産後に健康診断や胃がん検診の案内が届いて、「まだ授乳中だけれど、バリウム検査は受けてよいのだろうか」「バリウムや下剤の成分が母乳に出て、赤ちゃんに影響しないだろうか」と迷う人は多い。
結論からいうと、バリウム(硫酸バリウム)は口から飲んでも体に吸収されないため、母乳には移らないと考えられている。米国の授乳と薬のデータベース「LactMed」でも、特別な注意は必要ないとされている。一方で、検査の前後に使う下剤や発泡剤については、授乳中の影響を確かめられる資料が見つからなかったため、この記事では「分からない部分は分からない」と書き、検査を受ける施設で確認する流れを整理する。
この記事では、バリウム検査の何が気になるのかを分けて考え、確認できた根拠、検査前に伝えておくこと、相談先、検査後の過ごし方をまとめる。
- バリウム(硫酸バリウム)は吸収されないため、母乳には移らないとされている(LactMed)。
- 胃のX線検査で使う放射線は、体の外から当てるもので、母乳に放射性物質が移るわけではない。
- 下剤・発泡剤の授乳への影響は、確認できた資料がない。薬の種類や量は、施設の医師・薬剤師に聞く。
- 授乳中の扱いは施設で異なるため、予約の時点で授乳中と伝える。
授乳中のバリウム検査で気になる点
胃のバリウム検査(胃X線検査)は、バリウムと発泡剤を飲み、体を動かしながらX線で胃の粘膜を撮影する検査である。検査後には、バリウムを体の外に出すために、下剤や水分をとる必要がある。
授乳中に気になるのは、大きく分けて次の4点である。
- バリウム:飲んだバリウムが母乳に出ないか
- X線(放射線):撮影の放射線が母乳に影響しないか
- 発泡剤:胃をふくらませるために飲む薬が母乳に移らないか
- 下剤:検査後に飲む薬が母乳に移らないか
一つにまとめて「大丈夫か」と考えるより、この4点に分けて、根拠が確認できるものとできないものを区別するほうが、迷いにくい。

胃バリウム検査でわかる病気や検査の流れは、胃バリウム検査とは?わかる病気・検査の流れ・検査後の注意点をやさしく解説で解説しています。
バリウムとX線について確認できたこと

