肝臓に生じる悪性の腫瘍には、原発性と転移性の2つに分けられます。
原発性肝臓がんは、さらに肝細胞がんと肝内胆管がんに分けられますが、一般的に肝臓がんといったら、この肝細胞がんのことをいいます。
今回はその原発性肝臓がんの約95%を占める肝臓がん(肝細胞癌)について
- 症状
- 原因
- 検査(エコー、ダイナミックCT、ダイナミックMRI)
- 治療
を図や実際の画像を用いて分かりやすく、説明したいと思います。
肝臓がんとは?
最初にお話ししました通り、肝臓がんは、原発性と転移性に分けられ
- 原発性は→肝細胞がん・肝内胆管がんとに分けられ、肝細胞がんが約95%・肝内胆管がんが約4〜5%
- 転移性は→原発性肝臓がんよりも多い(約20倍)
とされています。
肝内胆管がんは、胆管がんのうち、肝臓内に生じるものをいい、転移性肝臓がんは肝臓以外の原発性悪性腫瘍のある人に生じるものをいいます。
その肝細胞がんは、肝細胞由来の上皮性悪性腫瘍です。
肝臓がんの症状は?
肝臓は沈黙の臓器とも言われる場所であり、症状が出にくいのが特徴です。
ただし、症状が進行し、腫瘍が増大すると
- 腫瘍に手で触れる
- 出血に伴う突然の腹痛
といった症状が現れたり、肝硬変の症状として
- 黄疸
- クモ状血管腫
- 手掌紅斑
- 腹水貯留
- 浮腫
- 吐血
- 下血
- 肝性脳症
- 女性化乳房
- 出血傾向
- 意識混濁
などが見られることもあります。
肝臓がんの原因は?
- 肝硬変
- 慢性肝炎
などが誘因となり肝臓がんが発生します。
その中でも、C型肝炎が約60%を、B型肝炎が約15%を占め、ウイルス性肝疾患から発生した肝臓がんが約75%という大半を占めることになります。
また、その他には、アルコール性肝炎・非アルコール性流性脂肪肝炎・NASHなどの非ウイルス性肝疾患が約25%を占めます。
- 肝炎ウイルス→慢性肝炎→肝硬変→肝臓がん
というように移行します。
肝臓がんの検査は?
- 血液検査
- 画像検査(超音波検査・CT検査・MRI検査・血管造影・PET)
- 病理組織検査
などを行い、診断されます。
血液検査
AFP(αフェトプロテイン)・PIVKA-Ⅱが症例の約60%という確率で上昇します。
そのため、腫瘍マーカーで確認することもあります。
超音波検査
halo(読み方は「ハロー」辺縁の低エコー帯)やモザイクパターン(腫瘍内部が隔壁により分割された状態)が確認できます。
また、造影剤を使用することによって、高エコーとして描出されるため、早期診断においても有用です。
CT検査
造影剤を用いたダイナミックCT検査をおこなうと、典型的な肝細胞がんは、動脈血優位相で腫瘍は濃く映し出されます(濃染)。
門脈・後期相では、造影剤は洗い出され(wash out)、周囲の組織よりも低濃度に描出されます。
症例① 80歳代女性
肝左葉に動脈優位相でよく染まる多血性腫瘤を認めています。
平衡相では、その染まりが抜けており(washout)、肝細胞がんを疑う所見です。
手術が施行され、中分化型の肝細胞がんと診断されました。
MRI検査
CTと同様に、造影検査による血流の評価が可能で、特にEOB・プリモビスト造影剤を使うことで、CTでは撮影できない肝細胞相を撮影することができます。
これによりCTでははっきりしない病変や小さな病変を捉えることができるようになりました。
症例② 70歳代 男性
肝臓の形態は辺縁が鈍で凹凸不整で肝硬変を疑う形態です。
肝右葉S8に動脈優位相でよく染まる多血性腫瘤を認めています。
しかし、平衡相での抜け(washout)ははっきりしません。
EOB・プリモビストによるダイナミックMRI検査では、上のようにCTと同様動脈優位相で多血性腫瘤を認めています。
さらに肝細胞相では抜けを認めています。
肝細胞がんを疑う所見です。
さらに肝細胞がんは腫瘍の内部に脂肪を含有することがしばしばあり、その検出にもMRIは優れています。
症例③ 50歳代 男性
