健康診断や人間ドックでバリウム検査を受けるとき、「検査前に注射をします」と言われて不安になる人は少なくない。

「この注射は何のためなのか」「必ず打たないといけないのか」「副作用はあるのか」「拒否してもよいのか」と疑問に思う人もいるだろう。

結論からいうと、バリウム検査前の注射は、胃や腸の動きを一時的に抑え、胃を見やすくするために使われることが多い。

代表的には、ブスコパンと呼ばれる鎮痙薬が使われることがある。胃や腸の動きが強いと、胃の形や粘膜の凹凸が見えにくくなるため、検査前に胃腸の動きを抑える目的で注射される。

ただし、すべての人に必ず必要な注射ではない。緑内障、前立腺肥大による排尿障害、心臓病、不整脈、麻痺性イレウスなどがある場合には、ブスコパンが使えないことがある。

また、副作用として、口の渇き、目のかすみ、動悸、尿が出にくい、めまい、眠気などが起こることがある。まれにアレルギー症状が問題になることもある。

この記事のポイント

  • バリウム検査前の注射は、胃腸の動きを抑えて見やすくするために使われる。
  • 代表的な薬はブスコパンで、鎮痙薬と呼ばれる。
  • 緑内障、前立腺肥大による排尿障害、重い心疾患、麻痺性イレウスなどでは使えないことがある。
  • 副作用として、口渇、目のかすみ、動悸、尿が出にくい、めまいなどがある。
  • 注射が不安な場合や持病がある場合は、検査前に必ず申告するべきである。

バリウム検査前の注射とは何か

バリウム検査前の注射とは、胃や腸の動きを一時的に抑えるために使われる薬である。

胃は常に少しずつ動いている。これを蠕動運動という。胃の動きが強いと、バリウムを飲んだあとに胃の形や粘膜の細かい凹凸を観察しにくくなることがある。

そのため、胃部X線検査では、必要に応じて胃腸の動きを抑える注射を行う。代表的な薬がブチルスコポラミン臭化物、商品名ではブスコパンである。

ブスコパン注の添付文書では、効能・効果として「消化管のX線及び内視鏡検査の前処置」が記載されている。

つまり、バリウム検査前の注射は、痛み止めや麻酔ではなく、胃腸の動きを抑えるための前処置である。

なぜバリウム検査前に注射をするのか

バリウム検査前に注射をする理由は、胃の動きを抑えて、胃の中を観察しやすくするためである。

バリウム検査では、発泡剤で胃を膨らませ、硫酸バリウムを飲んで、胃の壁にバリウムを付着させる。検査台の上で体の向きを変えながら、胃の形、粘膜の凹凸、潰瘍、ポリープ、腫瘍を疑う変化などを確認する。

しかし、検査中に胃が動くと、バリウムが流れてしまったり、胃のひだが見えにくくなったりすることがある。

注射を使う目的

  • 胃の蠕動運動を抑える。
  • バリウムを胃壁に付着させやすくする。
  • 胃の形や粘膜を観察しやすくする。
  • 撮影中のブレや見えにくさを減らす。
  • 検査精度を保つ。

注射は、バリウムを飲みやすくするためではなく、画像を見やすくするために使われる薬である。

バリウム検査前によく使われるブスコパンとは

ブスコパンとは、胃や腸のけいれんや動きを抑える鎮痙薬である。

正式にはブチルスコポラミン臭化物と呼ばれる。抗コリン作用により、消化管の平滑筋の動きを抑える。

バリウム検査では、胃の動きを止める目的で使われることがある。注射は筋肉内、静脈内、皮下などで投与されることがあるが、実際の方法は施設の方針によって異なる。

項目 内容
一般名 ブチルスコポラミン臭化物
代表的な商品名 ブスコパン注
薬の分類 鎮痙薬、抗コリン薬
主な目的 胃腸の動きを一時的に抑える
検査での用途 消化管X線検査や内視鏡検査の前処置

