
私の祖母は肝臓癌から肝硬変、肝性脳症となりました。
徐々に進む症状や昏睡度の進行により、本人はもちろん、家族も大変苦労し悩まされました。
肝性脳症は意識障害が主なんですが、ふと我に返る時もあり、その時には想像以上の後悔や失望が本人にも襲ってきます。
また、それを支える家族も心身共におかしくなりそうなほど大変です。
今回は、そんな肝性脳症(英語表記で「Hepatic encephalopathy」)となった祖母を見てきた私の看護体験談も踏まえ、医学的な説明と体験談を分けてお話しします。体験談の部分には【体験談】と付けています。体験談は個人の経験であり、すべての方に当てはまるわけではありません。
- 症状
- 原因
- 治療法
- 余命
についてお話したいと思います。
- 肝性脳症は、重い肝臓の病気(肝硬変・肝不全など)のために、アンモニアなどの有害な物質が脳に影響し、意識や行動に変化が出る状態です。
- 眠りのリズムの逆転、場所が分からない、つじつまの合わない言動、手の羽ばたくような震えなどが見られ、進むと昏睡になります。
- 便秘・感染・消化管出血・脱水などがきっかけで悪化することがあり、便通のコントロールと、きっかけの治療が重要です。
- 肝硬変で肝性脳症が出る時期は病気が進んだサインで、予後は基礎の病気の状態や治療への反応で大きく異なります。
- 認知症と間違われることがあります。意識がおかしいときは、肝臓の病気があることを伝えて受診しましょう。
肝性脳症とは?
高度の肝機能障害や門脈-大循環シャントにより、腸管の中で作られたアンモニアなどの物質が肝臓で十分に処理されず、脳に影響することで生じる状態です。

肝性脳症の症状は?
肝性脳症の昏睡度
日本でよく使われる昏睡度の分類(Ⅰ〜Ⅴ)の目安です。
| 昏睡度 | 症状 |
| Ⅰ | 睡眠リズムの逆転・気分の浮き沈み・自分に無頓着になる |
| Ⅱ | 場所を認識できない・異常行動・傾眠状態・羽ばたき振戦あり・トイレの失敗はない |
| Ⅲ | 興奮やせん妄状態を伴い反抗的になる・羽ばたき振戦あり |
| Ⅳ | 昏睡状態(痛みや刺激には反応) |
| Ⅴ | 昏睡状態(痛みや刺激にも反応しない) |
昏睡度Ⅱになった時、祖母の様子がおかしいと、救急車を呼んだことがあります。
起こしても起きず、少し喋っても発言がおかしかったりしたため恐怖を感じたんですが、このような症状は認知症とも似ている為、受け入れ先がなくどの病院にも拒否されました。
その後救急隊員の方のすすめで、自家用車に乗せるまで手伝ってもらい、救急へ連れて行きました。
病院で主治医に診てもらったところ、病院に連れてきて正解だったと言われました。
しかし、症状だけでは担当医以外に伝わらないため「肝性脳症による症状で」と伝え、救急車を呼ぶことをすすめられました。
意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が悪いといったときは、肝臓の病気があることを伝えたうえで、迷わず救急要請や受診をしてください。
認知症との見分けに関わる画像検査については、認知症の画像診断は?MRIと脳血流SPECTでわかることは?で解説しています。
肝性脳症の原因とは?
肝臓の病気、急性・慢性肝不全や門脈-大循環シャントなどで、肝機能がうまく作用しなくなり起こります。
肝臓でアンモニアをうまく処理できず、血液中のアンモニアが増えることが関わります。まれに尿素サイクル異常症などでも起こり、急性に起こる場合、慢性に続く場合、時々くり返す場合があります。
肝硬変のある方では、次のようなことがきっかけで肝性脳症が出たり悪化したりすることがあります(AASLD/EASL 2014)。
- 便秘
- 感染症(肺炎・尿路感染・腹水の感染など)
- 消化管出血(食道・胃の静脈瘤の出血など)
- 脱水や利尿薬による電解質の乱れ
- 睡眠薬・鎮静薬などの薬
きっかけがあれば、その治療が肝性脳症の改善につながります。
アンモニアなどが脳に届くと、神経の働きに障害が起こると考えられています。
【体験談】私が最初に祖母の異変に気付いたのは口臭の変化でした。肝臓の病気が進むと特有の口臭が出ることがあります。
肝硬変そのものの治療については、肝硬変の治療法は?腹水や黄疸など合併症によって異なる?で解説しています。
肝性脳症の治療は?
基礎の肝臓病の治療と、悪化のきっかけ(感染・出血・便秘・脱水など)の治療が主となります。
治療法について説明します。
- 便通をよくする薬(ラクツロースなどの下剤)
- 腸内のアンモニアを作る細菌を抑える薬(腸から吸収されにくい抗菌薬)
- アミノ酸の栄養剤(分岐鎖アミノ酸製剤)

