体のために服用した薬物によって肝臓に障害が出てしまうことがあり、これを薬物性肝障害といいます。
では、この場合どのような症状が出るのでしょう?
またどのような薬剤が原因となり、どのように診断し、どのように治療するのでしょうか?
今回は薬物性肝障害(読み方は「やくぶつせいかんしょうがい」英語表記で「Drug-induced liver injury」)について
- 症状
- 検査
- 診断基準
- 治療法
など、ガイドラインを元にご説明したいと思います。
薬物性肝障害とは?
薬物が原因となって、肝細胞障害や胆汁うっ滞などが生じる疾患を薬物性肝障害といいます。
薬物性肝障害の分類
- 肝細胞障害型
- 胆汁うっ滞型
- 混合型
に分けられ、さらに発症機構からの分類では、通常型・特殊型があり、
- 通常型では、中毒性肝障害・特異体質肝障害・アレルギー性・代謝性
- 特殊型では、腫瘍・血管病変
というように分けられます。
薬物性肝障害の原因
この問題となる薬物は、抗菌薬や解熱鎮痛薬が多いものの、健康食品(サプリメント)や漢方薬で起こることもあります。
肝細胞障害型肝障害を起こす薬剤
- アセトアミノフェン
- ハロタン
- 四塩化炭素
- イソニアジド
- メチルドパ
- テトラサイクリン
- リファンピシン
- メトトレキサート・・・など
胆汁うっ滞型肝障害を起こす薬剤
- クロルプロマジン
- エリスロマイシン
- 蛋白同化ホルモン
- 経口避妊薬
- 抗甲状腺薬・・・など
があります。
これらの薬物を服用4週間以内に起こることが多いものです。
あらゆる年代に起こりうる可能性がありますが、アレルギー肝障害の場合は、薬物が抗原になるかどうか、遺伝的要因による場合もあります。
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薬物性肝障害の症状は?
無症状のこともあるのの、
- 発熱
- 発疹
- 黄疸
- 皮膚の痒み
- 全身の倦怠感
- 嘔吐
などの症状があらわれることもあります。
また、進行すると肝不全をともなうこともあり、早期診断が重要になります。
薬物性肝障害の検査は?
- 問診
- 血液検査
が重要になりますが、薬物性が疑われる場合、薬物刺激試験をおこなうこともあります。
問診
- 症状
- 発症までの期間
- 臨床経過
を元に、起因薬剤を確定することが重要で、その中で薬物刺激試験を検討します。
また、健康食品やダイエット食品が原因のこともあるので、食事や生活習慣についても注意を向け問診することになります。
血液検査
- 肝細胞障害の場合・・・AST/ALTの上昇
- 胆汁うっ滞の場合・・・ALP/γ-GT/T.Bilの上昇
- アレルギー反応な場合・・・白血球/好酸球の上昇
が確認できます。
患者の血液中リンパ球に、起因薬物とアイソトープ標識核酸前駆物質を加えて培養し、リンパ球幼若化現象にともなう核酸合成の亢進を測定します。
略語でDLST (Drug Lymphocyte Stimulation Testの略)といわれます。
薬物性肝障害の診断基準は?
