人はいつどこでどんな病気になるか分かりませんが、誰もがなりうる病気の1つに脊髄小脳変性症という病気があり、日本だけで約3万人の患者がいるといわれています。
難病指定され、現在も多くの人が苦しんでいます。
ですが、多くの患者がいるということは遺伝も関係するのか・・・など、気になってきます。
そこで今回は脊髄小脳変性症(英語表記で「Spinocerebellar degeneration」略語でSCD)について
- 症状
- 原因
- 分類
- 診断
- 治療法
- 予後
をご説明したいと思います。
脊髄小脳変性症とは?
運動失調症状をきたす変性疾患の総称を、脊髄小脳変性症といいます。
主に障害される部位は、小脳・小脳の求心路と遠心路・脊髄後索ですが、それ以外の神経系統の変性を合併することもあります。
脊髄小脳変性症の症状は?
- 体幹失調
- 小脳性構音障害
- 測定障害
- 運動の分解
- 変換運動障害
- 企図振戦
- 注意方向性眼振
体幹失調
まっすぐ立っていられず体幹の動揺が見られます。
歩行時には両足を開き、体幹を左右に揺らしながら不安定に歩くのが特徴で、酔っ払いのように見えるため酩酊様歩行(めいていほこう)といわれます。
小脳性構音障害
喉頭筋群などの協調運動が障害されるため、酔っ払ったような喋り方になり、数語ずつ途切れ途切れで不明瞭な話し方が見られます。
また、声の大きさを調整できなくなる爆音性言語が見られることもあります。
測定障害
手足などが思った通りに正しく持っていくことができずズレが生じてしまう障害です。
カバンを取ろうとしても手がカバンを越えてしまい掴めないといった症状です。
運動の分解
複数の筋が協調してスムーズな動きができなくなり、バラバラになってしまう状態をいいます。
変換運動障害
ある動きから逆の動きを行おうとした際、(回内から回外など)その変換がスムーズにできない症状です。
企図振戦
糸を穴に通そうとした時など、ある目標に手や足などを近づけようとした際に生じる不規則な速い震えのことで、目標に近づくほど大きく震えます。
注視方向性眼振
視線をある方向に固定した時に生じる眼が振れる症状です。
また、上記以外にパーキンソン症状や自律神経症状が見られることもあります。
脊髄小脳変性症の原因は?
遺伝が原因である遺伝性と、遺伝は関係ない孤発性に分けられます。
遺伝性:孤発性=1:2という比率です。
遺伝性
原因として、遺伝子の一部にCAGリピートの異常延長が見られます。
孤発性
小脳や脊髄、脳幹に変性を来すということは分かっていますが、詳しい原因は未だ解明されておりません。
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脊髄小脳変性症の分類は?
上記でご説明した遺伝性と孤発性に分けられ、更に
- 遺伝性は、常染色体優性遺伝性・常染色体劣性遺伝性
- 孤発性は、皮質性小脳萎縮症(CCA)・他系統萎縮症(MSA)
に分類され、細かく以下の病型に分けられます。
最も頻度が高いのは、多系統萎縮症(MSA)です。
また、好発年齢も分類により異なり、遺伝性の場合は5歳〜10歳の小児期から60歳まで、孤発性の場合は30〜70代までと幅広い年齢層に分かれます。
関連記事)多系統萎縮症(MSA)とは?原因や診断、治療から看護まで!
脊髄小脳変性症の診断は?
特徴的な所見から、脊髄小脳変性症を疑います。
診断としては
- 臨床症候
- MRI
- 遺伝子検査
がおこなわれます。
臨床症候
小脳機能の評価のために、指鼻試験や踵膝試験、マン試験などをおこないます。
指鼻試験
上肢の協調運動のチェックです。
腕を伸ばした状態から目標に定めた鼻に指を動かし、運動の分解や企図振戦、測定障害を確認します。
踵膝試験
下肢の協調運動のチェックです。
仰向けになった状態で片方の足を挙げ、反対側の膝に踵から着地させ、その踵を脛に滑らせて元の位置に戻すという動きをします。
運動の分解や測定障害を確認します。
マン試験
立った状態で片側の足の踵にもう一方の足のつま先をつけ、両足をまっすぐ直線にして停止し、体幹失調を確認します。
MRI
小脳や脳幹萎縮や信号強度の変化を見ます。
小脳萎縮と橋横走繊維の変性が確認でき、中小脳脚へまで変性が及びます。
また、T2強調像にて被殻外背側に みられる線状高信号が特徴でもあります。
ですが、被殻の変性を確認できず、橋横走線維のみの変性を認めることがあります。
症例 40歳代男性
年齢の割に小脳半球に両側の萎縮を認めています。
脊髄小脳変性症と診断されています。
症例 70歳代男性
中小脳脚の萎縮及び高信号が確認できます。
被殻の萎縮と外側線状高信号が確認できます。
遺伝子検査
特定の塩基の反復配列数に異常があるため、末梢血液中の白血球などの遺伝子解析をおこないます。
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脊髄小脳変性症の治療法は?
完治は望めず、根治療法は見つかっていません。
対処療法として症状に合わせた薬物療法が一般的です。
また、リハビリや症状の緩和ケアなどがおこなわれます。
運動失調に対しTRH誘導体である、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンのタルチレリン製剤の使用が一般的です。
それにより、脳内のTRH受容体に働きかけ、アセチルコリン・ドパミン・ノルアドレナリン・セロトニン神経系を活性化します。
また、足のつっぱりに対しては中枢性筋弛緩薬のチザニジンなどが使用されます。
進行を遅らせるリルゾールも有効です。
ストレッチで筋力低下を遅らせ、関節拘縮を防ぎます。
脊髄小脳変性症の予後は?
予後は病型によっても異なりますが、脊髄小脳変性症が致命症になるというよりも、合併症により亡くなることの方が多い特徴にあります。
合併症として、肺炎や尿路感染症などがありますが、その他睡眠中の声帯麻痺による突然死もあり得ます。
そのため、定期的に受診し、現在の状態を確認し、適切な処置を受けることで合併症を予防することが重要です。
参考文献:病気がみえる vol.7:脳・神経 P292〜299
参考文献:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P206〜212
参考文献:新・病態生理できった内科学 7 神経疾患 P222〜231
最後に
- 運動失調症をきたす変性疾患
- 遺伝性と孤発性がある
- 詳しい原因は不明
- 臨床症候・MRI・遺伝子検査が診断として行われる
- 根本的な治療はなく、対処療法として薬物療法が一般的
この病気、映画「1リットルの涙」でも取り上げられ、この病気の怖さを知った人も多いのではないでしょうか?
若い人でもなる、年齢は関係なく、治療法もないというのが怖さ・・・
研究が進み治療法が見つかりますように。