が500μg/L以下である場合です。

その他重要な検査は?

心エコー

右室負荷所見(右室拡大、TR、IVCの呼吸変動消失)の有無をチェックする、有用な検査です。

胸部X線

非特異的異常所見(胸水、横隔膜挙上、肺陰影)のほか、

  • Knuckle sign(ナックルサイン)と呼ばれる肺動脈の局所的な拡大
  • Westrmark’s sign(ウエスターマークズサイン)と呼ばれる肺血管分布に一致する血管影の減少
  • Hampton’s hump(ハンプトンハンプ)と呼ばれる肺梗塞に陥った時に見られる胸水・胸膜面を底辺とする楔状の肺浸潤影

が見られる場合があります。

心電図

S1Q3T3(Ⅰ誘導のS波、Ⅲ誘導のQ波・陰性T波)が見られることがあります。

もっとも重要な検査は造影CT!その所見は?

検査前確率が高いとき施行される検査であり、胸痛や呼吸困難の人には通常なかなか行わない検査です。

造影CTにより肺動脈に血栓が詰まっていることを確認することが極めて重要です。単なる造影ではなく、肺動脈に造影剤があるタイミングで撮影する肺動脈CTAの撮影が極めて重要です。

またこのCTのもう一つの利点として、4−5分後に下肢の静脈造影を行うことができ、深部静脈血栓の検索にも用いることができる点です。

つまり、

  • 胸痛や呼吸困難を起こしている肺動脈に血栓が詰まっていること
  • その血栓が作られている下肢などの静脈に血栓があること

の2点をチェックすることができ、1度で2度美味しいのがこの造影CTとも言えます。さらに

  • 肺梗塞の有無
  • 右室負荷所見の有無

なども合わせてチェックすることができるため、1度で2度美味しいどころではなく、この病気を疑った場合にこの検査をする意義というのは非常に大きいということです。

症例 40歳代男性

CT of PE

両側肺動脈に血栓あり。CT of DVT

右下肢に深部静脈血栓あり。

このCT画像をコロコロスクロールしてみてみる。→肺動脈血栓塞栓症のCT画像診断

 

右室負荷所見というのは、重要なのでしょうか?

非常に重要です。

右室負荷所見があれば予後が増悪し、再発率が高くなるというデータがあり、重症の肺動脈血栓塞栓と診断することができます。

造影CTでチェックすべきポイント
  • 肺動脈血栓塞栓の有無
  • 深部静脈血栓の有無
  • 右室負荷所見の有無(心室中隔の左室側への偏位、左房縮小)

 

造影CTで肺塞栓を疑う所見を認めなくても肺塞栓のことがある

ちなみに造影CTで肺動脈に血栓を認めなければ、否定することはできますか?

残念ながらできません。

造影CTを撮影して肺動脈に血栓を疑うような造影欠損域を認めなくても、それで肺動脈血栓塞栓を否定することはできません。臨床的に疑わしい場合は、さらに核医学検査である肺血流シンチグラフィを撮影して、肺動脈の低下の有無をチェックします。

肺動脈血栓塞栓の治療は?

治療は、軽症の場合は

  • 抗凝固療法(急性期にはヘパリン、急性期以降はワーファリン)

のみが行われますが、ショック状態や右心負荷所見がある場合など重症の場合は、これに加えて

  • 血栓溶解療法(ウロキナーゼ、t-PA)
  • カテーテルインターベンション(IVR)
  • 肺動脈血栓摘除術

が行われることがあります。従来内科的治療が主体でしたが、効果の発現が遅くIVRによる治療も注目を集めています。また、深部静脈血栓を認める場合は下大静脈フィルターの留置が行われます。

最後に

もしかしたら肺動脈血栓塞栓症(肺塞栓症)であるかもしれない!と疑って、検査などを施行しないとこの病気の診断にはたどり着きません。確定診断となる造影CT、特に肺動脈CTAはこの疾患を疑いでもしない限り通常撮影しないからです。

突然の胸痛、突然の呼吸困難と典型的な症状から、非特異的な症状をきたすこともあり、命に関わる重大な疾患ですので、常にこの疾患を頭に入れておき、検査前確率をしっかり評価し、次のステップへと進むことがこの病気の診断には重要です。

 




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