アルコールの摂取過多が原因で起こる疾患は様々ありますが、特に肝臓はアルコールの影響を受けやすい場所ともいわれています。
ですが、どれくらいの飲酒量で病気となる可能性があるのかも気になってきます。
そこで今回は、アルコール性肝障害(英語表記で「Alcoholic liver injury」)について
- アルコール量
- 症状
- 検査
- 治療
- 看護
などをまとめましたので、参考にされてください。
アルコール性肝障害とは?
長期に渡り、アルコール摂取過多(飲み過ぎ)が常習的になったことが原因で起こる肝障害の総称をアルコール性肝障害といいます。
一般的にアルコール性肝障害患者は、アルコール依存症に陥っていて、男性に多い特徴があります。
また、女性の場合は男性よりも短期間かつ、飲酒量も男性ほどにならない少量のアルコールでも肝障害をきたすことがあります。
通常摂取したアルコールは、胃や上部小腸で吸収され、肝臓で分解・代謝されます。
しかし、このアルコール摂取量が多量で常習的になると、代謝比率が悪くなり、肝細胞で代謝回路障害が起こります。
すると、肝細胞に脂肪が蓄積し脂肪肝となり、さらに症状が進むと肝臓は繊維化し、様々な肝障害を引き起こします。
どれくらいの飲酒量で起こる?
この過剰摂取とは・・・
- 日本酒:1日・3合以上
- ビール:1日大瓶3本以上
- ウイスキー:1日・ダブル3杯以上
これを飲酒を5年以上続けたことが目安となります。
アルコール性肝障害の症状、検査は?
- アルコール性脂肪肝
- アルコール性肝線維症
- アルコール性肝炎
- アルコール性肝硬変
- アルコール性肝細胞癌
という病型があり
このように、肝障害が進行していきます。
診断には、血液検査・腹部超音波検査・CT検査・病理検査をおこないます。
アルコール性脂肪肝
アルコール性肝障害の初期段階から生じるもので、自覚症状はほとんどありません。
肝腫大をともなうことが多く、超音波検査や画像検査で確認できます。
肝機能検査では、軽度の異常を示し、病理検査では肝小葉の30%以上にわたる脂肪化が認められます。
症例 50歳代男性 アルコール性肝障害
腹部のダイナミックCTの早期動脈相で、肝臓は正常よりも低吸収(黒い)になっており、脂肪肝を疑う所見です。
脾腫も認めています。
アルコール性線維症
肝細胞が線維化した病態で、特徴的な症状はありません。
病理検査で中心静脈周囲性の繊維化が確認できます。
アルコール性肝炎
肝細胞が膨化・壊死・炎症細胞の浸潤などが特徴です。
- 腹痛
- 発熱
- 黄疸
などの症状が出現します。
炎症反応が強く現れたものですので、それが血液検査でも確認でき、末梢血の好中球増加が見られます。
また、組織学的にも、中心静脈周辺の炎症性細胞浸潤が見られます。
アルコール性肝硬変
肝細胞が炎症を起こし破壊され、
- 腹痛
- 発熱
- 黄疸
- 腹水
などの症状が現れます。
- 血清コリンエステラーゼの低下
- 血小板数・白血球数の減少
が確認できます。
また組織学的に変化がなくとも、飲酒状況・症状・画像所見・血液検査所見から診断可能です。
症例 60歳代男性 アルコール性肝硬変
造影CTで肝臓は辺縁が鈍で凹凸が不整です。
肝硬変の所見です。
アルコール性肝細胞癌
アルコール摂取過多が原因で起こる肝障害の最終段階で、
- 腹部膨満感
- 疼痛
- 圧迫感
などの症状が出現し、肝破裂(肝腫瘍破裂)となると大量出血となりショックを起こすこともあります。
超音波検査で特徴的な所見を確認し、造影剤を用いたダイナミックCT検査で動脈優位相で濃染し、平衡相で低吸収を示す腫瘤性病変を確認できます。
また造影剤を用いたEOBプリモビストMRI検査では、動脈優位相で濃染し、肝細胞相で抜けるのが特徴的です。
症例 60歳代男性
腹部造影CTで肝臓の凹凸不整が目立ちます。
肝硬変を疑う所見です。
EOBプリモビストMRIにおいて、肝臓のS4に早期動脈相で造影効果を認めており、肝細胞相で抜けを認めています。
肝細胞癌と診断され、肝動脈塞栓術(TAE)にて加療されました。
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アルコール性肝障害の診断基準
アルコール性肝障害はガイドラインより、上記でご説明してきました内容を含め、以下のような診断基準があります。
飲酒量
- 常習飲酒家(日本酒1日3合相当以上)
- 大酒家(日本酒1日5合相当以上)
- 女性:男性の2/3量
- ALDH2活性欠損者(飲酒で不快な症状を起こす人):3合以上
臨床的特徴 禁酒による異常所見の著名な改善(4週間以内)
- GOT(AST)、GPT(ALT)の正常化
- 肝腫大の改善・消失(重症肝炎、肝硬変を除く)
- y-GTP(GGT)が前値の40%以下
肝炎ウイルスマーカー
- 陰性:確診
- 陽性:合併
確診検査
- 血清トランスフェリン微小変異
- アルコール肝細胞膜抗体
- 肝ミトコンドリア酵素比(GDH/OCT)の上昇
- CT所見による肝容積増大
(旧文部省総合研究高田班より)
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アルコール性肝障害の治療は?
病型に関わらず、第一に禁酒が必要です。
禁酒による効果
アルコール性脂肪肝の場合は、この禁酒によって改善します。
禁酒によって数値は、AST(GOT)・ALT(GPT)が4週で80位か・前値が100以下の場合は正常値まで改善します。
またy-GTPは、4週で、前値の40%以下もしくは正常値の1.5倍以下となります。
その他の治療
また、薬物療法によって栄養障害の改善やウェルニッケ脳症・多発性神経炎の予防を行うことができます。
中には禁酒困難な場合もあり、その場合はアルコール依存症治療が優先され、抗菌薬や精神安定剤の服用も必要になり、入院管理になることもあります。
肝炎・肝硬変・肝細胞癌となった場合には、それぞれの治療を必要とします。
アルコール性肝障害の看護は?
断酒を一時的ではなく、続ける必要があります。
そのためにはメンタルケアや指導が重要で、このままではアルコール性肝障害で命の危険さえともなうようになることもあるということを、患者自身に理解させることが大切です。
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P225〜227
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P180〜184
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P303〜309
参考文献:内科診断学 第2版 P882〜885
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P132〜133
最後に
- アルコール摂取過多(飲み過ぎ)が常習的になったことが原因で起こる肝障害の総称
- アルコール性脂肪肝・アルコール性肝線維症・アルコール性肝炎・アルコール性肝硬変・アルコール性肝癌となる
- 血液検査・腹部超音波検査・CT検査・病理検査をおこなう
- 禁酒が第一の治療法
- 患者自身にこの病気の怖さを理解させ、断酒させることが重要
初期の場合は、アルコールをやめるだけで治療になりますが、重症化すると自分自身も苦痛をともないますし、生命の危険も出てきます。
そのため、早期に気づき原因となるアルコールをやめることが重要です。