バリウムについて。米国国立衛生研究所(NIH)が運営する授乳と薬のデータベースLactMedの「硫酸バリウム」の項(2018年10月31日改訂)には、硫酸バリウムは口や肛門から入れても吸収されないため、母乳に入らず、赤ちゃんの血液にも届かず、有害な影響も起こさないと書かれている。そのうえで、特別な注意は必要ないとされている(LactMed 2018)。なお、同じ項には、母親や乳児の血中・母乳中の濃度を調べた報告は見つからなかったとも書かれている。つまり「実測データがある」のではなく、「吸収されない薬だから母乳に出ない」という薬の性質に基づいた判断である。
X線について。胃のX線検査で使う放射線は、体の外から当てる放射線である。授乳中の画像検査について、米国産婦人科学会は、画像検査の安全性への誤解から、必要な検査が避けられたり、不要な授乳の中断が起こったりすることがあると指摘している(ACOG 2017)。授乳中のX線検査や乳房X線検査、CTでは、放射線が母乳に影響せず、授乳を続けてよいという推奨が、母乳学会(Academy of Breastfeeding Medicine)のプロトコルに基づいて紹介されている(Karatekin 2024)。
一方、放射性の薬を体の中に入れる核医学検査は、薬の種類によって授乳を控える必要が生じる場合があり、バリウム検査とは区別して考える必要がある(Mattsson 2021)。胃のバリウム検査は、放射性の薬を使う検査ではない。
下剤と発泡剤は確認できる資料が見つからなかった
検査後の下剤と、検査中の発泡剤については、授乳中に使ってよいかを示した日本の学会の原本や、LactMedの個別の項目を、今回は直接読んで確認することができなかった。このため、下剤や発泡剤について「母乳に出る」「出ない」「赤ちゃんの便がゆるくなる」といった断定は、この記事では書かない。
確認できた範囲で、次のことは言える。
- 検査後は、バリウムの排出を促すため、下剤や水分を多めにとるよう案内する施設がある(健診施設の公開資料)
- 便秘が続いている人や、腸閉塞などの既往がある人は、バリウムが腸にとどまる心配があるため検査を受けられないとする施設がある(同)
- 授乳中かどうかの扱いは施設によって異なり、授乳中でも受けられるが問診票への記入が必要とする案内もある
下剤の種類や、授乳中に向く薬かどうかは、処方・案内する施設の医師・薬剤師が、本人の状態を見て判断することである。種類や飲む量を自分で決めたり、減らしたりしないでほしい。
検査前に伝えること・相談先
授乳中にバリウム検査を受けるときは、次の順で確認すると進めやすい。
- 予約のとき:授乳中であること、産後の経過(いつ出産したか)を伝える
- 問診票:授乳中にチェックを入れ、普段飲んでいる薬や、便秘の傾向も書く
- 検査当日:下剤の種類と、授乳中でも使えるものかを、医師や看護師、薬剤師に確認する
- 赤ちゃんの体調が気になる:母乳をあげたあとに便や機嫌に変化があれば、小児科にも相談する
授乳中の検査について不安が強い場合は、かかりつけの産婦人科や、検査を受ける施設の消化器内科で、検査の必要性を含めて相談するとよい。胃カメラ(上部消化管内視鏡)という別の方法もあるが、鎮静剤を使う場合の扱いなど別の確認点がある。くわしくは胃カメラは妊娠中・授乳中でも受けられる?の記事を参考にしてほしい。
検査後に自分でできること
バリウムは、検査後にきちんと体の外へ出すことが大切である。検査後の過ごし方は、次のような点を守る。
- 水分:施設の案内にそって、水分を多めにとる(水分の制限を受けている人は主治医の指示にしたがう)
- 下剤:施設で案内された下剤を、案内どおりに使う
- 排便の確認:バリウムが出ているか、数日間は様子を見る
- 食事:検査後の食事の目安はバリウム検査後の食事の記事を参考にする
- 副作用の確認:腹痛、吐き気、強い便秘が続くときは早めに連絡する。副作用のくわしい内容はバリウム検査の副作用にまとめている

バリウムがなかなか出ないときの対処は、バリウム検査後に便が出ない!いつまでに出ればいい?出ない場合の対処法まとめで解説しています。
検査後の便秘が続くときの対処や受診の目安は、バリウム後の便秘はどうする?出ないときの対処法・何科か・受診の目安で解説しています。
よくある疑問
Q1. 授乳中は、バリウム検査のあと母乳を捨てる必要がありますか?
A. バリウムは吸収されず母乳に移らないとされており(LactMed 2018)、バリウムを理由に母乳を捨てる根拠は確認できなかった。下剤などの薬については、施設の医師・薬剤師の説明にしたがってほしい。
Q2. 産後すぐでも受けてよいですか?
A. 産後何か月から受けてよいかを示した原本は、確認できなかった。産後の体の回復や、症状の有無によっても考え方が変わるため、産婦人科や検査施設の医師に相談してほしい。
Q3. バリウムがだめなときの代わりはありますか?
A. 胃カメラという方法がある。どちらが向くかは、症状、年齢、既往歴などによって変わるため、検査を受ける施設の医師に相談してほしい。
参考文献
- Barium Sulfate. Drugs and Lactation Database (LactMed). NIH, 2018(最終改訂 2018年10月31日)(PubMed PMID: 30000503)
- ACOG Committee Opinion No. 723: Guidelines for Diagnostic Imaging During Pregnancy and Lactation. Obstet Gynecol 2017;130:e210-e216
- Mattsson S, et al. X-ray and molecular imaging during pregnancy and breastfeeding. Radiat Prot Dosimetry 2021;195:339-348
- Karatekin S, et al. Should breastfeeding be interrupted after radiological imaging examinations? Children (Basel) 2024;11:453
- 健診施設の公開資料「バリウム検査時の安全基準」(dock-tokyo.jp)





