午後になるにつれ、瞼が重くなり、やる気さえもどんどんなくなっていくということありませんか?
そういう症状が出る疾患の1つに重症筋無力症があります。
ですが、ただの気持ちの問題と思っていた方からすれば、重症筋無力症という聞きなれない病名に戸惑う方も多いと思います。
そこで今回は重症筋無力症(英語表記で「Myasthenia gravis」略語でMG)について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療法
- 予後
をご説明したいと思います。
重症筋無力症とは?
神経接合部の神経伝達障害が起こる疾患で、アセチルコリン受容体に対する自己抗体が存在するために起こります。
日本では10万人あたり5.1人の患者がいるとされていますが、1対2で女性に多い傾向があり、特に20〜40代女性に好発し、男性の場合は50歳以上に多くみられ、小児にも起こります。
重症筋無力症の症状は?
症状は朝から夕方にかけ変動し、運動や休息によって悪くなったり良くなったりしますが、夕方に症状が増悪します。
筋力低下が症状の特徴でもあり
- 顔面筋
- 眼瞼挙筋
- 外眼筋
- 四肢近位筋
などの筋力が低下し、瞼が下がり疲労感や複視などが現れます。
特にこの疾患の特徴ともいえる眼瞼下垂は上眼瞼挙筋の筋力低下が原因で起こります。
筋力低下は眼筋だけでなく、全身型として
- 顔面麻痺
- 嚥下障害
- 咀嚼障害
- 構音障害
- 呼吸筋麻痺
- 体幹筋の低下
なども起こります。
ですが、しばらく休息をとると、筋力が回復するのが特徴です。
重症筋無力症の原因は?
- 自己免疫反応
- 胸腺の異常
- 感染症
- 手術
- 特定薬剤
重症筋無力症は自己免疫疾患で、神経筋接合部においてアセチルコリン受容体に対して自己抗体により、神経筋伝達障害を起こすのが原因です。
その他の原因ははっきりしてないものの、重症筋無力症の患者の多くに胸腺腫や胸腺過形成が見られ、これも原因の1つではないかと考えられています。
また、感染症や手術、特定薬剤によって誘発されて起こることも原因に挙がっており、遺伝性はありません。
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重症筋無力症の診断は?
- 自覚症状の問診、視診
- エドロホニウムテスト
- アイパック試験
- 眼瞼易疲労性検査
- 抗アセチルコリン受容体抗体検査
- 甲状腺機能検査
- 単繊維筋電図
- 反復刺激試験
- 胸腺や胸腺腫検査
まずは、症状から重症筋無力症を疑います。
そのうえで、検査を行うことになります。
ですが日内変動するため、1度検査をして陰性となっても、症状が続く場合には再度検査をすることもあります。
エドロホニウムテスト
エドロホニウムテストといって、塩酸エドロホニウムを静脈に注射し眼や全身の症状が改善するかテストする方法もあります。
アイパック試験
眼を冷却して症状が改善するかテストするアイパック試験も方法の1つです。
眼瞼易疲労性検査
上方を眼だけを動かし1分間程決まった時間見続けることによって、瞼が下がる症状が出るかどうか誘発する検査です。
血液検査
血清生化学検査にて抗アセチルコリン受容体抗体が(+)であれば重症筋無力症と診断されます。
その他、甲状腺機能亢進症などが合併することもあるため確認します。
単線位筋電図
前頭筋・眼輪筋・総指伸筋に電極を置き、A・Bの波型を観察します。
反復刺激試験
鼻筋・僧帽筋・手内在筋などに電極を置き、反復刺激を与え得られる波型を観察します。
画像診断
胸腺に異常が出ることも多いため、X線、CT、MRI、PET-CTなどで異常がないか確認します。
重症筋無力症の治療法は?
治療法はいくつかあり、症状や年齢、合併症などの有無によって判断されます。
胸腺腫のがあれば胸腺腫摘除術がおこなわれます。
また、全身型か眼筋型かによっても治療法は異なります。
眼筋型の場合
- ナファゾリン点眼
- ステロイド内服
- ステロイドパルス
- 免疫抑制薬
全身型
- ステロイド内服
- 免疫抑制薬
- 免疫グロブリン
- 血液浄化療法
- ステロイドパルス
眼筋型や全身型の一部に、抗コリンエステラーゼ薬が有効です。
対処薬として、抗コリンエステラーゼ薬や血液浄化療法が、根治療法として、拡大胸腺腫摘徐術・ステロイド・免疫抑制薬が選択されます。
ですが、急激な筋力低下や呼吸困難といった症状を認める場合には、早急に処置が必要で
- 気管内挿管
- 人工呼吸管理
- 坑コリンエステラーゼ薬の中止
- 誘因の除去
が必要となります。
重症筋無力症の予後は?
昔は致死率の高い病気とされていましたが、現在では呼吸管理も可能となり、早期診断・早期治療により、7割は軽快・寛解します。
ですが、胸腺腫を合併する全身型では難治となることもあります。
参考文献:病気がみえる vol.7:脳・神経 P318〜321
参考文献:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P343〜346
参考文献:新・病態生理できった内科学 7 神経疾患 P279〜284
最後に
- 症状が日内変動し、夕方悪化する
- 筋力低下が主な症状で、眼筋型と全身型とがある
- 自己免疫疾患で遺伝性はない
- 症状確認、血液検査、画像診断などが有効
- 症状に合わせた治療を行う
- 抗コリンエステラーゼ薬が有効
一度検査をし、異常がないと言われたものの症状が続く場合は、日内変動するものですので、再度検査をしてみることをおすすめします。
その際、症状が出やすい夕方に行ったり、症状を誘発するテストが良いでしょう。