急性膵炎になると、発症して48時以内に適切な治療をすることが重要です。
基本的に急性膵炎の治療は、絶飲絶食により膵臓の安静を図り、十分な輸液や循環動態の維持、痛みに対する治療と感染症などの合併症の予防などが中心になります。
では、急性膵炎の予後はどうなのでしょう?
今回は急性膵炎(英語表記で「Acute pancreatitis」)について
- 予後
- 入院期間
- 完治までの期間
- 看護
をお話ししたいと思います。
急性膵炎とは?
膵液に含まれる消化酵素によって、自らの膵臓が消化されてしまった状態を急性膵炎といいます。
- 吐き気や嘔吐
- 発熱
- 食欲不振
- 膨満感
などの症状が現れます。
原因はアルコールによるものが33.5%、胆石によるものが26.9%といわれています。
アルコールが原因で起こるのは男性に多く、胆石が原因となるのは女性に多い傾向があります。
そして治療法は、冒頭でお話ししましたように、早期治療の開始と絶飲絶食・点滴・合併症の予防が中心となります。
急性膵炎の入院期間や完治までの期間は?
急性膵炎になると入院が必要となります。
その入院期間が、
- 軽症の場合、2週間前後ほど
- 重症な場合、3ヶ月弱ほど
といわれています。
軽傷と重症では、期間も大きな開きがありますが、発症後48時間以内に診断(重症度判定)、治療開始が予後にも大きく関わり、完治までの期間も左右するというわけです。
ですが重症例では予後不良となり、後遺症や再発も中にはあるということを考えると、完治とはならないこともあります。
また軽症の場合でも、一度完治したら絶対大丈夫というわけではありません。
再発しないためにも、約半年〜1年は食事制限(暴飲暴食を避ける・たんぱく質の摂取)、禁酒に注意しましょう。
そうすることによって、予後約1年後に膵臓の検査を行い、健康な膵臓の状態に戻ったと確認でき、やっと完治といえます。
つまりは、完全なる完治までは、約1年ほどかかるというわけです。
「これって急性膵炎?」と思ったら気をつけることは?
まずは、以下のような初期症状が出たら、すぐに医療機関を受診することです。
- 腹痛
- 吐き気
- 嘔吐
- 背部痛
- 下痢(軟便)
- 食欲不振
- 腹部膨満感
- 全身の倦怠感
- 黄疸
嘔吐によっても軽減しない腹痛、それはもう通常の腹痛とは異なります。
医療機関で検査をし、何度も申しますが、48時間以内に診断、治療を開始することで予後が異なるということを頭に入れましょう。
急性膵炎の診断基準
- 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
- 血中または尿中に膵酵素の上昇がある
- 超音波、CT、MRI検査で膵臓に急性膵炎に伴う異常所見がある
上記の診断基準3項目中、2項目以上を満たし、なおかつ他の膵疾患、急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断します。
(慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める)
このような症状がある場合、もし急性膵炎でなかったとしても、何らかの病気が隠れていることもあります。
急性膵炎の予後は?
軽症の場合、早期に適切な治療を行えば、予後は良好です。
しかし治療開始が遅れたり、合併症が現れた場合は、重症化し→予後の回復も遅れ→最悪の場合命に関わることもあります。
確率的に言うと、約80%は基本的な治療を早期に開始し、予後も良好で、治療後回復します。
ですが、約20%は重症化し、その中でも約10%は死亡することもあるといわれています。
では、どういったことになると、急性膵炎の重症といえるのか?
重症度判定基準
- Base Excess≦-3 mEq/L,またはショック(収縮期血圧≦80 mmHg)
- PaO2≦60 mmHg(room air),または呼吸不全
- BUN≧40 mg/dL(or Cr≧2 mg/dL),または乏尿(輸液後も 1 日尿量が 400 mL 以下)
- LDH≧基準値上限の 2 倍
- 血小板数≦10 万/mm3
- 総 Ca≦7.5 mg/dL
- CRP≧15 mg/dL
- SIRS 診断基準*における陽性項目数≧3
- 年齢≧70 歳
(2015年急性膵炎ガイドラインより)
これらは、各1点とし、合計3点以上で重症とされます。
3点以下の場合は、軽症です。
- 代謝性アシドーシスや循環不全
- 人工呼吸管理が必要
- 急性腎不全
- 組織壊死
- 凝固系異常
- 膵壊死となり、遊離した脂肪酸と結合して低下
- 急性炎症
- 全身性炎症
- 高齢者ほど予後不良
造営CT検査においても、炎症の膵外進展度、膵の造影不良域(膵頭部・膵体 部・膵尾部)を確認し、グレード2以上で重症とされます。
この検査は、発症後48時間以内に検査する必要があります。
最新の2015年急性膵炎ガイドラインで発表された、2011 年の厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班が行った全国調査での結果があります。
それによると、予後因子スコア 3未満と 3 以上の群に分けて死亡率を比較したところ、予後因子スコア 3 未満の群の死亡率は 1.4%で、予後因子スコア 3 以上の群では 18.0%という報告があります。
その他、予後因子スコアと CT グレード の両者が記載されていた重症急性膵炎 359 例について、予後因子スコアの みで重症とされた群、CT グレード のみで重症とされた群、両者とも重症の基準を満たす群に分けて死亡率を比 較した調査があります。
結果、予後因子スコアのみの群で死亡率は 7.5%、CT グレード のみの群で 4.2%で、両者とも重症基準を満たす群では 25.9%であったと確認されました。
後遺症は?
また、重症例では後遺症が残る患者さんも中にはいます。
後遺症として、膵内外分泌機能障害(糖尿病や消化吸収障害)となったり、アルコール性の急性膵炎などでは再発することもあります。
急性膵炎の看護は?
アルコールが原因の場合は、断酒し、暴飲暴食を避けるため日頃から食生活に注意する必要があります。
そのため、食事の摂り方や断酒の方法などを指導することが重要です。
また、重症化する危険性もあるため、
- 出血
- 呼吸管理(呼吸不全)
- 尿量(減少)
- 意識障害
などの特徴的な症状を見逃さないようにしましょう。
- 参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P402〜410
- 参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P233〜237
- 参考文献:内科診断学 第2版 P901〜902
- 参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P271〜902
- 参考文献:急性膵炎診療ガイドライン 2015
最後に
- 膵液に含まれる消化酵素によって、自らの膵臓が消化されてしまった状態を急性膵炎
- 約80%は早期に治療を開始し、予後良好。20%は重症化しそのうち10%は死に至ることも
- 急性膵炎治療後も、予後の管理が重要で、後遺症や再発がなく、健康な膵臓となるまで約1年かかる
- 急性膵炎を疑う症状がある場合は、48時間以内に検査、診断、治療を開始することが大切
急性膵炎の予後も、それまでと変わらない生活を送っていれば(暴飲暴食、飲酒)、再発は必然です。
慢性化し慢性膵炎を繰り返せば消化吸収も不十分となります。
それどころか、膵臓の他に肝臓や神経にも影響をきたし、確実に命を縮めてしまうことにもつながるでしょう。
つまり、急性膵炎となったら、それまでの生活を見直さなければ、長生きは望めないということです。これには自覚が大切です。
体が悲鳴をあげ、知らせてくれたと考え、予後注意して生活するようにしましょう。