Ovary stem torsion Eye-catching image

 

女性に急激な腹痛を起こす病気の一つに卵巣茎捻転(読み方は「らんそうけいねんてん」英語表記でtorsion of ovarian pedicle)があります。

捻転というのは「ねじれる」という意味ですから、文字通り卵巣がねじれてしまう病気です。

この病気の怖いところは「ある日突然起こる」ことが多いということです。

「この卵巣茎捻転はどうして起こるのでしょうか?」

「またどのような症状が起こるのでしょうか?」

今回はこんな卵巣茎捻転のあらゆる疑問にイラストや実際のCT画像を交えて解説していきます。


卵巣茎捻転とはどんな病気?

卵巣茎捻転とはどのような病気ですか?
卵巣の腫瘍がねじれてしまう病気です。

卵巣茎捻転は、正常卵巣もしくは、卵巣にあった腫瘍が捻じれてしまう病気です。

卵巣は固有卵巣索(英語では、proper ligament of ovaryやutero-ovarian ligament)によって子宮と繋がり、卵巣提索(英語ではsuspensory ligament)と呼ばれる靭帯によって骨盤と繋がっています。

茎捻転とはこの2つの靭帯が捻じれることです。

torsion of ovarian pedicle figure

卵巣に腫瘍ができると重みで卵巣が下がり、靭帯も引き伸ばされます。

そうなると卵巣は靭帯の付け根に「茎」を形成し、それを中心にして茎捻転を起こしやすくなるのです。

この卵巣茎捻転は、生殖期の女性に多く見られますが閉経後の女性や妊婦、子供にも見られます。

左側はS状結腸という大腸が存在して体の動きの影響を受けにくいとされ、この卵巣茎捻転は右側に多い傾向にあります。

捻じれると激しい痛みが生じ、緊急手術になることもあります。

卵巣茎捻転の原因は?

卵巣茎捻転の原因は何でしょうか?

捻じれてしまう原因は、主に卵巣に出来た良性の腫瘍です。

そのため卵巣腫瘍茎捻転(torsion of ovarian tumor pedicle)と呼ばれることもあります。

ただし、思春期前を中心に、卵巣の発達は未熟な場合は、正常の卵巣でも捻転は起こることがあります。

茎捻転が起こりやすいのは以下の場合です。

  • 卵巣嚢腫の大きさが5センチ~15センチ
  • 卵巣嚢腫を合併して妊娠した場合
  • 成熟嚢胞性奇形腫(読み方は「せいじゅくのうほうせいきけいしゅ」)

卵巣嚢腫の中でも、成熟嚢胞性奇形腫が最も茎捻転を起こすリスクが高いと言われています。

また激しい運動をしたり体位を変えたりすることがきっかけで起こる場合もあります。

サイズが大きければ捻転するというわけではないのですか?
大きすぎる場合は、逆に捻転するスペースがありませんので、5-15cmくらいが最も捻転しやすいと言えます。
卵巣の良性ではなくて悪性は捻転しないのですか?
悪性の腫瘍の捻転の頻度は良性の腫瘍の1/10以下と報告されています。

卵巣茎捻転の症状は?

卵巣茎捻転の症状はなんですか?
以下の症状があります。
  • 突然の下腹部痛
  • 嘔吐
  • 悪心
  • 背中の痛み
  • 時に発熱

卵巣茎捻転の症状で最も多いのは突然の下腹部痛です。

ですが徐々に捻じれてくる場合には少しづつ痛みが増すような症状になります。

炎症を起こすと発熱を伴う場合があります。

また捻転を起こしても元に戻る場合もあると言われています。

その場合は痛みは一時的なものですが完全に捻じれてしまうと激しい痛みが襲います。

捻じれたままだとどうなる?

捻じれたままにしておくと卵巣が結構障害を起こして壊死したり腫瘍破裂によって腹膜炎を起こすこともあります。

そのためねじれを解除する手術が必要となります。

予防は出来る?

確固たる予防方法はありません。

成熟嚢胞性奇形腫などの卵巣の良性腫瘍があることがわかっている場合は、日常では激しい運動は控えるなどが必要です。

卵巣茎捻転の診断は?画像は?

診断は、超音波検査(腹部エコー)、腹部CT検査、骨盤MRI検査といった画像診断により行います。

通常、最も侵襲性が少なく簡便なエコー検査を行います。

エコー検査で卵巣腫瘍の有無や大きさを確認し、ドップラー法と呼ばれる超音波を使った方法で卵巣の血流を確認します。

またCTやMRIでは、

  • 卵巣間膜の捻れやそれに伴う短縮を反映して、子宮に向かう突出(protrusion
  • 嚢胞の偏心性もしくは全周性の壁肥厚

を認めることがあります。

捻転の程度が強い場合は、造影剤を用いたCT検査やMRI検査で、捻転した卵巣の造影効果が弱くなることもあります。

症例 20歳代 女性   仕事中に突然の左下腹部の痛み
単純CT

torsion of ovarian tumor pedicle CT findings1

単純CTで骨盤内の左側に、脂肪や石灰化を含んだ卵巣腫瘍を認めています。
左成熟嚢胞性奇形腫を疑う所見です。
また子宮と卵巣腫瘍の間に索状の軟部組織を認めており、子宮が左側に偏位しています。

造影CT

torsion of ovarian tumor pedicle CT findings2

造影剤を用いた造影CTでは、子宮がよく造影されている(白くなっている)のに対して、卵巣腫瘍及び間の軟部組織も造影効果が不良です。

以上から成熟嚢胞性奇形腫の捻転を疑い手術となりました。
手術の結果、この軟部組織は、卵巣間膜の捻れを見ており、2回転(720度)していました。

今回のこの症例をイラストで表すと次のようになります。

torsion of ovarian tumor pedicle CT findings3

捻転を起こしたのが左であった点以外は、典型的な症例ですね。

卵巣茎捻転の治療法は?

卵巣茎捻転の治療法は?
手術になることが多いです。

まずは鎮痛剤の投与を行い、痛みを和らげます。

鎮痛剤で痛みのコントロールが可能であれば待機的に、可能でなければ緊急手術を行います。

開腹もしくは腹腔鏡下に、

  • 卵巣腫瘍摘出術あるいは付属器摘出術

を行いますが、卵巣が壊死に陥っていない場合は捻転の解除のみを行います。

参考文献:病気がみえる vol.9:婦人科・乳腺外科 P171
参考文献:婦人科MRIアトラス P269
参考文献:すぐ役立つ救急のCT・MRI P247

まとめ

今回のお話しをまとめます。
  • 卵巣茎捻転とは卵巣の腫瘍が捻じれる病気のこと
  • 妊婦や子供にも起こる
  • 激しい運動や体位を変えたりすることでも起こる
  • 最も多い症状は突然の下腹部痛
  • 捻じれたままにしておくと卵巣が壊死したり腹膜炎を起こすことがある
  • 治療法は手術になることが多い

 

いかがでしたか?

今回は卵巣茎捻転についてまとめました。

早期発見して、早期に治療することが卵巣の温存にもつながります。

卵巣の良性腫瘍(特に成熟嚢胞性奇形腫)があるとわかっている人は、突然の下腹部痛の際には、この可能性も考えることが重要です。




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