「卵巣嚢胞(卵巣嚢腫)の症状にはどんなものがあるの?」
「治療は必要なの?」
卵巣嚢胞(らんそうのうほう)(あるいは卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ))とは、女性の左右に1つずつある卵巣にできた嚢胞のことで、人間ドックや婦人科検診などで偶然発見されることがあります。
卵巣嚢胞の多くは、良性である場合が多いです。
良性の場合、機能性卵巣嚢胞と言われる排卵が原因でできる嚢胞であることが多いのですが、サイズが大きかったりするとフォロー(経過観察)されたり、婦人科に紹介されることもあります。
そんな卵巣嚢胞について
- 症状
- 治療が必要?
- 経過観察の期間は?
- 診断方法について
- 種類
といったことについて図(イラスト)や実際のMRI画像やCT画像を用いて、わかりやすくまとめました。
卵巣嚢胞の代表、機能性卵巣嚢胞とは?
正常卵胞は発育の過程で上のように卵胞→グラーフ卵胞と発育し、そこで排卵が起こり、排卵後には黄体に変化します。
黄体は妊娠が成立しない場合は、やがて消失して行きます。
この過程の中で、
- 卵胞が嚢胞化したものを卵胞嚢胞
- 黄体に液体や血液が溜まり嚢胞化したものを黄体嚢胞
と言い、これらを合わせたものを機能性嚢胞といいます。
卵胞嚢胞
このうち卵胞嚢胞は、おおよそ3cmくらいまでの大きさですが、ときに8cmくらいまで大きくなることもあります。
壁の薄い嚢胞として、エコーやMRIなどの画像検査で同定されます。
若い女性に多く見られれますが、閉経前後や小児期に認めることもあります。
症例 30歳代女性 右卵巣嚢腫の精査
MRIのT2強調像の横断像です。
子宮の右〜右上には8cm大の境界明瞭な単房性嚢胞がを、子宮の左側には正常卵巣と連続する26mm大の境界明瞭な単房性嚢胞を認めています。
とくに右側はサイズが目立ちますが、機能性卵巣嚢胞(中でも卵胞嚢胞)として2ヶ月後フォローされましたが、その際には、腫大は消失していました。
これらから、両側の機能性卵巣嚢胞(中でも卵胞嚢胞)と診断されました。
黄体嚢胞
卵胞嚢胞と比較して、壁が厚いのが特徴で、内部に液体や血液を伴います。
血液を伴うことがあるのは、黄体に新生血管が豊富であるためです。
破裂により、腹痛や血性の腹水を生じることがあります。
この黄体嚢胞の破綻が、卵巣出血の原因として最も多いのです。
症例 40歳代女性 スクリーニング
MRIのT2強調像の横断像です。
子宮の左側に先ほどよりも壁の厚い嚢胞性病変を認めており、黄体嚢胞を疑う所見です。
卵巣嚢胞の症状は?
卵胞嚢胞の場合
卵胞嚢胞は通常症状はありませんが、サイズが大きい場合は腹部の膨満感として現れることもあります。
黄体嚢胞の場合
一方黄体嚢胞は上で述べたように、内部に出血を起こすことがあり、それが破裂すると下腹部痛として現れます。
この場合腹腔内に出血を起こしますので、血圧が下がったりショック状態になり輸血が必要になることもあります。
黄体嚢胞が出血を起こし、それが破裂する原因としては、性行、外傷があります。
症例 30歳代女性 腹痛。左腹痛。
骨盤内左側に弛緩した(虚脱した)壁の厚い嚢胞あり。
また腹腔内には血性腹水を疑う所見(CTで高吸収、T1強調像で高信号)を認めており、黄体嚢胞の破裂(卵巣出血)と診断されました。
保存的に加療されました。
卵巣嚢胞が見つかった場合治療は必要?経過観察の方法は?
まず覚えておくべきは、卵巣嚢胞の多くを占める機能性卵巣嚢胞はあくまで閉経前にできるものであるということです。
ですので、閉経後に卵巣に嚢胞が見つかった場合とは分けて考える必要があり、閉経後の場合は悪性の可能性も上がります。
また一概に卵巣嚢胞と言っても悪性の可能性が高いものも含まれます。
その場合は短い期間でフォローされたり、悪性の可能性が高いものは婦人科で詳しく調べて、場合によっては手術や他の治療が行われます。
ここでは
- 良性の形態を呈する卵巣嚢胞
- おそらく良性であろう卵巣嚢胞
の2種類に分けて、フォロー期間についてSRU(American College of Radiology)5)に基づいて記載します。
良性の形態を呈する卵巣嚢胞の場合
まず、良性の形態を呈する卵巣嚢胞とは
- 円形あるいは楕円形
- 内部が均一で1つの嚢胞
- 辺縁が整である、あるいは認識できないほど薄い壁を持つ
- 充実部位や壁在結節を持たない
- 最大10cm未満
- (閉経前の場合は嚢胞内に液面形成を認めても良い)
これらを満たすものです。
閉経前
- 5cm以下→経過観察の必要はない
- 5cm以上→6-12週後に超音波検査による経過観察を行う
閉経後5年以下の場合
- 3cm以下→経過観察の必要はない
- 3-5cm→6-12週後に超音波検査による経過観察を行う
- 5cm以上→ただちに超音波検査による経過観察を行う
閉経後5年以上の場合
- 3cm以下→経過観察の必要はない
- 3cm以上→ただちに超音波検査による経過観察を行う
おそらく良性であろう卵巣嚢胞の場合
おそらく良性であろう卵巣嚢胞とは、良性の形態を持っているものの
- 輪郭に角張ったところがある
- 円形あるいは楕円形とは言えない
- 嚢胞の一部がアーチファクトなどで良好に見えない
場合が該当します。
これらを満たす場合、閉経前と閉経後に分けてフォロー期間を見てみましょう。
閉経前
- 3cm以下→経過観察の必要はない
- 3-5cm→6-12週後に超音波検査による経過観察を行う
- 5cm以上→ただちに超音波検査による経過観察を行う
閉経後5年以下の場合
- 3cm以下→経過観察の必要はない
- 3cm以上→ただちに超音波検査による経過観察を行う
閉経後5年以上の場合
- 1cm以下→経過観察の必要はない
- 1cm以上→ただちに超音波検査による経過観察を行う
卵巣嚢胞の診断方法は?
