大腸に起こる憩室(読み方は「けいしつ」・大腸の壁が限局性に袋状に膨出した状態)、大腸憩室の合併症というと
大腸憩室炎・大腸憩室出血・腫瘍形成・腹膜炎・イレウス・穿孔(せんこう)などがありますが・・・
今回は、大腸憩室出血(読み方は「だいちょうけいしつしゅっけつ」・英語表記で「colonic diverticular hemorrhage」)について
- 原因
- 診断
- 治療
- 予防
- 看護
など、詳しく説明したいと思います。
大腸憩室出血とは?
大腸憩室で出血をきたしたものを大腸憩室出血といいます。
突然痛みを感じない下血や血便で発症することが多くなっています。
中には、大腸憩室炎を併発する場合もあり、その場合腹痛や発熱(微熱)などの症状も出現します。
そもそも大腸憩室とは?
下のイラストのように、大腸の壁が袋状に飛び出しているものです。
盲腸〜上行結腸に起こることが多く、高齢者に多い大腸憩室は特に、左半結腸である下行結腸やS状結腸に多く認められます。
大腸内視鏡で見た実際の憩室の様子はこのような感じです。
結腸に部屋のような形で憩室が存在しているのがわかりますね。
大腸憩室出血の原因は?
元々大腸憩室があったことが原因ですが、合併症を起こさなければ気付かないことも多く、
- NSAIDs内服(読み方は「エヌセイズ」・非ステロイド性抗炎症薬)
- 高血圧
- 抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう)
- 大腸憩室炎(憩室に糞便などが詰まり、そこで感染を起こしたこと)
などが出血を起こす危険因子となります。
大腸憩室出血の診断は?
血液検査・内視鏡検査・ダイナミックCTで検査をおこない診断します。
診断に至るには、大腸憩室があり、そこから出血しているところをリアルタイムで見つけなければなりません。
血液検査
Hb値の低下を認めると、出血を疑いますが、同時に白血球やCRPの上昇が確認できれば憩室炎を起こしてることも考えられます。
ただし急激な出血の場合、Hbが下がらないことがあるので注意が必要です。
内視鏡検査
内視鏡をおこない、憩室からの出血点(どこから出血しているのか)を認めることが重要になります。
ダイナミックCT検査
出血部の判定に有用で、内視鏡同様、憩室からの出血部位を確認することができれば診断できます。
また、虚血性大腸炎・大腸ポリープ・出血性腸炎・悪性腫瘍・痔核・血管異形成など、下血をきたす他の疾患との鑑別をおこなうことも重要です。
症例 80歳代男性 下血
単純CTにて下行結腸にやや高吸収(白い)な液貯留を認めており、血腫を疑う所見です。
ダイナミックCTの動脈相で、下行結腸に造影剤が漏出している(extravasation)様子がわかります。
同部位の憩室から憩室出血を起こしていることがわかります。
さらにダイナミックCTの平衡相では、造影剤の漏出が増加していることがわかります。
また他の結腸にはこの様子は認められず、下行結腸にのみ造影剤の漏出を認めています。
下行結腸の憩室出血と診断され、内視鏡的に止血されました。
大腸憩室出血の治療は?
症状に応じて、保存療法・内視鏡的止血術・動脈塞栓術バリウム充填・外科的手術が選択されます。
保存療法
出血が少量の場合や、すでに自然止血している場合などに対して、この保存療法が選択されます。
入院管理のもと、安静にして点滴をおこない、絶食で出血が止まるのを待ちます。
憩室炎をともなう場合には、抗菌薬も使用されます。
内視鏡で止血
内視鏡検査の際に、止血点を確認できれば、そのままクリッピングなどの内視鏡的治療をおこない止血します。
直接血管に対してクリッピングをおこなう方法と、憩室口を塞いでしまう方法とがあります。
動脈塞栓術(TAE)
内視鏡止血が困難な場合におこなう方法で、血管内にカテーテルを挿入し、人工的に塞栓し、造影剤検査で止血を確認します。
バリウム充填
保存療法で止血が確認された後におこなわれる方法で、肛門から管を入れ、高濃度バリウムを大腸に詰め、再出血を予防する方法です。
このバリウム充填により、憩室出血の再発が65%減少したと報告されています(Ann Surg.2015 Feb;261(2):269-75)。
症例 60歳代 男性
全結腸に憩室を多数認めています。
特に横行結腸からS状結腸で目立ちます。
憩室出血に対して、上のようにバリウム充填術が施行されました。
外科的手術
上記の治療法がおこなえない、または効果がなかった場合に手術が選択され、問題のある部位を手術で切除します。
大腸憩室出血は再発することがある?
憩室があれば、一度出血が治っても再発することはあります。
再発率は?
大腸憩室出血の再発率は比較的高く、30%ほどあるといわれています。
入院期間は?
入院期間は症状に個人差があり、それにより治療法が異なるので、一概には言えませんが・・・
- 出血が少量で自然止血している場合には・・・数日程度
- クリッピングによる止血術をおこなった場合・・・1週間前後
- 外科的治療をおこなった場合・・・2週間〜1ヶ月程度
ということが多いようです。
大腸憩室出血の予防で重要はことは?
憩室がある限り再発する可能性はありますが、症状を起こさせないため、今までと同じ生活ではなく、治癒後には食事内容や便通のコントロールを徹底することも必要になります。
食事面では、完全に症状が治まるまでは、腸に負担のかからない優しい食事がメインとなります。
しかし症状が完全に収まれば、1日3食規則正しい食生活を送り、便秘にならないように注意、腹圧をかけないようにする必要があります。
大腸憩室出血の看護のポイントは?
急な症状の出現により、救急での処置となることも多いため、患者を安心させ、家族に十分な説明をおこなうことも重要です。
出血している・止血処置の際には、検査中のシーツの下にも目を配り、出血量を見逃さないようにすることも重要です。
また、重症度に応じたモニタリング・観察(血圧の確認や声がけ)大量出血によるショック等に備えた注意も必要です。
止血後では、再発に注意し、退院後にも無理をしすぎず療養や予防などを患者に説明する必要があります。
- 参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P190〜197
- 参考文献:内科診断学 第2版 P866
- 参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P131〜133
- 参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P32・121・122
最後に
- 大腸憩室で出血をきたしたものを大腸憩室出血という
- 突然痛みを感じない下血や血便で発症する
- 大腸憩室があったことが原因で、様々な誘因により出血が起こる
- 大腸憩室があり、そこから出血しているところを見つけ診断する
- 保存療法・内視鏡的止血術・動脈塞栓術バリウム充填・外科的手術を選択
- 再発予防のため、便秘にならないよう注意する
あまりに再発を繰り返す場合、手術によって憩室がある部分を切除する方法があります。
しかし、手術には何かしらの副作用やリスクもつきものですので、出来るだけ自分で排便のコントロールをおこない、ストレスフリーな生活を送ることも重要でしょう。
とても参考になりした。今入院中で結腸憩室出血で苦しんでます。
先生からの説明があまり 無く不安でした
ありがとうございました。