ブスコパンは胃腸の動きを抑えるには有用な薬であるが、使えない人や注意が必要な人がいる。

ブスコパン注射の副作用

ブスコパン注射では、口の渇き、目のかすみ、動悸、めまい、眠気、尿が出にくいなどの副作用が起こることがある。

ブスコパンは抗コリン作用を持つ薬である。抗コリン作用とは、体の中の副交感神経の働きを抑える作用である。この作用により胃腸の動きは抑えられるが、同時に口渇、散瞳、排尿障害、動悸などが起こることがある。

副作用 症状の例
口渇 口が渇く、喉が渇く
眼の症状 目がかすむ、まぶしい、ピントが合いにくい
循環器症状 動悸、脈が速い感じ
泌尿器症状 尿が出にくい
精神神経症状 めまい、眠気、頭痛、頭重感
アレルギー症状 発疹、蕁麻疹、息苦しさ、顔の腫れなど

検査後に目のかすみ、めまい、眠気がある場合は、車の運転や危険作業を避けるべきである。

ブスコパンを使えない人

ブスコパンは、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害、重篤な心疾患、麻痺性イレウスなどがある人には使えないことがある。

これは、ブスコパンの抗コリン作用により、眼圧上昇、排尿困難、心拍数増加、腸管運動低下などが悪化するおそれがあるためである。

ブスコパンを使えない、または注意が必要な代表例

  • 閉塞隅角緑内障がある。
  • 前立腺肥大による排尿障害がある。
  • 重い心臓病がある。
  • 不整脈がある。
  • 麻痺性イレウスがある。
  • 潰瘍性大腸炎がある。
  • 甲状腺機能亢進症がある。
  • 過去にブスコパンでアレルギーが出た。

緑内障や前立腺肥大は、本人が「検査に関係ない」と思って申告しないことがある。しかし、バリウム検査前の注射では重要な情報である。

緑内障がある人はなぜ注意が必要か

緑内障、特に閉塞隅角緑内障がある人では、ブスコパンにより眼圧が上がり、症状が悪化する可能性がある。

ブスコパンの抗コリン作用により瞳孔が開きやすくなる。閉塞隅角緑内障では、眼の中の水の流れが悪くなり、急に眼圧が上がる危険がある。

急性緑内障発作では、目の痛み、頭痛、吐き気、視力低下、光の周りに虹のような輪が見えるなどの症状が出ることがある。

緑内障と診断されている人は、開放隅角か閉塞隅角かを自分で判断せず、検査前に必ず申告するべきである。

前立腺肥大がある人はなぜ注意が必要か

前立腺肥大による排尿障害がある人では、ブスコパンにより尿が出にくくなることがある。

抗コリン薬は膀胱の働きにも影響する。そのため、もともと尿が出にくい人では、検査後にさらに排尿しにくくなる可能性がある。

特に、前立腺肥大で治療中の男性、尿の勢いが弱い人、残尿感が強い人、過去に尿閉を起こしたことがある人は注意が必要である。

前立腺肥大で伝えるべき症状

  • 尿が出にくい。
  • 尿の勢いが弱い。
  • 残尿感がある。
  • 夜間頻尿がある。
  • 過去に尿が出なくなったことがある。
  • 前立腺肥大の薬を飲んでいる。

前立腺肥大がある人では、ブスコパンを避け、別の方法を検討することがある。

心臓病や不整脈がある人の注意点

心臓病や不整脈がある人では、ブスコパンにより心拍数が増え、動悸が出ることがある。

ブスコパンの抗コリン作用は、心拍数に影響することがある。健康な人では一時的な動悸で済む場合もあるが、重い心疾患や不整脈がある人では注意が必要である。

特に、狭心症、心不全、不整脈で治療中の人、ペースメーカーが入っている人、動悸を起こしやすい人は、検査前に申告する。

バリウム検査前の注射は短時間の前処置であるが、心臓病のある人では軽視してはいけない。

ブスコパンが使えない場合の代替薬

ブスコパンが使えない場合、グルカゴンなど別の薬が使われることがある。

グルカゴンは血糖を上げる作用を持つホルモンであるが、消化管の動きを抑える作用もあり、消化管X線検査や内視鏡検査の前処置に用いられることがある。

ただし、グルカゴンにも注意点がある。褐色細胞腫やパラガングリオーマがある人、または疑いがある人では禁忌とされる。また、糖尿病、インスリノーマ、肝疾患などでは注意が必要になる場合がある。

