脳腫瘍の1つに髄膜腫(読み方は「ずいまくしゅ」)があります。
ほとんどは良性で、症状を起こすこともまれですが、中には悪性のものもあります。
多くは人間ドックなどの頭部のCT検査やMRI検査でたまたま見つかるものです。
実はこの髄膜腫は、脳腫瘍の中では多いもので26%を占めます。
ほとんどは良性なのですが、場所が脳だけに
「手術は必要なのか?」
といったことが気になります。
そこで今回は、髄膜腫(英語表記で「meningioma」読み方はメニンジオーマ)についてご説明しつつ、手術の適応基準や予後についてもお話ししたいと思います。
- 好発部位
- 好発年齢
- 症状
- 画像診断
- 治療法
- 手術の適応基準
- 再発
上記のような流れでご説明しますので、ぜひ参考にされてください。
髄膜腫とは?
脳のクモ膜の表層細胞から発生して、硬膜を巻き込んで発育する腫瘍です。
ほとんどは無症状で、サイズもほとんど変わらないものです。
ただし、中には徐々にサイズが大きくなるものもあります。
その場合、周辺脳や脳の神経、静脈洞などを徐々に圧迫しながら発育するため、それにともない様々な症状が出現することがあります。
好発部位
実はこの髄膜腫、色々なところに発生します。
- 大脳半球円蓋部
- 大脳鎌
- 傍矢状洞部
- 鞍結節部
- 嗅窩部
- 蝶形骨部
- 鞍結節部
- 海綿静脈洞部
- 小脳橋角部
- 小脳テント
- 錐体斜台部
- 大孔
- 側脳室
などです。
徐々に時間をかけて腫瘍が大きくなっていき、たまたま人間ドック等でCTやMRIなどを撮って発見されることが多いものです。
好発年齢
女性に多い傾向にあります。
女性ホルモンの影響が原因の1つとしても考えられていますが、男性でも起こることはあります。
その中でも40代〜70代、中年から高齢者に多いといわれています。
髄膜腫の症状は?
基本的に腫瘍が小さければ症状もありません。
ですが、大きくなってくると症状も出てきます。
症状は発生した場所によっても異なりますが、腫瘍が神経を圧迫したり、圧が高まってしまうことによって以下のような症状が出ることがあります。
- 視力視野障害
- 顔面神経麻痺
- 聴力障害
- 運動障害
- 頭痛
- めまいやふらつき
- 嘔吐
- 意識障害
- てんかん発作
物が二重に見える複視や、顔面の神経障害による麻痺、頭蓋内圧亢進症状や局部的な症状が出たりします。
髄膜腫のCT,MRI画像診断は?
髄膜腫は文字通り髄膜を構成する細胞からなる腫瘍であり、この髄膜というのは脳を囲む膜の事です。
つまり、この髄膜腫というのは脳腫瘍ではありますが、脳内ではなく脳の外にできる腫瘍です。
画像診断ではこのことを示唆する
- 硬膜に広く接するdural tail sign
という形態を示すことがあり、脳実質外腫瘍の特徴とされます。
その上で、
- CTではやや高吸収
- MRIでは、T1強調像で等信号、T2強調像で等〜やや高信号を示し、造影剤により均一な造影効果
を示します。
もちろん典型的な髄膜腫ばかりではなく、石灰化や嚢胞変性、壊死などを伴うこともあります。
【症例】90歳代男性
【CT所見】右前頭部に一部でdural tail signを呈する脳実質外の高吸収腫瘤あり。
髄膜腫を疑う所見です。
【症例】70歳代女性
【MRI所見】大脳鎌と接する腫瘤あり、dural tail signを呈している。
髄膜腫を疑う所見です。
【症例】60歳代女性
【MRI画像所見】 左の髄膜腫小脳橋角部に脳実質外腫瘤あり。髄膜腫を疑う所見です。
【症例】70歳代男性
【MRI所見】大脳鎌右側に髄膜腫あり。また右半卵円中心に静脈奇形の所見あり。
【症例】70歳代男性
【MRI所見】頭蓋底の左蝶形骨縁に造影効果を有する脳実質外腫瘍あり。
髄膜腫と診断され手術となりました。
髄膜腫が見つかった後のフォローは?
