ミトコンドリアDNAの異常が原因で起こるミトコンドリア病という病気があります。ミトコンドリア病の中には、CPEO、 MELAS(読み方はメラス)、MERRF(読み方はマーフ)の3つが有名であり、代表的です。中でもMELASが最多です。
MELASとは、mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes
の頭文字をとったものです。日本語では、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)と言います。
今回はこのミトコンドリア脳筋症(MELAS)について
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明します。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)とは?
ミトコンドリアDNAの異常により中枢神経症状や筋症状など様々な症状が出る疾患で、別名ミトコンドリア病とも呼ばれます。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)の症状は?
リボ核酸、リン脂質からなり、酸素を利用して、たんぱく質を合成し、自己増殖します。
細胞エネルギー(ATP)産生にも密接な関係を持つと言われています。
また、核DNAとは異なる独自のミトコンドリアDNAを持っています。
- 低身長
- 筋力低下
- 知能低下
- 発達の遅れ
- 痙攣
- 嘔吐
- 頭痛
- 眼瞼下垂
- 精神症状
- 感音性難聴
- 一過性の片麻痺
- 視力障害
- 糖尿病
- 心筋症
- てんかん
など中枢神経症状や筋症状が見られます。
エネルギーが必要な脳や筋に障害が起こるため、このような症状が現れるのです。
好発年齢は5~15歳ですが、成人発症もあります。
ミトコンドリアは遺伝が原因ですが、母から子に遺伝する母系遺伝です。
この遺伝子異常により、筋肉のエネルギー源である脂肪代謝の役割を担うミトコンドリアが正常機能をしなくなることで起こります。
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ミトコンドリア脳筋症の診断は?
- 筋生検
- CT/MRI検査
- 遺伝子検査
で検査し、診断確定となります。
筋生検
筋繊維の周辺部にミトコンドリアが多数集積していることが分かります。
HE染色では好塩基性(青紫)に染まります。
ゴモリ・トリクローム変法では赤みを帯びひび割れて見えるために赤色ぼろ繊維(ragged-red fibers)と呼ばれます。
症例:35歳女性
歩行時の疲れや、筋力低下により手すりなしでは階段を上れないことを訴え来院。脳脊髄液所見に異常は認められない。
左上腕二頭筋生検のH-E染色体標本にて以下のような赤色ぼろ繊維を示す。
(出典:医師国家試験108D45)
CT/MRI検査
脳卒中のような症状が出るミトコンドリア脳筋症では、頭部CTやMRIの画像診断を行うと、脳梗塞類似病変が確認できます。
ただし、脳梗塞とは異なり血管支配域には一致せず、局部的に血流が増えていることを確認できる場合もあります。
症例:4歳女児
痙攣発作を訴え来院。3歳児検診で言葉の遅れを指摘されている。保育園でお昼寝中に意識障害や痙攣経験あり。
(出典:医師国家試験過去問データベース100A47)
頭部単純MRIのT2強調像にて左の後頭葉に浮腫性変化を認めています。
脳梗塞のような所見ですが。他の検査所見などと合わせてミトコンドリア脳筋症と診断。
症例 20 歳代女性 低身長。中学生の頃から頭痛,嘔吐の発作が頻発。
高校在学中には視力低下や聴力低下が指摘され,学力も徐々に低下し中退した.その後も身の回りのこと程度しかできなくなった.脳 MRA,心電図,心エコーは異常なかったが,髄液検査では乳酸が高値を示した.この患者の IMP による安静時脳血流 SPECT および脳 MRI (FLAIR) を示す。
10回核医学専門医試験問題45より引用。
MRI画像では右側頭葉後部、後頭葉、頭頂葉、前頭葉に梗塞様病変を認めています。
また年齢を考慮すると大脳半球の萎縮を認めています。
脳血流シンチグラフィでは、右優位に頭頂葉、後頭葉、側頭葉の血流低下を認めています。
他の臨床所見と合わせてミトコンドリア脳筋症(MELAS)を疑う所見です。
遺伝子検査
遺伝子検査では、血液ではなく筋組織で行います。
また、針筋電図で筋原性変化を行ったり、血液・脳脊髄液検査で乳酸高値、乳酸ビリルビン酸比高値であることを確認します。
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ミトコンドリア脳筋症の治療法は?
根本的な治療法はありません。
治療は基本的に、各臓器の症状に対して対処療法が行われます。
また、ミトコンドリアの機能改善目的のため
- 水溶性ビタミン類(ナイアシン、B1、B2)
- コエンザイムQ10
- アルギニン
- タウリン
- ピルビン酸
などが使われます。
予後は合併症内容や進行の程度によって異なります。
最後に
- ミトコンドリア脳筋症は中枢神経症状や筋症状が見られる
- ミトコンドリアの母系遺伝が原因
- ミトコンドリアは筋肉のエネルギー源である脂肪代謝の役割を担う
- 筋生検、画像診断、遺伝子検査で診断を行う
- 根本的治療はなく、対処療法が一般的
根本的な治療が確立されていないため、少しでも症状を遅らせるしか方法がありません。
なので、症状が悪化する前に、少しでも早くから対処療法を行う必要があります。