EOB・プリモビストによるダイナミックMRI検査で、肝右葉S8に多血性腫瘤を認めています。
さらに肝細胞相では抜けを認めており、肝細胞がんを疑う所見です。
さらにIn-phase 及びout of phaseという撮影を行い、In-phase からout of phaseにかけて抜けを認めれば、そこには脂肪が含有されているということを意味します。
上のように腫瘍のある部位には信号の低下を認めており、より肝細胞がんを疑う所見といえます。
ただし、脂肪の含有=肝細胞がんというわけではありませんので、注意も必要です。
血管造影
腹部血管造影検査で、腫瘍が濃く染まります(濃染)。
現在では診断目的よりは、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を行う治療目的で血管造影がなされます。
上で提示した症例②の方には、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が施行されました。
これは腫瘍のある部位までカテーテルを持っていき、腫瘍の手前から抗がん剤と塞栓物質を流す治療法です。
治療後の単純CT検査で腫瘍があった部位にリピオドールの沈着があることがわかります。
PET
悪性腫瘍に反応するPETをおこなえば、肝臓がんの特定だけでなく、転移の有無も確認できます。
病理組織検査
皮膜を有し、肝細胞に似た上皮性悪性細胞からなるため、好酸性の細胞質・大きな核・好酸性の核小体などの所見が見られることがあります。
肉眼分類
- 小結節境界不明瞭型
- 単純結節型
- 単純結節周囲増殖型
- 多結節癒合型
- 浸潤型
に分類されます。
肝臓がんのステージ
ステージは、
- 腫瘍
- リンパ節転移
- 遠隔転移
に応じてⅠ〜ⅣBに分類されます。
遠隔転移としては、肺・骨・副腎・腹膜・脳などに認められます。
肝臓がんの治療は?
肝障害度・腫瘍数・腫瘍径を考慮して、治療方針が決まります。
治療方法としては、
- 外科的手術(肝切除)
- 化学療法(抗がん剤)
- 放射線療法
- 経皮的エタノール注入療法(PEIT)
- ラジオ波焼灼療法(RFA)
- 肝動脈カテーテル療法
- 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
- 肝移植
などがあり、それぞれに合った治療法が選択されます。
上で提示した症例③の方にはRFA治療がなされました。
治療後のMRI検査では、腫瘍のあった部位は、凝固壊死を示唆するT1強調像高信号に置き換わっていることがよくわかります。
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P328〜341
参考文献:内科診断学 第2版 P891〜894
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P199〜205
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P202〜211
最後に
- 肝細胞がんは、肝細胞由来の上皮性悪性腫瘍
- 症状が出にくいのが特徴
- ウイルス性肝疾患から発生した肝臓がんが約75%という大半を占める
- 血液検査・画像検査(超音波検査・CT検査・MRI検査・血管造影・PET)・病理組織検査などを行い、診断
- 小結節境界不明瞭型・単純結節型・単純結節周囲増殖型・多結節癒合型・浸潤型に分類
- 腫瘍・リンパ節転移・遠隔転移に応じてステージがⅠ〜ⅣBに分類される
- 肝障害度・腫瘍数・腫瘍径を考慮して、治療方針が決まります
肝臓がんは、再発率の高いがんでもあります。
その原因として肝臓は部分切除であって、全てを切除できない(全摘出不能)ことが関係するとも言われています。
そのため、肝切除したら治療完了ではなく、その後の再発予防にも注意していく必要があります。