基本的に脳外科受診となり、その後のフォローについては、脳ドックのガイドライン2014によると、髄膜腫らしき腫瘍が見つかった場合
- 蝶形骨縁内側型の髄膜腫
- それ以外の髄膜腫
に分けます。
なぜ分けるかというと、蝶形骨縁内側型の髄膜腫は、視力障害を生じやすく予防的に手術が勧められるためです。
一方で、それ以外の髄膜腫の場合は、MRIで経過観察していきます。
最初2回は半年毎、その後変化なければ1年毎の経過観察をおこないます。
- 蝶形骨縁内側型の髄膜腫:予防的に手術
- それ以外の髄膜腫:MRIでフォロー(6か月、6か月、以後1年毎)
髄膜腫の治療方法は?
基本的に腫瘍が小さく症状がなければ、そのまま放置しても腫瘍が小さくなることも考えられるため、治療を必要とせず、経過観察となります。
ですが、腫瘍が大きくなり症状が出てくると治療が必要になりますし、部位によって今後の重篤な症状が出てくる可能性のあるものは治療の対象になります。
- 手術療法
- 放射線療法
- 保存療法
手術療法
腫瘍を摘出する目的で行われます。基本的には腫瘍を全摘出します。
放射線療法
大きくはないが場所により重篤な症状が出てくる可能性のあるものに対し行われますし、術後取りきれなかった腫瘍に対しておこなわれます。
保存療法
腫瘍が小さかったり、患者の年齢が高齢、もしくは体力が持たない場合等に手術は行わずに経過観察をして様子を見る場合もあります。
髄膜腫の手術適応は?どうやって決める?
蝶形骨縁内側型以外の髄膜腫は、MRIによる画像検査でフォローしていくことは上に述べましたが、その後どういうタイミングで手術をすることがあるのか・・・気になりますよね?
- 腫瘍による神経圧迫などで症状がある場合
- 腫瘍の増大速度が早い場合
- 腫瘍のサイズが大きい場合
- 年齢
などを考慮して決められます。
つまり、高齢者や手術によるリスクが高いと判断された場合は、放射線療法などを選択することになります。
手術後の再発は?
手術をしても術後しばらくは症状が残る場合もありますが、徐々に症状は改善されていきます。
基本的に良性腫瘍であるため、摘出範囲が大きいほど再発も少なく、予後も良好で5年生存率は96%です。
しかし残りの4%はというと・・・
中には部位によって後遺症が残ったり、腫瘍を取りきれなかったりということもあります。
ほとんどの髄膜腫は良性ですが、術後腫瘍の病理検査で悪性と判明するものも中にはあります。
そうなると話はまた別で、再発の可能性もあります。
- 参考文献:病気がみえる vol.7:脳・神経 P430・431
- 参考文献:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P236・237
- 参考文献:内科診断学 第2版 P1038〜1040
最後に
- 髄膜腫は脳のあらゆる場所に出来る
- 中年〜高齢、特に女性に多い
- 腫瘍が大きくなると神経を圧迫したり、圧が高まって症状が出る
- 腫瘍のある部位によって症状が異なる
- 手術療法・放射線療法・保存療法という治療法がある
- 基本的には良性のものが多いが、中には悪性のものも
- 悪性だと再発率は高く、5年生存率は63%
こういう病気もあるからこそ、定期的な人間ドックは必要なんですよね。若い方でも色々な病気の可能性はありますが、中高年になると特に色々な病気の発生が考えられます。
まずは、自分の体に日頃から注意し、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。