- 発症までの期間
- 経過
- 危険因子
- 薬物以外の原因の有無
- 過去の肝障害の報告
- 好酸球増多
- DLST
- 偶然の再投与が行われた時の反応
「DDW-J 2004ワークショップの診断基準案」より、以上が診断基準としてあります。
(1)発症までの期間
肝細胞障害型・胆汁うっ滞または混合型と異なりますので、それぞれご説明します。
肝細胞障害型の場合
- (投与中発症の場合)投与開始からの日数・・・初回投与5〜90日・再投与1〜15日(スコア+2)
- (投与中止後発症の場合)投与中止後の日数・・・初回投与15日以内・再投与15日以内(スコア+1)
胆汁うっ滞または混合型の場合
- (投与中発症の場合)投与開始からの日数・・・初回投与5〜90日・再投与1〜90日(スコア+2)
- (投与中止後発症の場合)投与中止後の日数・・・初回投与30日以内・再投与30日以内(スコア+1)
(2)経過
ALTのピーク値と正常上限との差を、肝細胞障害型・胆汁うっ滞または混合型と分けてご説明します。
肝細胞障害型の場合
投与中止後のデータが
- 8日以内に50%以上の減少(スコア+3)
- 30日以内に50%以上の減少(スコア+2)
- 不明または30日以内に50%未満の減少(スコア0)
- 30日後も50%未満の減少が再上昇(スコア-2)
胆汁うっ滞または混合型の場合
投与中止後のデータが
- 180以内に50%以上の減少(スコア+2)
- 180日以内に50%未満の減少(スコア+1)
- 不変・上昇・不明(スコア0)
(3)危険因子
肝細胞障害型の場合
- 飲酒あり(スコア+1)
- 飲酒なし(スコア0)
胆汁うっ滞または混合型の場合
- 飲酒または妊娠あり(スコア+1)
- 飲酒・妊娠なし(スコア0)
(4)薬物以外の原因の有無
- HAV・HBV・HCV・胆道疾患・アルコール・ショック肝
- CMV・EBV・ウイルスはIgM-HA抗体・HBs抗原・HCV抗体・IgM-CMV抗体・IgM-EB-VCA抗体
というカテゴリがあり
- 1・2が全て除外(スコア+2)
- 1が全て除外(スコア+1)
- 1の内、4・5つを除外(スコア0)
- 1の除外が3つ以下(スコア-2)
- 薬物以外の原因が濃厚(スコア-3)
(5)過去の肝障害の報告
- 過去の報告あり・もしくは添付文書に記載あり(スコア+1)
- なし(スコア0)
(6)好酸球増多
- 6%以上あり(スコア+1)
- 6%以上なし(スコア0)
(7)DLST
- 陽性(スコア+2)
- 儀陽性(スコア+1)
- 陰性および未施行(スコア0)
(8)偶然の再投与が行われた時の反応
肝細胞障害型の場合
- 単独再投与・・・ALT倍増(+3)
- 初回肝障害時の併用薬共に再投与・・・ALT倍増(スコア+1)
- 初回肝障害時と同じ条件で再投与・・・ALT増加するも正常値(スコア-2)
胆汁うっ滞型または混合型の場合
- 単独再投与・・・ALP倍増(+3)
- 初回肝障害時の併用薬共に再投与・・・ALP倍増(スコア+1)
- 初回肝障害時と同じ条件で再投与・・・ALP増加するも正常値(スコア-2)
上記の(1)〜(8)において、総スコアが
- 2点以下・・・可能性が低い
- 3・4点・・・可能性あり
- 5点以上・・・可能性が高い
という診断基準となっています。
薬物性肝障害の治療法は?
まずは、原因薬の服用を中止して安静が基本となります。
肝細胞障害型の治療
- グリチルリチン製剤
- ウルソデオキシコール酸
胆汁うっ滞型
- ウルソデオキシコール酸
- 副賢皮質ステロイド
多くの場合は、原因薬の服用中止のみで回復しますが、まれに重症化し劇症肝炎に移行し、生死に関わる場合もあります。
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P316〜318
参考文献:内科診断学 第2版 P881・882
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P185〜187
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P219
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P134・135
最後に
- 薬物が原因となって、肝細胞障害や胆汁うっ滞などが生じる疾患
- 肝細胞障害型・胆汁うっ滞型・混合型に分類される
- 抗菌薬や解熱鎮痛薬が原因となることが多いものの、健康食品(サプリメント)や漢方薬で起こることもある
- 無症状なこともあるものの、発熱・発疹・痒み・黄疸などの症状が出ることもある
- 問診や血液検査をおこなう
- ガイドラインによる診断基準を元に確定診断に至る
- 原因薬の服用を中止して安静が基本
- 改善しない場合は、それぞれの型に応じた治療をおこなう
特に短期間で同一の薬物を服用すると、短期間で発症します。
そのため、このような薬物性肝障害を起こす薬剤を書き記す、お薬手帳の重要性がお分かりいただけるかと思います。