尿検査は様々な項目を調べますが、その一つに蛋白があります。
蛋白が混じる尿を蛋白尿と呼びます。
この蛋白尿の原因は様々ありますが、その中で腎前性蛋白尿(尿を生成する過程で腎臓より前の段階に原因があるタンパク尿)となるものの1つに、ベンス・ジョーンズ蛋白というものがあります。
今回は、ベンス・ジョーンズ蛋白(英語表記で「Bence Jones protein」)について
- 検査方法
- 正常値
- 異常な場合の疾患
などを解説したいと思います。
ベンス・ジョーンズ蛋白とは?
ベンス・ジョーンズ蛋白を理解する前に、免疫グロブリンについて理解しなければなりません。
免疫グロブリンとは、細菌やウイルスなどの異物に対して攻撃をしてくれる「抗体」のことで、形質細胞という細胞が作ります。
正常な形質細胞は、図のようなH鎖とL鎖からなるY字型の免疫グロブリンと呼ばれる蛋白を産生します。
ところが、異常なクローンを持った場合、形質細胞は、H鎖を多く作ったり、L鎖だけを作ったりと、完成されていない不完全な状態の蛋白を作るようになります。
中でも、B細胞腫瘍増殖性疾患の場合は、L鎖が余ってしまいます。
余ったL鎖は、低分子蛋白なために腎臓を自由に通過して尿中に排出されやすい特徴があります。
これを発見したベンス・ジョーンズ博士にちなんで、ベンス・ジョーンズ蛋白と呼ぶのです。
ベンス・ジョーンズ蛋白の正体は、異常な構造の免疫グロブリンなのです。
ベンス・ジョーンズ蛋白の検査方法は?
- 免疫電気泳動法(IEP)
- 免疫固定電気泳動法
- 毛細管電気泳動法
- κ、λ連鎖測定
という検査方法があります。
免疫電気泳動法(IEP)
尿を濃縮した後に、蛋白質を分離させるために電気泳動し、抗H鎖抗体・抗L鎖特異抗体を添加反応させて判定する方法です。
免疫固定電気泳動法
原液を用いて、蛋白質を分離させるために電気泳動し、それぞれに得意抗体を添付して判定する方法です。
IEPよりも高感度に判定することができます。
毛細管電気泳動法
それぞれの抗体を添付させた後に、再び蛋白質を分離させるために電気泳動する方法で、
- 抗κ(κ=カッパと読む)
- λ抗体(λ=ラムダと読む)
どちらか一方のみ反応してM蛋白ピーク(M蛋白が多い)が消えると、ベンス・ジョーンズ蛋白と判定します。
κ、λ連鎖測定
κ鎖とλ鎖量を比べ(κ/λ比)、算定してM蛋白を検索(免疫固定電気泳動法によって確認)する方法です。
もっとも高度な測定法であり、通常血清が測定適応となります。
ベンス・ジョーンズ蛋白の正常値は?
- 陰性=正常
通常は尿中にベンス・ジョーンズ蛋白が存在することはないため、陰性ならば正常となります。
ベンス・ジョーンズ蛋白を認める疾患・鑑別は?
異常な場合、尿中に存在するようになるベンス・ジョーンズ蛋白ですが、その原因となりうる疾患・原因としては以下のものがあります。
- 多発性骨髄腫
- 原発性マクログロブリン血症
- H鎖病
- 悪性リンパ腫
- 慢性リンパ性白血病
- アミロイドーシス
- L鎖病
- MGUS(前悪性化状態)
など。
参考文献:最新 尿検査 その知識と病態の考え方 第2版P104〜106
参考文献:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器P20
最後に
- 異常な構造の免疫グロブリン(蛋白)が、尿に漏れ出た正体がベンス・ジョーンズ蛋白である
- ベンス・ジョーンズ蛋白は尿検査で陰性なら正常
- 腫瘍性疾患が原因となることもある
ベンス・ジョーンズ蛋白だったからといって、必ずしも腫瘍性疾患があるとは限りません。
病態を把握する上では重要な検査となりますが、ベンス・ジョーンズ蛋白には様々なタイプがあり、臨床意義は今現在も症例を重ね、検討されている状況です。