
映画やドラマになった「1リットルの涙」でも話題となった、脊髄小脳変性症(SCD)という難病に指定される病気があります。
この映画やドラマを見て、いつ誰がなるか分からない・・・そんな怖さを感じた人は多いのではないでしょうか?
脊髄小脳変性症は、遺伝性と孤発性に分けられますが、今回は孤発性に分類される多系統萎縮症(英語表記で「multiple system atrophy」、略語で「MSA」)について
- 症状
- 診断
- 治療法
を分かりやすくご説明したいと思います。
先に結論
- 多系統萎縮症(MSA)は、ふらつき(小脳症状)・パーキンソン症状・自律神経症状(立ちくらみ、排尿障害など)が組み合わさって進行する神経の病気で、指定難病です。
- 現在は、小脳症状が目立つ「MSA-C」とパーキンソン症状が目立つ「MSA-P」に大きく分けます。日本ではMSA-Cが多いとされています。
- 30歳以降、多くは40歳以降に発症し、ほとんどは遺伝しない孤発性です(厚生労働省 指定難病の概要)。
- 根本的な治療はなく、症状に合わせた薬とリハビリが中心です。
- ふらつき、立ちくらみ、排尿のトラブル、睡眠中の強いいびきや呼吸の異常が続くときは、神経内科に相談しましょう。
多系統萎縮症とは?
多系統の神経系の障害が進行していく、神経変性症候群です。
脊髄小脳変性症の中の孤発性に分類する、
- 自律神経症状
- 小脳症状
- パーキソニズム症状
からなる疾患です。かつては、始まり方によって3つの病名で呼ばれていました。
関連記事)脊髄小脳変性症(SCD)の症状や原因、治療法のまとめ
多系統萎縮症の分類と症状は?
※現在の分類は、診断時に目立つ症状によるMSA-C(小脳失調が目立つ)とMSA-P(パーキンソン症状が目立つ)の2つです。どちらも自律神経症状を伴うことが多く、Shy-Drager症候群は、自律神経症状で始まるタイプを指す従来の呼び名です(厚生労働省 2022年度版 指定難病の概要)。

脊髄小脳変性症の中でも孤発性に分類される多系統萎縮症は、
- C-MSA(小脳失調型多系統萎縮症)
- P-MSA(パーキンソン病主体の多系統萎縮症)
- Shy-Drager症候群(SDS)
とに分けて呼ばれてきました。

C-MSA(小脳失調型多系統萎縮症)
- 小脳性構音障害
- 失調性歩行
- 体幹失調
- 四肢の協調運動障害
まず初めに小脳症状が出現し→進行するにつれパーキンソニズム・自律神経症状が現れます。
日本では多系統萎縮症の中でMSA-C(OPCA)が多いとされています。
別名オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)とも呼ばれます。
P-MSA(パーキンソン病主体の多系統萎縮症)
- 動作緩慢
- 筋強剛
- 小刻み歩行
初期症状としてパーキンソニズムが現れ、進行すると小脳症状や自律神経症状が出現します。
パーキンソン病に比べて、安静時の震えが少なく、進行が早く、パーキンソン病の薬が効きにくいとされます。
こちらは欧米で多いタイプとされます。
別名線条体黒質変性症(SND)とも呼ばれます。
Shy-Drager症候群
- 起立性低血圧
- 食事性低血圧
- 排尿障害
- 便秘
- 勃起障害
- 発汗障害
- 無汗症
- Horner症候群
自律神経症状主体で、進行すると小脳症状やパーキンソニズムも現れます。
また、上記以外に突然死の原因ともなる睡眠時無呼吸障害も症状として現れることがあり、睡眠中の喘鳴(ぜーぜーという音)や無呼吸が特徴で、本人は無自覚なことも多いので、家族が注意してこの症状を見逃さないようにしなくてはいけません。
これらの疾患には共通して、病変部のグリア細胞(オリゴデンドログリア)内などに封入体(αシヌクレインがたまったもの)が見られることが明らかになっています。
そのため、この3疾患は多系統萎縮症という概念で統一されました。

