脳の中に膿が貯まって起こる脳膿瘍(読み方は、のうのうよう)という病気があります。原因は細菌感染です。では、この脳膿瘍とはどのようなものなのでしょう?
今回は、脳膿瘍について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療法
を分かりやすくご説明いたします。
脳膿瘍とは?
細菌などの感染巣から二次的に、脳実質内に炎症が起こり膿が貯まるものです。中耳炎や副鼻腔などの疾患による頭頸部の隣接部からの菌の侵入が多くあります。
好発部位は、前頭葉から側頭葉で特に男性に多く起こります。好発年齢は関係なく、小児から高齢者まであらゆる世代に起こる可能性があります。
脳膿瘍の症状は?
- 発熱
- 頭痛
- 嘔吐
などが初期症状としてあります。特に、頭痛が約70~80%の割合で現われます。
症状が進行すると
- 痙攣
- 運動麻痺
- 頭蓋内圧亢進症
- 感覚障害
など、言語障害や思考障害、片麻痺といった膿の発生部位や炎症具合によっても異なる局所症状も現われます。
脳膿瘍の原因は?
- 中耳炎、副鼻腔炎などの頭頸部感染巣からの直接波及
- 他の感染巣からの血液に乗って感染
- 先天性心疾患などによる右左シャントによる感染
- 頭部開放性外傷後に感染
などが原因で起こります。
原因菌には
- ブドウ球菌
- 連鎖球菌
- 大腸菌
- グラム陰性桿菌(かんきん)
- 緑膿菌
などがあり、その菌が耳鼻科、歯科領域の感染巣から直接侵入してきたり、二次感染として血液にのって侵入してきたりして起こります。
また、上記以外にも、免疫機能が低下している人では
- 真菌
- トキソプラズマ原虫
- 結核菌
が原因となることもあります。それ以外にも、原因不明なものも中にはあります。
脳膿瘍の診断は?
- 脳脊髄液検査
- CT・MRI検査
- 血液検査
が一般的です。
脳脊髄液検査
軽度の単核球主体の細胞数増多、蛋白の増加が見られることもあります。しかし、皮膜形成していると正常であることもあります。
しかし、脳ヘルニアの恐れがある場合には、通常腰椎穿刺は行われません。
CT・MRI検査
画像検査が診断には重要です。造影CTでも同定することは可能なことが多いですが、造影CTよりも造影MRIで診断されることが多いです。
造影検査を行うと、腫瘍周囲の縁取りに造影効果を認め、これをリング状増強効果と言い、特徴的な所見でもあります。膿瘍の被膜はT1WIで高信号を示し、T2WIで低信号を示します。
また膿瘍腔自体は拡散強調像(DWI)で著明な高信号を示すのが特徴です。(脳転移でもリング状増強効果を示すことがありますが、この拡散強調像(DWI)で高信号を示すのは小細胞癌などまれであり、かなり膿瘍に特徴的と言えます。)
症例 70歳代女性 脳膿瘍 MRI
右の前頭葉の白質に周囲に浮腫性変化を伴い、拡散強調像(DWI)で著明な高信号を示し、ADCの信号低下を示す腫瘤を認めています。造影MRIでリング状に造影されています。脳膿瘍を疑う所見です。
膿瘍の被膜をチェックするためにT1WIとT2WIの拡大図を見てみましょう。
膿瘍の被膜はT1WIで高信号を示し、T2WIで低信号を示していることがわかります。
血液検査
白血球増加やCRP高値、血沈亢進などが約半数の症例で確認できます。
脳膿瘍の治療法は?
薬物療法や外科的治療が行われます。治療は早期に行う必要があり、遅れると後遺症や致死率にも関係します。
薬物療法
抗菌薬を全身的に大量投与します。また、メトロニダゾールをそれに併用します。抗脳浮腫薬として、副賢皮質ステロイドやグリセロールの投与も効果的です。
その他、症状に合わせた対処薬が使用されます。
外科的治療
根治的治療を目的とし
- 抗菌薬投与後も膿瘍が増大する場合
- 膿瘍径が2cm以上(単一、多発に関わらず)
には、膿瘍ドレナージによって膿を排出する手術が行われます。また、皮膜形成を生じない時には、抗菌化学療法が徹底的に行われます。
最後に
- 発熱、頭痛、嘔吐症状に続いて、進行すると意識障害や痙攣、局所症状が起こる
- 原因菌が直接侵入、または他の部位からの二次感染によって起こる
- 脳脊髄液検査、CT・MRI、血液検査によって診断される
- 薬物療法や外科的治療が一般的
ほとんどの場合は、適切な治療によって完治します。ですが、治療が遅れたり免疫機能低下により完治が困難だった場合には、言語障害や麻痺障害といった後遺症が残ることもあります。
そのため、早期診断、早期治療がいかに重要か分かると思います。いつもと違う頭痛、続く発熱などが見られた場合には我慢せずに早期に医療機関を受診しましょう。