卵巣嚢胞は一般的に
- 腹部超音波検査(エコー)
で見つかることが多いですが、
- 腹部CT
- 骨盤MRI
で見つかることもあります。
機能性嚢胞以外の卵巣嚢胞の種類は?消えることもある?
多くは月経に基づく機能性の嚢胞でありますが、そうでない嚢胞性病変の場合もあります。
- (機能性卵巣嚢胞(卵胞嚢胞、黄体嚢胞))
- 子宮内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)
- 封入嚢胞
- 漿液性嚢胞
- 粘液性嚢胞
- 傍卵巣嚢胞
機能性卵巣嚢胞
上での述べたように、機能性卵巣嚢胞とは排卵に伴う貯留嚢胞のことであり、閉経後は認めません。
- 卵胞嚢胞
- 黄体嚢胞
機能性卵巣嚢胞には、これら2つの種類があります。
これらは排卵に伴う嚢胞であり、通常数週間から数ヶ月で消えたり、小さくなることが一般です。1)2)
一方で、機能性卵巣嚢胞以外の、卵巣嚢腫は通常消えたり小さくなることはありませんので、経過観察をすることで診断できることがあります。
卵胞嚢胞
月経周期の始めに、10個前後の原子卵胞が発育を始めます。
そのうち、1個のみが成熟して排卵され、他の卵胞は退縮して閉鎖卵胞となります。
閉鎖卵胞は、通常3cm以下ですが、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)によって8〜9cmの大きさになることがあります。
これが卵胞嚢胞です。
黄体嚢胞
また黄体嚢胞は排卵後に破裂した卵胞壁が修復したところに、液体が溜まったもののことです。
こちらは嚢胞内にしばしば出血を起こします。
場合によっては破裂を起こし、腹痛の原因になります。1)2)
子宮内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)
卵巣の子宮内膜症でも、嚢胞が作られ、その中に古い出血が溜まって腫大したものです。3)
封入嚢胞
封入嚢胞には種類があり、
- 漿液性嚢胞
- 粘液性嚢胞
があります。
封入嚢胞とは、排卵の繰り返しの中で、卵巣の表面が陥入することでできた嚢胞です。
その嚢胞の中にサラサラの水のようなものが分泌されて溜まったものを漿液嚢胞といいます。
嚢胞の中に、ネバネバの粘液が溜まったものを粘液嚢胞といいます。
どちらも無症状であることがほとんどで、治療の必要はありませんが、消失することはありません。
そのため、茎捻転などに注意が必要です。
また、良性・悪性腫瘍の原因になることも考えられますので、経過観察が必要になります。2)3)
傍卵巣嚢胞
傍卵巣嚢胞とは、卵巣の外側にできる嚢胞です。
超音波検査で他の卵巣嚢胞との鑑別が困難なため、開腹手術となった場合に発見されることが多くなっています。4)
参考文献・サイト)
1)婦人科乳腺外科ビジュアルブックp21-22
2)近江徳洲会病院HP
3)病気がみえるvol.9婦人科・乳腺外科p168
4)日本産科婦人科内視鏡学会第23巻第1号 当院で経験した傍卵巣嚢腫症例の検討p198
5)J Am Coll Radiol 10:675-681,2013
婦人科MRIアトラス P152-152
最後に
- 卵巣嚢胞の症状は無症状であることが多い
- 嚢胞のサイズが大きい場合は、腹部膨満感が現れることもある
- 黄体嚢胞の場合は、出血を起こすことがあり、それが破裂することで下腹部痛が起こることもある
- 出血を起こすことで、血圧が下がり、ショック症状を起こすこともある
- 卵巣嚢胞の診断は腹部超音波・腹部CT・骨盤MRI
- 卵巣嚢胞の経過観察と治療について
- 卵巣嚢胞の種類は大きく分けて4つあるが、一番多いのは機能性卵巣嚢胞である
- 卵巣嚢胞は茎捻転を起こすこともある
卵巣嚢胞の多くは良性の機能性卵巣嚢胞ですが、悪性が疑わしい場合は婦人科で詳しく検査をすることになります。
良性の場合は、通常無治療ですが、サイズや閉経の有無によりフォローの有無やフォロー期間が決まります。