神経膠腫(グリオーマ)は、グレードⅠ~Ⅳの4段階の悪性度に分類されますが、今回はその中でグレードⅠに値する最も悪性度の低い毛様細胞性星細胞腫(読み方は、「もうようさいぼうせいせいさいぼうしゅ」、英語ではPilocystic astrocytoma)について
- 症状
- 画像診断
- 治療法
を実際の画像を見ながらわかりやすくまとめました。
毛様細胞性星細胞腫(Pilocystic astrocytoma)とは?
アストロサイトまたはその前駆細胞から発生する腫瘍の中でも最も良性でグレードⅠの脳腫瘍です。浸潤傾向も弱く、悪性転化は非常に稀です。
- 膠芽腫について詳しくはこちらをご覧下さい。→膠芽腫とは?症状、画像診断、治療法にわかりやすいまとめ!
- びまん性星細胞腫について詳しくはこちらをご覧ください。→びまん性星細胞腫の症状と原因、治療法のまとめ
好発部位は?
小児期~思春期の若い世代に多く発生します。特に、小児の神経膠腫としては最多です。
また、脳の中でも
- 視神経
- 視交叉
- 小脳半球
によく発生します。稀に大脳半球、小脳橋角部、脊髄に生じることもあります。
参考)小脳半球・第4脳室、第3脳室周辺部にできる腫瘍(小児の場合)
小脳半球にできる腫瘍としては、特に小児の場合、
- 星細胞腫⬅︎今回はこれ
- 髄芽腫
- 上衣腫
の頻度が高いと言われています。
毛様細胞性星細胞腫の症状は?
視神経・視交叉、小脳半球、大脳半球、それぞれ腫瘍が発生した部位により現れる症状が異なります。
視神経・視交叉
視神経・視交叉が障害された症状として
- 視力障害
- 視野障害
- 眼球突出
小脳半球
小脳半球が障害された症状として
- 小脳性運動失調
- 頭蓋内圧亢進症状
- 頭痛
- 嘔吐
大脳半球
大脳半球に発生した場合の症状として
- 頭痛
- 嘔吐
- うっ血乳頭
- 痙攣
- 片麻痺
などが現れることもあります。
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毛様細胞性星細胞腫は髄膜播種をきたすことがある!
WHO分類では最も悪性度の低いグレードⅠに位置する毛様細胞性星細胞腫ですが、これらの低悪性度のグリオーマでも5%程度に髄膜播種を生じることが知られています。
毛様細胞性星細胞腫で髄膜播種を来す危険因子としては,
- 局在が視交叉や視床下部である。
- 神経線維腫症1型
- 生検も しくは部分切除後
の3つが報告されています。
毛様細胞性星細胞腫の診断は?
CTやMRI検査などによって画像診断を行います。
腫瘍が発生する部位により、特徴が異なります。境界が明瞭な嚢胞の一部に充実性の壁在結節を持つ腫瘤が確認出来ます。また、通常周囲の浮腫は軽微です。壁在結節はよく造影されるものの、嚢胞壁は増強効果を認めないことが多くあります。
CT検査では、境界鮮明で腫瘍は等~若干高吸収域で通常強く造影されます。MRI検査では、腫瘍実質はT1強調像で等~若干低信号域を認め、T2強調像では高信号を示し、境界鮮明で著明に増強されます。
ほとんどの場合は、画像検査のみで確定診断が可能ですが、診断がはっきり出来ない場合、生検術を行います。
症例:20代女性 頭部MRI
T2強調像
左の画像:小脳半球正中から左側にT2強調像で高信号を示す嚢胞性病変を認めています。その嚢胞性腫瘤により、第4脳室が圧排されているのがわかります。
右の画像:両側の側脳室下角の開大を認めています。20歳代にしては開きすぎで、水頭症を疑う所見です。腫瘤により脳室が圧排され、閉塞性水頭症を生じていることが考えられます。
造影T1強調像
造影MRIで嚢胞+壁在結節のパターンを示し、壁在結節に造影効果を認めています。これらは典型的な毛様細胞性星細胞腫を疑う所見です。
毛様細胞性星細胞腫の治療法は?
- 外科的手術が第一選択
手術で腫瘍摘出を目標にします。他の星状膠細胞系腫瘍とは異なり、全摘出すれば根治は可能です。
化学療法
腫瘍が手術で摘出出来ない場所にあった場合、化学療法を行うことがあります。また、化学療法を行った後に、摘出手術を行う場合もあります。
化学療法薬としては
- シスプラチン
- ビンクリスチン
- カルボプラチン
などがよく用いられ、これらを併用することもあります。しかし、化学療法だけでは根治することは稀ですが、中には思春期になると自然と治ってしまうこともあります。
放射線療法
また、小児の場合、子供の成長を待って放射線療法を行うこともあります。
最後に
- 神経膠腫の中でグレードⅠの最も良性の脳腫瘍
- 20歳以下に好発、小児の新傾膠腫としては最多
- 視神経・視交叉・小脳半球に好発し、発生する部位により症状が異なる
- 画像診断で腫瘍が認められる
- 手術で腫瘍摘出すれば根治が望める
全て腫瘍を摘出してしまえば治るものですが、問題は腫瘍がある位置です。一度手術を開始して、手術が不可能だったということは予後に関わってくるので、検査の段階で正確な診断が重要で、手術を行う時期や方法を見極める必要があります。