膵臓の手術の後や、膵臓周囲の臓器の手術の後の合併症の一つに、膵液瘻(すいえきろう、膵瘻(すいろう)と呼ばれることもあり。
英語では「pancreatic fistula」)があります。
今回は、膵液瘻について、
- 膵液瘻とは?
- 膵液瘻の定義
- 膵液瘻の症状
- 膵液瘻の治療
- 膵液瘻の看護のポイント
についてイラスト(図)や実際のCT画像を交えながらまとめました。
膵液瘻とは?
膵液瘻とは、膵臓そのものの手術や、胃など膵臓周囲の臓器の手術の際に、膵臓の損傷部から膵液が持続的に周囲に漏れてしまう病態を言います。
胃癌などの隣接する臓器の手術で、膵液瘻が起こってしまう原因としては、
- リンパ節郭清
- 膵臓の授動
などが挙げられます。
膵液瘻の定義は?
膵液瘻の定義は、膵癌の場合、
- 術後3日以降にドレーン排液中のアミラーゼの値が血清アミラーゼ値の3倍以上を示す場合を膵液瘻という(Surgery 138:8-13,2005)。
とされています。
胃癌の手術の場合には、膵癌のような定義はなく、ドレーンからの排液の量や性状、さらには持続する日数などから診断されます。
(ただし、この定義は治療に直結するものではなく、問題点も指摘されています。
今後、定義の見直しなどが必要と考えられてもいます。)
膵液瘻の症状は?
なぜ膵液が漏れてしまうことがまずいのでしょうか?
実は膵液は、タンパク質や脂肪、糖を分解する消化酵素を含んでいます。
つまり、イメージとしては周囲の臓器を「溶かしてしまう」というものです。
ですので、それが膵臓の周囲や腹腔内に漏れてしまうと、腹膜炎や膿瘍形成の原因となります。
その場合、腹痛や発熱などの症状が起こります。
また、手術の吻合部に膵液が触れると縫合不全を起こしたり、動脈に膵液が触れると、仮性動脈瘤を作ることがあり、その場合は破裂が起こると大出血を起こして命に関わることがあります。
膵液瘻の診断は?
膵液瘻の診断には、先ほどの膵液瘻の定義を満たすドレーン排液の性状を確認するほか、どの程度広がっているのかを見るためにCT検査が撮影されることがあります。
CTではどこに液体が貯留しているのかに加えて、造影剤を用いることにより液体辺縁に造影効果を認める場合は膿瘍化していることの診断も可能となります。
症例 50歳代 男性 膵内分泌腫瘍
膵体部の神経内分泌腫瘍に対して腫瘍核出術が施行されました。
術後のCTでは、核出部から周囲に連続する液体貯留を認めており、膵液瘻と診断されました。
液体の辺縁には明らかな造影効果は認めておらず、この時点では膿瘍形成は認めていないと診断されました。
膵液瘻の治療は?
膵液瘻の治療は、量が少ない場合は経過観察で消失することもありますが、多い場合には漏れた膵液を回収しなければなりません。
手術後に入っているドレーンが漏れた膵液の近くにあれば、そこからの回収を待ちます。
膵液の近くになければ、エコーガイド下やCTガイド下でドレーンチューブを留置するドレナージ術を行います。
場合によっては、再度これらの膵液瘻を除去する目的で手術されることもあります。
膵液瘻の看護のポイント(観察項目)は?
看護のポイント(観察項目)としては、
- ドレーン排液の色調、性状
- 腹痛などの症状の有無
- 炎症反応の増加の有無
- 貧血の進行の有無
と言ったことをチェックすることです。
特にドレーン排液では、
- 胆汁が混じる→淡黄色
- 膵臓周囲の組織を溶かす(融解)→赤ワイン色
となることがあるので、色調の変化をチェックすることは重要です。
また、膵液瘻の定義にもあるように排液のアミラーゼの値は診断、治療効果判定にも重要となります。
詳しくはこちら→胆汁漏の定義は?看護で注意すべきドレーンのポイントは?
まとめ
- 膵液瘻は膵臓や周囲の臓器の手術の際に膵管を傷つけることにより漏れる膵液。
- 膵液は消化酵素であり、周囲の臓器を溶かす恐れがある。
- そのため治療では漏れた膵液をドレーンチューブで回収する必要がある。
- 看護のポイントは、ドレーン排液の色や性状が重要。
今回は膵液瘻についてまとめました。
膵臓や、胃がんの手術の後に、ドレーン排液がおかしいと思った場合や、腹痛などの症状が続く場合には、膵液瘻の可能性を考えることが重要です。