
ミトコンドリアDNAの異常が原因で起こるミトコンドリア病という病気があります。ミトコンドリア病の中には、CPEO、 MELAS(読み方はメラス)、MERRF(読み方はマーフ)の3つが有名であり、代表的です。ミトコンドリア病の病型の中では、MELASが最も多いとされています(Yatsuga ら 2012)。
MELASとは、mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes
の頭文字をとったものです。日本語では、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)と言います。
今回はこのミトコンドリア脳筋症(MELAS)について
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明します。
- MELAS(メラス)は、ミトコンドリアの働きの異常で、脳卒中に似た発作(脳卒中様発作)や筋力低下などをくり返す病気です。
- 多くはミトコンドリアDNAの変化が原因で、母親から子へ受け継がれる「母系遺伝」をとります。発症は小児期から若年に多いものの、成人での発症もあります。
- 診断は、症状・頭部MRI・血液や髄液の乳酸・遺伝子検査・筋生検などを組み合わせて行います。
- 病気そのものを治す根本的な治療は確立しておらず、症状に合わせた治療が中心です。脳卒中様発作の再発を減らす目的で、タウリンの大量療法が2019年に保険適用になっています。
- 頭痛・嘔吐をくり返す、けいれんや片麻痺が出る、聞こえにくい・見えにくいといった症状があれば、神経内科などの医療機関を受診してください。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)とは?
ミトコンドリアDNAの異常により中枢神経症状や筋症状など様々な症状が出る疾患で、別名ミトコンドリア病とも呼ばれます。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)の症状は?
酸素を使って、細胞が使うエネルギー(ATP)をつくる、いわば細胞の発電所です。
細胞エネルギー(ATP)産生を担っているため、エネルギーを多く必要とする脳や筋肉、心臓などで異常の影響が出やすくなります。
また、核のDNAとは別に、独自のミトコンドリアDNAを持っています。
- 低身長
- 筋力低下
- 知能低下
- 発達の遅れ
- 痙攣
- 嘔吐
- 頭痛
- 眼瞼下垂
- 精神症状
- 感音性難聴
- 一過性の片麻痺
- 視力障害
- 糖尿病
- 心筋症
- てんかん
など中枢神経症状や筋症状が見られます。
エネルギーが必要な脳や筋に障害が起こるため、このような症状が現れるのです。

小児期から若年での発症が多いものの、成人で発症する例もあります。日本の調査では、小児期発症に近い「若年型」と成人で発症する「成人型」で、症状の出方や経過が異なることが報告されています(Yatsuga ら 2012)。
ミトコンドリアDNAの異常が原因の場合、受精卵のミトコンドリアは母親由来のため、母から子に受け継がれる母系遺伝になります。ただし、変異をもつミトコンドリアの割合が高くならないと発症しないため、同じ家系でも症状の重さには差があります。
この遺伝子の異常により、エネルギー(ATP)をつくるミトコンドリアが十分に働けなくなることで症状が起こります。

ミトコンドリア脳筋症の診断は?
- 筋生検
- CT/MRI検査
- 遺伝子検査
で検査し、診断確定となります。
筋生検
筋繊維の周辺部にミトコンドリアが多数集積していることが分かります。
HE染色では好塩基性(青紫)に染まります。
ゴモリ・トリクローム変法では赤みを帯びひび割れて見えるために赤色ぼろ繊維(ragged-red fibers)と呼ばれます。
症例:35歳女性
歩行時の疲れや、筋力低下により手すりなしでは階段を上れないことを訴え来院。脳脊髄液所見に異常は認められない。
左上腕二頭筋生検のH-E染色体標本にて以下のような赤色ぼろ繊維を示す。
(出典:医師国家試験108D45)
CT/MRI検査
脳卒中のような症状が出るミトコンドリア脳筋症では、頭部CTやMRIの画像診断を行うと、脳梗塞類似病変が確認できます。
ただし、脳梗塞とは異なり血管支配域には一致せず、局部的に血流が増えていることを確認できる場合もあります。
症例:4歳女児
痙攣発作を訴え来院。3歳児検診で言葉の遅れを指摘されている。保育園でお昼寝中に意識障害や痙攣経験あり。
(出典:医師国家試験過去問データベース100A47)
頭部単純MRIのT2強調像にて左の後頭葉に浮腫性変化を認めています。
脳梗塞のような所見ですが。他の検査所見などと合わせてミトコンドリア脳筋症と診断。
症例 20 歳代女性 低身長。中学生の頃から頭痛,嘔吐の発作が頻発。
高校在学中には視力低下や聴力低下が指摘され,学力も徐々に低下し中退した.その後も身の回りのこと程度しかできなくなった.脳 MRA,心電図,心エコーは異常なかったが,髄液検査では乳酸が高値を示した.この患者の IMP による安静時脳血流 SPECT および脳 MRI (FLAIR) を示す。
10回核医学専門医試験問題45より引用。
MRI画像では右側頭葉後部、後頭葉、頭頂葉、前頭葉に梗塞様病変を認めています。
また年齢を考慮すると大脳半球の萎縮を認めています。
脳血流シンチグラフィでは、右優位に頭頂葉、後頭葉、側頭葉の血流低下を認めています。
他の臨床所見と合わせてミトコンドリア脳筋症(MELAS)を疑う所見です。
遺伝子検査
遺伝子検査では、ミトコンドリアDNAの変異を調べます。血液で調べることもありますが、変異をもつミトコンドリアの割合は組織によって違うため、筋組織など血液以外の検体で調べることもあります。
また、針筋電図で筋原性変化(筋肉そのものの異常を示す変化)を確認したり、血液・脳脊髄液の検査で乳酸が高値であることや、乳酸とピルビン酸の比(乳酸/ピルビン酸比)が高いことを確認します。安静時の乳酸が血液や髄液で繰り返し高い(2mmol/L以上)ことが、診断の手がかりのひとつとされています(難病情報センター)。

