Esophageal hiatal hernia Eye-catching image

「ヘルニア」よく耳にする病名ですよね。

代表的なもので言えば、「椎間板ヘルニア」や「鼠径ヘルニア」がメジャーです。
そもそもヘルニアとはラテン語でそのまま脱出という意味です。

つまり、本来ある部位から脱出した状態がヘルニアとなります

今回は、そのヘルニアの中でも食道裂孔ヘルニア(英語表記でEsophageal hiatal hernia)の原因、分類、診断、治療法をご説明していきたいと思います。


食道裂孔ヘルニアとは?

食道裂孔ヘルニアは、横隔膜にある食道裂孔(食道が通る穴)から、胃を中心とする腹部臓器が縦隔内へ脱出した状態を言います。

※横隔膜は、胸部と腹部の間にある筋肉で出来た膜のことです。

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この食道裂孔ヘルニアは、肥満の中年男性や腰の曲がった高齢女性に多いとされています。

食道裂孔ヘルニアの原因は?

医師
以下の4つの原因があります。
  • 生まれつき食道裂孔が緩い
  • 肥満による腹圧上昇
  • 高齢になり体の組織が緩む(背中の曲がった亀背の状態により緩む)
  • 慢性の咳嗽性(がいそうせい)疾患による腹圧上昇

生まれつき食道裂孔が緩い

生まれつき、食道裂孔が緩い体質の方もいて、胃が脱出している状態が先天性食道裂孔ヘルニアです。

肥満

また、肥満の人は、大食やアルコール摂取により、内臓脂肪が増加したために腹圧が上昇し食道裂孔ヘルニアとなります。

加齢

加齢に伴い骨粗鬆症などによる脊椎変形のために前かがみの姿勢となり、常に亀の背のような背中が曲がった状態になると、食道裂孔が開き、それと同様に加齢によって筋肉の結合組織の脆弱化(もろく弱くなること)も原因となります。

慢性の咳嗽性疾患

喘息や慢性気管支炎などの慢性的に咳をすることも腹圧上昇の原因となり、それにより食道裂孔ヘルニアを起こします。

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食道裂孔ヘルニアの分類は?

食道裂孔ヘルニアは、以下の3つに分類されます。

  • 滑脱型
  • 傍食道型
  • 混合型
医師
それぞれについてご説明します。

滑脱型

hernia

食道裂孔ヘルニアの約90%がこの滑脱型で、最も頻度が多いタイプです。
逆流性食道炎の要因ともなります。

噴門の偏位が確認出来、逆流防止機構が不十分となることが原因です。

傍食道型

hernia

数%の頻度と少なく、噴門の偏位は見られないものの、ヘルニア門が狭いために、絞扼(こうやく)・嵌頓(かんとん)が起こることがあります。

  • 絞扼(こうやく)とは・・・しめつけること・組織や血管が圧迫された状態をいう。
  • 嵌頓(かんとん)とは・・・ヘルニアによって脱出したものが元に戻らなくなった状態をいう。

 

混合型

hernia

稀に起こるもので、滑脱型と傍食道型の両方の形態が出現した状態です。

食道裂孔ヘルニアは、胸焼けや胸痛、つかえた感じが特徴的な症状ですが、この症状は逆流性食道炎の場合の症状でもあります。

医師
しっかり検査を行い、診断することが重要です。

食道裂孔ヘルニアの診断は?

X線や内視鏡、CTを行い検査し、診断します。

医師
それぞれについてご説明します。

X線検査

上部消化管造影が有用で、仰向けだけでなく、頭を下げたり、息を止めたりすることで腹圧をかけ撮影します。

これにより上記でご説明しました分類が診断可能です。

症例 80歳代 女性

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胃の一部が横隔膜を超えて上の方(縦隔)に脱出しています。食道裂孔ヘルニア(傍食道型)の所見です。

内視鏡検査

内視鏡では、胃粘膜の食道側への脱出を確認出来ます

食道側から見下ろしや反転見上げ像がよりわかりやすく診断可能です。

CT検査

CT検査を行うと、横隔膜より上で胃を確認出来ます

たまたま他の検査で撮影した際に見つかることも多いものです。

症例 80歳代女性 上と同一症例

esophageal-hiatal-hernia-002 doc

造影CTの横断像では、胃が本来見えないレベルで胃の一部の脱出を認めています。食道裂孔ヘルニアを疑う所見です。

医師
冠状断像で見るとその様子が明らかですね。

この方は後で説明するNissen手術を受けられました。

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手術後のフォローのCTです。先ほど見られた胃の逸脱は消失しています。

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食道裂孔ヘルニアの治療法は?

たまたま他の検査で見つかることもある食道裂孔ヘルニアですが、無症状の場合は経過観察となります。

逆流性食道炎に伴う症状がある場合は、以下の治療を行います。

逆流性食道炎に伴う症状がある場合

まずは逆流性食道炎の治療と保存療法とになります。

以下のことに生活の上でも気をつけることが重要です。

  • 減量
  • 睡眠時の上半身挙上
  • 生活習慣の改善

上記に加え、H2受容体拮抗(きっこう)薬やプロトンポンプ阻害薬の投与を行い、胃酸の分泌を抑え、腹圧上昇を抑える効果があります。

医師
経過観察の場合も、逆流性食道炎を伴う場合も重要な、食事面の注意点についてもご説明します。
食事の注意点
  • 糖分を控える
  • 脂分を控える
  • 刺激物を控える
  • アルコールを控える
  • カフェインを控える
  • 食べ過ぎを控える
  • 早食いを控える
  • 食後すぐに横にならない

 

よく噛み、一度の食事量は少なく、回数を分けて食べるのも効果的です。

医師
また、外科的治療(手術)適用となる場合もあります。

手術適用の場合

嵌頓を起こしている場合・保存療法で改善が見られなかった場合に手術適用となります。

  • Nissen(ニッセン)手術
  • 亜全周性のトペー法
  • ドール法
  • 噴門(ふんもん)部を正中弓状靭帯(じんたい)に縫合するヒル法

という手術方法がありますが、上記の中でも最近はNissen(ニッセン)手術が多く行われています。

医師
Nissen(ニッセン)手術についてご説明します。

Nissen(ニッセン)手術

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胸部に脱出した胃を元の位置(腹部)に戻し、逆流防止のため、噴門部の胃壁で腹部食道を取り巻くように縫合します。

逆流防止の方法としては、他にToupet(トゥーペ)手術もあり、それぞれに合った手術方法を選択することになるでしょう。

最後に

  • 食道裂孔(食道が通る穴)から、胃を中心とする腹部臓器が縦隔内へ脱出した状態を食道裂孔ヘルニアという
  • 先天性のもの、肥満、加齢に伴う脊椎変形、慢性咳嗽性が原因となる
  • 滑脱型・傍食道型・混合型に分類される
  • X線や内視鏡、CT検査を行い診断する
  • 症状がなければ経過観察
  • 逆流性食道炎症状があれば、その治療と保存療法
  • 嵌頓を起こしてる場合・保存療法で改善が見られなかった場合、手術適用

 

早期に発見、治療を行えば、それだけ軽く済み、手術までは必要とならないことも多いです。

ということは、日頃から人間ドック等を定期的に受けたり、症状がある場合には早期に医療機関を受診することが大切ですね。




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