肝臓に膿(うみ)が溜まる病気を肝膿瘍と(読み方は「かんのうよう」、英語ではhepatic abscess)といいます。
- 本来膿が溜まらない肝臓にどのような原因で膿が溜まるのか?
- 症状にはどのようなものがあるのか?
- どのように診断して、治療はどうするのか?
- 看護はどういったことを気をつければ良いのか?
など気になるところです。
今回は、そんな肝膿瘍についてイラストと実際のCT画像を用いて、まとめました。
肝膿瘍の原因は?
まず、膿が細菌により作られるのか、細菌以外により作られるのかに分けられますが、9割は細菌感染が原因です。
細菌以外(非細菌性)のものでは、赤痢アメーバや真菌が原因となります。
細菌性(化膿性)肝膿瘍とは?
大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌が多い。
経胆道系が60-70%と最多です。
非細菌性肝膿瘍とは?
細菌以外ですので、真菌、原虫などが原因になりますが、最も有名なのは、赤痢アメーバによるアメーバ性肝膿瘍です。
このアメーバ性肝膿瘍は
- 若年者に多い
- 同性愛者のSTD(性感染症)として有名
- 経門脈性に感染することが多い
という特徴があります。
肝膿瘍の特徴は?
また、20%に多発します。
どんな人が肝膿瘍のリスク?
免疫抑制状態の人は、健常人よりも肝膿瘍のリスクが高くなります。
免疫抑制状態とは、
- 糖尿病
- ステロイドを使っている人
- 化学療法(抗がん剤)を使っている人
などが該当します。
局所のリスクしては、胆管に狭窄があったり、肝腫瘍に対する動脈塞栓後の人に多いとされます。
感染経路は?
先ほど申し上げた
- 経胆道性
- 経門脈性
が多いですが、経動脈性に感染することもあります。
経胆道性の肝膿瘍の特徴は?
上に述べたように、最も細菌性に多く、胆管炎に続発するのが特徴です。
経門脈性の肝膿瘍の特徴は?
こちらも上に述べたように、アメーバ性が有名です。
経口感染後、大腸から経門脈性に肝膿瘍形成するのがアメーバの特徴です。
アメーバ以外にも、門脈領域の炎症性疾患が門脈に乗ってきて、膿瘍を作ります。
炎症性疾患とは、
- 虫垂炎
- 憩室炎
- 直腸肛門周囲膿瘍
などが含まれます。
また炎症以外では、大腸癌に合併することがあるので注意が必要です。
肝膿瘍の症状は?
肝膿瘍の症状には、
- 発熱
- 上腹部痛
- 肝腫大
- 食欲不振
- 全身倦怠感
などの症状があります。
採血結果や画像診断が非常に重要となります。
肝膿瘍の画像診断は?
まず用いられるべきは、超音波検査(エコー)です。
その次にCT、MRIとさらに精密検査がなされていきます。
造影CTやMRIでは、辺縁がリング状に造影される単房性あるいは多房性の液体貯留が典型的です。
さらに詳しく見てみると次のような特徴があります。
- 20%で多発
- 細菌性、アメーバともに右葉に多い
- 単純CTで、低吸収域の周囲に淡い低吸収を認める。境界は不明瞭なことが多い
- 造影でリング状に辺縁に造影効果を認める
- このリングの外側に反応性浮腫を認め、double target signと呼ばれ、30-42%に見られる
造影剤を用いたダイナミック検査で動脈相(早期相)と平衡相で異なった造影パターンを示します。
症例 50歳代 男性
肝臓右葉の肝区域S6/7に液貯留を認めています。
動脈相においてはこのように膿瘍腔(低吸収=黒)の周りに膿瘍の壁(高吸収=白)、反応性浮腫(低吸収=黒)、区域性濃染(高吸収=白)の造影パターンを示します。
平衡相では膿瘍壁と反応性浮腫がまだらな低吸収となります。
症例 30歳代 男性 発熱、腹痛
こちらも先ほどのの症例と同じような造影パターンを示します。
先ほどよりもやや分葉状構造を示しています。
肝膿瘍の治療は?
細菌が原因の肝膿瘍には抗菌薬が、アメーバ性にはメトロニダゾール(フラジール®︎)が投与されます。
5cm以上とサイズが大きかったり、難治性のものには、エコー下にドレナージ術が施行されます。
また肝臓外に破裂した場合には外科的手術が行われることもあります。
メトロニダゾール内服中の注意点は?
治療薬として使われるメトロニダゾール服用中は、禁酒する必要があります。
それは、アルコール代謝におけるアルデヒト脱水素酵素を阻害するためであり、患者にそのことを説明し、禁酒の意味を理解してもらうことが大切です。
肝膿瘍のドレナージ術の合併症は?
肝臓内の膿瘍に針を刺して、ドレナージチューブを留置します。
- 隣接する臓器損傷(大血管損傷、消化管穿孔など)
- 膿汁の腹腔内への漏出、それによる腹膜炎
- 菌血症
- 気胸
- 出血
肝膿瘍のドレナージ術の看護のポイントは?
PTCDにおけるポイントとほぼ同様です。
術後の注意点として、肝膿瘍の場合は、出てくる液体が膿汁ですので、固形成分や泥状成分を含みます。
そのため胆汁を外に出すPTCDに比べて、詰まりやすくチューブの毎日のこまめな洗浄が重要となります。
チューブ留置中は、廃液量、性状を記録し、急に量が少なくなったり多くなったりした場合は速やかな報告が重要です。
肝膿瘍の治療期間は?
- 細菌性では平均49日
- 非細菌性であるアメーバ性では平均58日
を要したと報告されています。(肝臓49巻3号101-107,2008)
肝膿瘍の死亡率は?
肝膿瘍の原因が細菌性の場合、敗血症性ショック、DIC などにより死亡した症例が14%と報告されています。(肝臓49巻3号101-107,2008)
肝膿瘍の治療ガイドラインは?
肝膿瘍についてのガイドラインというものは現状存在しません。
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P144
最後に
肝臓に膿がたまる病気である、肝膿瘍についてまとめました。
肝膿瘍に特徴的な症状などがないため、腹痛や症状から、この疾患を疑うこと、画像診断がこの病気の診断には欠かせません。
また、同性愛者である点、糖尿病などの免疫抑制状態ではないかなどにも注意が必要です。