小脳症状が出る仕組みを知りたい方は、小脳とは?場所・働きと、障害されたときの症状(ふらつき・失調)を解説でくわしく解説しています。
パーキンソン症状が目立つほかの病気として、レビー小体型認知症については、レビー小体型認知症とは?幻視・パーキンソン症状・診断(MIBG)・治療を解説でくわしく解説しています。
多系統萎縮症の診断は?
診断には臨床症候、CTやMRIが有効です。
C-MSA(小脳失調型多系統萎縮症)
小脳や橋(とくに底部)の萎縮が比較的早い時期から見られます。
T2強調像の水平断で、橋に十字状の高信号(十字サイン)や、中小脳脚の高信号化が見られることがあり、診断的価値が高いとされています(厚生労働省 指定難病の概要)。
症例 C-MSA MRI画像


P-MSA(パーキンソン病主体の多系統萎縮症)
被殻の萎縮や鉄沈着により、被殻外側部が直線状のT2高信号に見えることがあります。
病初期はパーキンソン症状に左右差があり、それに対応して線条体の萎縮や異常信号にも左右差を認めることが多くあります。
Shy-Drager症候群
C-MSA、P-MSAと同様の所見を様々な程度に合併します。
多系統萎縮症の治療方法は?
現時点で根本的な治療法は確立していません。
そのため、対処療法が一般的です。
- 小脳症状に対しては、酒石酸プロチレリン(TRH製剤)・タルチレリン水和物(TRH誘導体)
- パーキンソニズムに対し、抗パーキンソン病薬(L-dopaなど)・・・パーキンソン病に比べて効果は乏しいものの、初期には有効なこともある
- 自律神経症状に対しては、塩酸ミドドリンが起立性低血圧に使用され、排尿障害に対しα遮断薬
呼吸障害には、夜間の換気を補助する方法(非侵襲的陽圧換気など)が用いられることがあり、飲み込みの障害が強いときは栄養方法の工夫が必要になります(厚生労働省 指定難病の概要)。薬の選択や量は個人差が大きいため、主治医の指示に従ってください。

多系統萎縮症の看護は?
小脳症状が出現すると、体幹失調などが出現することもある為、リハビリをおこなう中でも転倒防止に注意する必要があります。
リハビリをおこなうことで不自由さにも徐々に慣れてきますので、焦らずゆっくりとした患者のスピードに合わせることも重要です。
また多系統萎縮症では、声帯が開きにくくなること(声帯外転障害)や呼吸中枢の障害などにより、睡眠時の喘鳴や無呼吸が出ることがあり、突然死の原因になりうるため、睡眠中の甲高い音のようないびきや呼吸の止まりには注意し、気づいたら主治医に伝えましょう。
参考文献:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P209〜212
参考文献:内科診断学 第2版 P1059〜1062
参考文献:脳神経外科疾患別看護マニュアル P151・152
参考文献:厚生労働省「指定難病の概要・診断基準等」脊髄小脳変性症・多系統萎縮症 原本(PDF)
よくある疑問
Q. 遺伝しますか。
A. ほとんどは遺伝しない孤発例です。ごくまれに家族内で発症した例が報告されています。
Q. パーキンソン病との違いは?
A. 多系統萎縮症では、安静時の震えが少なく、進行が早く、パーキンソン病の薬が効きにくい傾向があり、ふらつきや自律神経症状が早くから目立つことがあります。見分けには専門医の診察と画像検査が必要です。
Q. 何科に行けばよいですか。
A. 神経内科(脳神経内科)です。ふらつき・立ちくらみ・排尿障害などが続くときに相談してください。
最後に
- C-MSA・P-MSA・Shy-Drager症候群は、多系統萎縮症という概念で統一(現在の分類はMSA-CとMSA-P)
- C-MSAはオリーブ橋小脳萎縮症とも呼ばれ、小脳症状が初期症状としてあり、次いでパーキンソニズム症状、自律神経症状が出る
- P-MSAは線条体黒質変性症とも呼ばれ、パーキンソニズム症状が初期に現れ、小脳症状、自律神経症状が出る
- Shy-Dragerは自律神経症状を初発症状とし、進行するにつれ小脳症状やパーキンソニズム症状が出る
- 診断は、症候症状・CT・MRI
- 根治療法はなく、症状に合わせた対処療法が一般的
経過には個人差が大きいですが、国内の患者さん約230人を対象とした研究では、発症から車椅子の使用まで中央値でおよそ5年、臥床状態までおよそ8年と報告されています(厚生労働省 指定難病の概要)。
1日も早く治療法が見つかり、この病気で苦しむ人が救われますように。





