男性の方で、
「トイレへ行く回数が多くなった」、
「排尿後すっきりしない」
などの症状を感じている場合、前立腺が大きくなっているのかもしれません。
そういった方は前立腺の検査を受けるのがベストですが、前立腺の大きさはどのように計測するのでしょうか?
また、前立腺の大きさの正常値はどれくらいなのでしょうか?
そこで今回は、
- 前立腺の大きさの測り方と基準値(正常値)
を中心に、前立腺肥大症、前立腺がんについても解説します。
実際の腹部エコーの画像やイメージ図も用意しましたので、ぜひ参考にしてくださいね!
前立腺の大きさはどうやって測定する?
前立腺の大きさは通常、腹部エコー検査(腹部超音波検査)で測定します。
肝臓や腎臓などを観察するのと同じ腹部エコー検査です。
他に前立腺の大きさがわかる検査としては、
- 腹部CT
- 前立腺MRI
と言った検査があります。
この中でも、エコー検査はもっとも簡便に安価で行うことができ、またCT検査のような被曝の心配もありませんので第一選択で行われる検査です。
前立腺の大きさをエコーで検査!正常値は?
前立腺は図のように膀胱の下〜背側(後ろ側)に存在し、正常ですとクルミくらいの大きさです。
前立腺の比重はほぼ1であり、 前立腺の体積をそのまま推定重量として評価します。
つまり、重さ=体積(g≒c㎥=ml)と判断するということです。
そしてこの推定重量もしくは体積を元に前立腺が大きいかどうかを判断します。
前立腺の大きさはどこを測定する?
お腹にプローベを当てて検査をする腹部エコー検査(お腹に当てるので経腹エコー検査とも呼ばれます)による計測法では、
横断像で
- 横径(左右径)(a)
- 縦径(前後径)(b)
を測定し、
縦断像(矢状断像)で
- 上下径(c)
を測定し、下記の公式で計算します。
- 前立腺の推定重量(g)=a(cm)×b(cm)×c(cm)×0.521)
(ちなみに0.52はπ(パイ)/6であり、この計算式により、前立腺を楕円体で近似した体積を出しています。)
腹部エコーの横断像のイメージは次のようになります。
腹部エコーの縦断像(矢状断像)のイメージは次のようになります。
前立腺の大きさの正常値は?
そして、この計算式に当てはめて出た重量の正常値は、
正常値:15~20g程度2)
となります。
一応の目安として推定重量20g以上から前立腺肥大症を考慮し、30g以上は前立腺肥大症と判断します3)。
ちなみに、前立腺の横径、縦径、上下径の目安は、
- 横径40mm以下
- 縦径30mm以下
- 上下径30mm以下
が正常となります4)。
ただし、前立腺の大きさは加齢とともに軽度の腫大を認めるためこれだけで、腫大がある!と言えるものはありません。
あくまで目安と考えてください。
症例 70歳代男性
腹部エコーで、前立腺の重量=体積を測定しています。
上であったように、横断像で横径(左右の大きさ)と縦径(前後の大きさ)を、縦断像で上下径を測定します。
この場合、体積(=重量)は26.56c㎥であり、20と30の間ですので、前立腺肥大症の可能性があります。
症例 60歳代男性
こちらも腹部エコーの所見です。
こちらは前立腺の体積(=重量)が50c㎥>30c㎥であり、前立腺肥大症と診断されました。
ちなみにこの2症例ですが、先ほど説明した縦断像での上下径を測定する場所とは異なるところで、上下径を測定しています。
施設によっては上下径を上の図の場所でとるケースもあります。
またエコーの場合、長さをとる場所によっては、過大評価したり過小評価することもあります。
ですので、これらの数字はあくまで目安であるということを考慮しておくことが重要です。
前立腺の検査にはどのようなものがある?
前立腺の専門的診察は泌尿器科で行なわれます。
その際に行う主な検査項目は以下の通りです。
- 自覚症状の評価
- 直腸内指診
- 尿検査前立腺
- 尿流測定
- 残尿測定
- 血清PSA(前立腺特異抗原)測定
- 前立腺エコー検査(腹部・経腸エコー)
直腸内指診では正確な前立腺の大きさを評価するのは困難ですが、エコー検査により正確に前立腺の大きさを評価することができます。
前立腺肥大症の検査として、前立腺の形状と大きさを測定することは、治療の進め方を決めるうえでも重要となります。
そもそも前立腺肥大症とは?