肝硬変の食事で気をつけることは、肝硬変の食事療法は?エネルギー・たんぱく質・塩分の目安とレシピ・看護で紹介しています。
参考文献:Bustamante J, et al. J Hepatol 1999 PubMed
参考文献:Córdoba J, et al. J Hepatol 2004 PubMed
参考文献:Mullen KD, et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2014 PubMed
参考文献:Vilstrup H, et al. Hepatology 2014 PubMed
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P256•257
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P196~198
腸の中で作られるアンモニアが体にたまらないように、便のコントロールがカギです。
便通をよくする薬(ラクツロースなどの下剤)が使われ、便がゆるくなるため、便の回数を毎日チェックすることが大切です。国際的なガイドラインでも、発作時や再発予防の基本の薬とされています(AASLD/EASL 2014)。
また、腸内でアンモニアを作る細菌を抑える薬(リファキシミンなど)が、再発予防のために併用されることがあります(Mullen 2014)。その他、アミノバランスを整えるアミノレバンなどの栄養剤が使われることがあります。
薬の量は、便の回数や様子を見ながら医師が調整します。便が出ないと症状の悪化につながるため、便の回数を記録して主治医に伝えるようにしましょう。自己判断で量を変えないでください。

肝性脳症の場合の食事
- 極端なたんぱく質制限はしない(必要なエネルギーとたんぱく質をとる)
- 便通を整えるため、食物繊維をとる
- 腹水がある場合は塩分制限が必要になることがある
- 禁酒
以前は肝性脳症があるとたんぱく質を減らす食事が行われていましたが、現在は、たんぱく質を極端に減らすと栄養状態が悪くなるため、すすめられていません。肝性脳症の入院患者で、通常のたんぱく質量の食事でも低たんぱく食と経過に大きな差がなかったという研究があります(Córdoba 2004)。
家族の看護としては、便のコントロールが大事なので、便秘にならないよう食事を整えることが大切です。腹水や、血液中のナトリウムが低い状態があるときは、塩分や水分の制限が必要になることがありますが、量は人によって異なるため主治医の指示に従ってください。
とにかく定期的に通院し、医師の指示に従うことが大切です。
肝性脳症の場合の余命は?
説明します。
肝性脳症の予後は、きっかけがはっきりしていて、それを治療できる場合には、改善することが多いです。一方、肝硬変が進んで肝性脳症が出た場合は、病気が進んだ(非代償期の)サインで、予後は厳しくなることがあります。
肝硬変の患者で初めて急性の肝性脳症を起こした111人を調べた研究では、生存率は1年で42%、3年で23%でした(Bustamante 1999)。ただしこれは古い海外の研究で、現在は治療の選択肢(リファキシミンなどの薬、肝移植)が異なります。また、肝機能の程度(ビリルビン・アルブミンなど)で経過は大きく異なり、同じ研究でも、予後が良いと予測された群と悪いと予測された群で生存率に大きな差がありました。
余命は、肝性脳症だけで決まるものではなく、基礎にある肝臓の病気の状態、きっかけの有無、治療への反応で大きく異なります。具体的な見通しは、担当医に確認してください。肝移植が検討できる場合もあります。
【体験談】祖母の担当医には、便をきちんと出していれば大丈夫だと励ましていただきました。ただし、病状や経過は人によって異なります。