脳卒中のような症状の代表である脳梗塞については、小さい脳梗塞ではどんな症状がある?診断や治療はどうする?でくわしく解説しています。
画像でみる脳の萎縮については、脳萎縮とは?加齢との違い、症状・原因とCT・MRI画像の見方、受診の目安でくわしく解説しています。
ミトコンドリア脳筋症の治療法は?
病気そのものを治す根本的な治療法は、現時点では確立していません。
治療は基本的に、各臓器の症状に対して対症療法が行われます。
脳卒中様発作の再発を減らす目的では、タウリンの大量療法が2019年2月に保険適用になりました(難病情報センター)。日本で行われた臨床試験(患者10人、対照群なし)では、1年あたりの脳卒中様発作の回数が2.22回から0.72回に減ったと報告されています(Ohsawa ら 2019)。小規模な試験のため、使えるかどうかや使い方は主治医が判断します。

また、ミトコンドリアの機能改善目的のため
- 水溶性ビタミン類(ナイアシン、B1、B2)
- コエンザイムQ10
- アルギニン
- タウリン
- ピルビン酸
などが使われることがあります。コエンザイムQ10は効果がはっきりしないものの、よく使われると説明されています(難病情報センター)。どの薬を使うかは、症状や施設によって異なります。
予後は、脳・心臓・腎臓など中心となる臓器がどの程度障害されているか、いくつの臓器に及んでいるかによって、患者さんごとに大きく異なります(難病情報センター)。
最後に
- ミトコンドリア脳筋症は中枢神経症状や筋症状が見られる
- ミトコンドリアDNAの異常が原因で、母系遺伝をとる
- ミトコンドリアは細胞のエネルギー(ATP)をつくる器官
- 筋生検、画像診断、遺伝子検査で診断を行う
- 根本的な治療は確立しておらず、対症療法が中心(発作予防のタウリン療法あり)
根本的な治療が確立されていないため、発作の予防や症状を和らげる治療を、早い段階から主治医と相談して続けていくことが大切です。
よくある疑問
Q. MELASは脳梗塞と何が違いますか?
脳梗塞のような画像でも、MELASでは病変が脳の血管の支配領域とは一致しないことが特徴です。年齢や他の検査結果と合わせて判断します。
Q. 家族がMELASです。自分もなりますか?
母親が変異をもつミトコンドリアDNAは子に受け継がれますが、変異の割合によって発症するかどうか、重さは大きく変わります。心配なときは神経内科や遺伝カウンセリングを行っている施設で相談してください。
Q. 医療費の助成はありますか?
ミトコンドリア病は国の指定難病(指定難病21)です。重症度などの条件を満たす場合に医療費助成の対象になります。くわしくは主治医や自治体の窓口に確認してください(難病情報センター)。
参考文献
- Yatsuga S, et al. MELAS: a nationwide prospective cohort study of 96 patients in Japan. Biochim Biophys Acta 2012. PubMed
- Ohsawa Y, et al. Taurine supplementation for prevention of stroke-like episodes in MELAS: a multicentre, open-label, 52-week phase III trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2019. PubMed
- 難病情報センター ミトコンドリア病(指定難病21) https://www.nanbyou.or.jp/entry/335








