健康診断や人間ドックの尿検査のスクリーニングとして用いられる試験紙法には、尿潜血の検査が含まれています。
この尿潜血の検査で陽性となった場合、
「尿に血液(=赤血球)が混じっている血尿である」
ことがまず考えられ、再検査や「尿沈渣」という顕微鏡を用いたより詳しい検査をすることになります。
顕微鏡で赤血球が基準値以上確認されれば、血尿と診断されます。
そして、尿潜血検査で陽性のほとんどがこの血尿です。
尿潜血について詳しくはこちらにまとめました。→尿潜血の原因は?陽性の場合どんな病気の可能性がある?
しかし、より詳しい検査である尿沈渣で赤血球が見られないことが稀にあります。
つまり、試験紙法では尿潜血が陽性なのに、実際は血液(赤血球)は混じっていないということで、これを偽陽性(ぎようせい)と言います。
この尿潜血の偽陽性を起こす原因にミオグロビン尿とヘモグロビン尿があります。
今回はこのうち、ミオグロビン尿症について
- 原因
- 検査(鑑別)
- 治療
などを説明したいと思います。
ミオグロビン尿症とは?
ミオグロビンは、心筋や骨格筋などの繊維筋に含まれ、暗赤色調を呈します。
このミオグロビンは、血液中から酸素を取り込んで筋肉の収縮をスムーズにおこなう機能を持っています。
しかし、下で述べるような何らかの原因により筋肉が障害や壊死に陥ると、血液中にミオグロビンが放出されるようになり、尿にも混入して排泄されます。
これを、ミオグロビン尿症といいます。
ミオグロビン尿は、赤ワインやコーラ色と呼ばれる色をしています。
ミオグロビン尿症の原因は?
尿中にミオグロビンが増加するのは、心筋や骨格筋などの筋組織の障害や壊死が考えられます。
- 震災や交通事故などによる骨格筋挫滅
- 心筋梗塞などの心筋壊死
- 薬物(スタチンなど)による横紋筋融解
- 先天性の糖代謝異常である糖原病Ⅴ型(マッカードール病)
- 悪性高熱
などが筋肉の障害や壊死、挫滅の原因となりミオグロビン尿症となる可能性があります。
ミオグロビン尿症の検査や基準は?
上で述べたように、血尿・ミオグロビン尿・ヘモグロビン尿はいずれも、尿試験紙法において、陽性となります。
そして、次のステップである、顕微鏡で尿を観察する尿沈渣という検査でミオグロビン尿・ヘモグロビン尿は赤血球を認めない(尿沈渣では陰性となる)のが特徴でした。
尿中のミオグロビン濃度が250mg/dLを超えると、尿の外観的には赤色を呈すようになり、時間の経過とともに暗赤褐色となります。
しかし、ヘモグロビン尿も赤褐色となりますので、外観で、ミオグロビン尿とヘモグロビン尿を鑑別するのは困難です。
ヘモグロビン尿とミオグロビン尿の鑑別
両者の鑑別には、硫酸アンモニウムによる塩析法(Blondheim塩析法)が用いられます。
尿5mLを試験管にとり、硫酸アンモニウム2.8gを少しずつ混ぜ合わせた後に、ろ過させます。
ろ過された液に色がついていればミオグロビン尿、無色透明ならばヘモグロビン尿と診断できます。
ですので、ミオグロビン尿の場合、
- 尿潜血反応で陽性、かつ
- 尿沈渣鏡検で陰性、かつ
- Blondheim塩析法で赤褐色を呈する
となります。
試験紙法で尿潜血陽性となる血尿、ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿の鑑別法をまとめると以下のようになります。
ミオグロビン尿の治療は?
ミオグロビン尿を放置したままでいると、急性腎不全に陥る可能性があり、以下の治療を行います。
- 生理食塩水輸液 200ml/時間
- 重曹100mEq 点滴静注
- ラシックス®︎ 40mg 静注
- マンニトール 25g 点滴静注
これにより、尿の排泄を促し、尿のアルカリ化を維持し、尿細管でミオグロビンが出ることを防止します。
それと同時にそれぞれの原因に合わせた治療方法が選択されます。
様々な原因があるために、薬物療法・血液浄化法・薬剤中止など・・・様々な治療が選択されます。
参考文献:最新 尿検査 その知識と病態の考え方 第2版P68〜71
参考文献:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器P16・17・20〜23
参考文献:研修医当直御法度症例集 P144-145
最後に
ミオグロビン尿についてまとめました。
- ミオグロビンは、心筋や骨格筋などの繊維筋に含まれる
- 筋肉が何らかの原因により障害や壊死に陥ると、血液中にミオグロビンが放出され、尿にも混入する
- 尿中のミオグロビン濃度が250mg/dLを超えると、尿の外観的には赤色〜暗赤褐色を呈すようになる
- ヘモグロビン尿症との鑑別が重要
- Blondheim塩析法により、ろ過された液に色がついていればミオグロビン尿
- それぞれの原因に合わせた治療方法を選択
ミオグロビン尿を放置したままでいると、急性腎不全に陥る可能性がありますので、迅速な対応が必要となります。