急性膵炎になると、48時間以内に早期治療開始が必要となり、基本は絶飲絶食となります。
それによって膵臓を安静にすることを目的とします。
また、十分な輸液、循環動態の維持、痛みに対しての治療や感染症などの合併症を予防する治療が大切です。
軽症例ではこの基本的治療が、重症例では集中治療や合併症治療が行われることになります。
では、そのような治療では、どのような薬が使われるのでしょう?今回は、急性膵炎の治療薬として
- 基本的治療に用いられる治療薬
- 予防治療
- 合併症治療
- 予後の治療
について、実際に使われることの多い治療薬名を挙げながらご説明したいと思います。
急性膵炎の基本的な治療に用いられる薬は?
絶飲絶食・輸液・除痛・モニタリングが基本的治療として重要となります。これは入院管理によって行う必要がありますが、どのような薬が使われるのでしょう。2015年最新急性膵炎ガイドラインによると・・・
輸液
- アセテートリンゲル
- ラクテートリンゲル
などが使用されます。ショック状態や脱水状態の患者に対しては、ショックの有無 や脱水の程度にもよりますが、短時間の急速輸液(150~600 mL/h)を行うことも有用です。しかし、過剰輸液とならないように十分に注意する必要があります。
脱水状態でない患者には、十分な輸液(130~150 mL/h)と共にモニタリングを 厳重に行う必要があります。特に、併存疾患として心不全や腎不全を有する患者に対し、厳密に循環血 液量を評価し輸液速度を決定します。
除痛
- ロキソニン
- ボルタレン
- レペタン
- ブスコパン
- コリオパン
- セスデン
- チアトン
- コスパノン
- スパカール
- ブプレノルフイン塩酸塩
- ペンタゾシン
これらの薬が除痛として効果的ですが、急性膵炎の場合は特に、ブプレノルフイン塩酸塩やペンタゾシンを硫酸アトロピント併用することが効果的とされています。
それでも効果がない場合には除痛薬として強力な麻薬性鎮痛剤、モルヒネが使用されます。
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急性膵炎で合併症予防として使用される薬は?
臓器不全や感染予防対策として、抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬が使用されます。これらの薬は、軽傷例では使用されず、重制度の場合に薬物療法として使用されます。
抗菌薬
グラム陰性菌を中心とした腸内細菌がbacterial translocation(バクテリアルトランスロケーション)により、膵臓や膵臓の周囲に感染症を引き起こしてしまったた場合、致命的な合併症となります。そのため、予防するために、抗菌薬が用いられます。
- カルバペネム系(イミペネム・メロペネム)
- ニューキノロン系(シプロフロキサシン)
軽症例では必要ありませんが、重症例や壊死性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は、発症早期である発症後 72 時間以内の投与に より生命予後を改善する可能性があるという報告があります。
蛋白分解酵素阻害薬
急性膵炎の発症進展には、膵酵素の活性化の関与が考えられているため、蛋白分解酵素阻害薬はその活 性を抑制する効果があると、膵炎の進行を防止する目的で急性膵炎発症後、早期に治療を開始することが有効とされています。
しかし、2015年最新ガイドラインによると、経静脈的投与による 生命予後や合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていません。重症例に対する大量 持続点滴静注の効果については更に検討が必要であり、使用目的としては予防のためというのが中心となります。
- ガベキサートメシル酸塩
が通常用いられます。
また、これ以外に、栄養療法として、経腸栄養を診断後すぐ、もしくは48時間以内に行います。また、ACS対策として内容物やガスを出すことで消化管の減圧を図る目的で、内科的治療が無効な場合、外科的減圧術を行うこともあります。
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急性膵炎の合併症治療は?
局所合併症に対するインターベンション治療として、下のように壊死を要する場合はドレナージやネクロセクトミーが行われます。
黄疸などの胆管通過障害や急性胆管炎を合併している場合に(胆石が原因の場合)、内視鏡治療を行います。
他にも考えられる合併症は、循環器・呼吸器・肝臓・消化器など、全身に様々なものが出る可能性もあり、それに対する治療が必要となってきます。
急性膵炎の予後の治療は?
多くの軽症例では、予後は良好で食事制限と禁酒にて膵臓の回復を待ち、約1年後の定期検診で改善が認められたらその後の治療は必要ないのですが、重症例では後遺症が出ることも多くあります。
その場合、糖尿病や消化吸収障害が後遺症として残ることもあり、予後も治療が必要となります。そうなってしまうと
- インスリンの投与
- 消化酵素剤の服用(パンクレアチン・ベリチーム・エクセラーゼ・タフマック・リパクレオンなど)
- 食事療法
など、症状にあった適切な治療を続けていく必要があります。
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最後に
- 絶飲絶食・輸液・除痛・モニタリングが基本的治療
- 臓器不全や感染予防対策として、抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬が使用される
- 局所合併症に対するインターベンション治療として、ドレナージやネクロセクトミー
- 胆石に対しては、内視鏡治療
- 重症例では、糖尿病や消化吸収障害といった後遺症が残り、その治療が予後も必要なことも
早期治療開始、適切な治療、予防、合併症治療、後遺症治療など、急性膵炎の場合様々な治療が重要となります。ですが、基本は、早期治療開始です。それが遅れると、重症化し、予後の治療が大変となるため、入院は必要となりますが、しっかりとした治療を受けることが大切でしょう。
参考文献)急性膵炎診療ガイドライン 2015