男性にしかない生殖器の一つである前立腺は、前立腺液といわれる精液の一部を作り、精子に栄養を与えたり、精子を保護する役目を担っています。
この前立腺は膀胱のすぐ下に位置し、その中央を尿道が通っています。
そのため、年齢の増加(加齢)と共に前立腺が肥大し尿道を圧迫すると、当然圧力を受けて何らかの症状(尿の出が悪くなるなど)が出てきます。
この様な状態を前立腺肥大症と言います。
主な症状としては、
- 排尿回数が増える
- 尿の出が悪くなる
- 勢いよく排尿が出来なくなる
などがあります。
日常生活に支障がなければとくに問題はありませんが、場合によっては治療を必要とします。
前立腺がん検査は腹部エコーで可能なの?
エコー検査には、以下のふたつの方法があります。
- 経腹エコー:下腹部より超音波を当てて前立腺の肥大を見る方法。上にあった一般的な腹部エコー検査です。
- 経腸エコー:直腸から超音波で、前立腺の大きさ・形・内部のようすを精密に調べる方法
の2つです。
前立腺がんの場合、正確な状況をえるためにはより近くからエコーを当てられる経腸エコー検査が望ましいとされています。
前立腺がんの主な検査には、
- PSA検査:腫瘍マーカーである前立腺特異抗原を用いる血液検査
- 直腸内指診:肛門から指を挿入して前立腺の腫れの状態を調べる検査
- 経腸エコー検査:肛門から超音波を発する機器を挿入して前立腺の状態を調べる検査
などがあります。
PSA検査
前立腺がんを発症すると血液中のPSAという物質が増加します。
前立腺がんの早期発見においては、PSAの値を測定することが大変重要となっています。
経腸エコー検査
経腸エコー検査は、細いプロープを肛門から挿入し、直腸にエコーをあてることで前立腺の画像をえる検査です。
直腸内指診
この検査は、肛門から指を挿入し、前立腺の大きさや硬さなどの状態を確認します。
前立腺は直腸からすぐに触知できる位置にあるので指の感覚でその状態を調べることが可能です。
前立腺に炎症があると痛みが強く、また前立腺がんがある場合は硬い腫瘤に触れることがありますので、前立腺肥大症以外の疾患を調べるために重要な検査です。
その他の検査
以上の検査でがんが疑われると、前立腺の組織の一部を採取して病理検査・病理診断が行われます。
この検査(前立腺生検)をする事で、がん細胞の有無や、がん細胞の性質が調べられます。
また、がんが疑われる場合、あるいはがんと診断された場合には、
- X線検査
- CT検査
- MRI検査
- 骨シンチグラフィ
などで、がんの広がりや転移の有無などについての検査が行われます。
参考文献:
1)基本をおさえる腹部エコー P237
2)「よくわかる腎・泌尿器超音波アトラス」(東原英二監修)、井上書林、1998
3)「超音波診断要覧 泌尿器・後腹膜他編」(東海大学病院超音波検査室編)、東海大学出版会、1998
4)コンパクト超音波αシリーズ 腎・泌尿器アトラス(高梨 昇(著))
まとめ
- 前立腺の大きさの正常値は、15~20g程度である。
- 前立腺の大きさは、前立腺の3つの長さを測定することで得られる。
- 前立腺の大きさを測定するのは主に腹部エコーによってである。
- 前立腺の専門的診察は泌尿器科で行なわれる。
- 前立腺が肥大するの主な原因は加齢とされている。
- 前立腺がんを調べる場合、PSA検査や経腸エコー、直腸内指診などが行なわれる。
前立腺肥大症と前立腺がんは別の病気であり、前立腺肥大症が前立腺がんになることはありません。
ただ、前立腺肥大症の治療で手術を受けた際に、偶然に早期の前立腺がんが見つかるケースはあります。
ですから、前立腺がんの早期発見のために、定期的に検診を受けるようにしてください。