【体験談】私の祖母の場合
以下は私の家族の経験で、一般的な経過や期間を示すものではありません。
最初に異変に気付き、肝性脳症と診断され、祖母は入退院を繰り返し、亡くなるまでは3年ほどでした。
同じ肝性脳症だった知人は10年だったそうです。経過は人によって大きく異なります。
祖母の場合は、症状がひどくなっては入院・・・風邪をひいたらまた入院・・・といった具合に。
とにかく入退院を繰り返し、アンモニアの数値が下がれば退院といった感じでした。
そして、最期の方は、昏睡度ⅢとⅣを行き来するような状態に。

祖母の場合は、同じ病院に長く入院を続けることが難しく、転院を求められました(施設や制度によって異なります)。
とにかく、受け入れ先の病院を調べ、転院するしか方法がありません。
点滴も必要だったため、自宅でみるのは不可能な状況でした。
祖母が急激に悪くなったのは、転院してからです。
病院の方針によっては治療内容も異なるのです。
祖母は血管ももろくなり、点滴を入れる場所がなくなり、足から人工血管を入れる処置を行いました。
その後点滴のみの生活となり、深い昏睡状態になっていき、最後の1カ月は眠ったままでした。

肝性脳症についてよくある疑問
Q. 肝性脳症は治りますか?
A. 便秘や感染などのきっかけがあるものは、それを治療すれば改善することが多いです。ただし、肝硬変が進んでいる場合は、くり返すことがあるため、予防のための治療を続けます。
Q. 何科を受診すればいいですか?
A. 肝臓内科や消化器内科です。意識がはっきりしないときは、救急を受診してください。
Q. 家族が気をつけることは?
A. 便の回数、眠りのリズム、言動の変化を記録して主治医に伝えることです。気になる症状があれば、医療機関へご相談ください。
最後に
- 肝硬変などによる肝機能障害が原因
- アンモニアが脳に上がり、症状が悪化する
- 便のコントロールが大事
- 下剤・抗生剤・栄養剤などが処方される
- 肝性脳症は肝硬変などが進んだサインで、予後は基礎の病気の状態や治療への反応で異なる
- 悪化のきっかけ(便秘・感染・出血・脱水など)に注意する
実は、肝性脳症の症状は認知症とも似ている為、肝性脳症に気付かず、症状がひどくなって気付くという場合もあるのです。
肝臓の病気の場合、特に便の回数は気にして、症状と共に注意しておくことが大切です。
便通を整えると症状が改善することがあるほど、便の出方は肝性脳症に影響します。
これは認知症だと決めつけず、医療機関を受診することが重要です。






肝性脳症に関するWEBサイトを検索・読む限り記事・記述にはさほど違いがないように思います。が、この記事は解かり易く読みやすい。自分は、肝炎・慢性肝炎・肝硬変と肝臓病が進行し、最近、「肝性脳症」が発症していると診断されたところです。特有の症状ありませんが、今になって、食事など生活習慣を見直し、少しでも脳症の進行を食い止め、改善をを計ろうと懸命です。そういう意味で最初に述べたとおり、このページは参考になりました。有難うございます。
杉野目 扶様
コメントありがとうございます。
とにかく、排便のコントロールが重要となります。
排便用(便通コントロールのため)の水薬を飲むと、毎回のように下痢になるため、「ちゃんと出てれば問題ない」と祖母が自己判断で薬を減らすこともあり、結果それが原因でアンモニアが上がってしまったことも何度もありました。
自分では排便はこれくらいで十分だろうと思っていても、不十分なこと・・・多いんですよね。
おかしな症状(意識障害)が出た場合、浣腸をして改善されたということも・・・。
毎日の排便表(量と回数)をつけて管理することもお勧めします。
また、薬の飲みあわせも問題となりますので、必ず風邪や不眠などの薬を飲む場合にも薬剤師に相談することをお勧めします。
アンモニアが上がってきた際は、口臭でも気付くことができますが、本人ではなかなか自覚できないといったことがありましたので、ご家族の協力も必要です。
私も当時、基本情報としては分かっていたつもりでしたが、実際に見て戸惑うことも多々あり、「結果論ではなく、今できることは何か?対処法や注意点が知りたい」と思うところがあり、少しでも誰かのお役に立てればと、このような体験記事を書かせて頂きました。
そのため、コメントを大変嬉しく読ませて頂いたしだいです。
こちらこそ、ありがとうございました。