薬剤 目的 主な注意点
ブスコパン 胃腸の動きを抑える 緑内障、前立腺肥大、心疾患、麻痺性イレウスなどに注意
グルカゴン 胃腸の動きを抑える代替薬として使われることがある 褐色細胞腫、パラガングリオーマ、糖尿病などに注意
注射なし 薬を使わずに検査する 胃の動きにより見えにくくなる可能性がある

ブスコパンが使えないから検査が必ずできないわけではない。代替薬や注射なしでの検査が検討されることがある。

バリウム検査前の注射は拒否できるか

バリウム検査前の注射は、本人が希望しない場合、拒否することは可能である。

ただし、注射をしないことで、胃の動きが強く、検査画像が見えにくくなる可能性がある。結果として、十分な評価ができない、再検査が必要になる、精密検査をすすめられる可能性がある。

そのため、単に「怖いから拒否する」というより、持病や副作用への不安を伝えたうえで、注射なしで可能か、代替薬があるか、胃カメラに変更できるかを相談するのがよい。

拒否したい場合の伝え方

  • 緑内障があるため、注射をしてよいか不安です。
  • 前立腺肥大で尿が出にくいため、ブスコパンを避けたいです。
  • 以前、注射後に動悸や目のかすみが出ました。
  • 注射なしで検査できるか相談したいです。
  • 代替薬や胃カメラへの変更が可能か教えてください。

注射の拒否は可能だが、検査精度への影響を理解したうえで判断する必要がある。

注射を拒否したらバリウム検査はできないのか

注射を拒否しても、必ずバリウム検査ができないわけではない。

施設によっては、注射なしで胃部X線検査を行うことがある。特に、禁忌や副作用リスクがある人では、薬を使わずに検査する方が安全と判断される場合もある。

一方で、胃の動きが強い場合、観察しにくくなる可能性がある。そのため、検査結果に「胃蠕動が強い」「描出不良」などの影響が出ることもある。

注射なしで検査するかどうかは、検査施設の方針、本人の状態、検査目的によって決まる。

注射が痛いのが不安な場合

バリウム検査前の注射は、筋肉注射として行われることがあり、その場合は痛みを感じることがある。

注射の痛みは短時間で終わることが多いが、筋肉注射では接種部位の痛み、違和感、内出血が残ることがある。

痛みに不安が強い場合は、検査前に伝えるとよい。施設によっては、注射の必要性を再確認したり、注射なしで行うか判断したりする。

痛みが不安なだけでなく、過去に注射で気分不快や迷走神経反射を起こしたことがある場合も、事前に伝えるべきである。

検査後に車を運転してよいか

ブスコパン注射後に目のかすみ、眠気、めまいなどがある場合は、車の運転を避けるべきである。

ブスコパン注の添付文書では、眼の調節障害、眠気、めまい等を起こすことがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械操作に従事させないよう注意することが記載されている。

検査後に視界がぼやける、まぶしい、頭がぼんやりする、ふらつく場合は、無理に運転して帰らない方がよい。

運転を避けた方がよい症状

  • 目がかすむ。
  • ピントが合いにくい。
  • まぶしく感じる。
  • 眠気がある。
  • めまいがある。
  • 動悸や気分不快がある。

検査後に車で帰る予定がある人は、注射の有無と注意点を事前に確認しておくべきである。

検査前に必ず伝えるべきこと

バリウム検査前の注射を安全に使うためには、持病と内服薬を正確に伝える必要がある。

特に、緑内障、前立腺肥大、心臓病、不整脈、甲状腺機能亢進症、潰瘍性大腸炎、麻痺性イレウス、薬剤アレルギーの既往は重要である。

伝えるべきこと 理由
緑内障 眼圧上昇のリスクがあるため。
前立腺肥大・排尿障害 尿が出にくくなる可能性があるため。
心臓病・不整脈 心拍数増加や動悸に注意が必要なため。
甲状腺機能亢進症 心拍数増加に注意が必要なため。
潰瘍性大腸炎 中毒性巨大結腸などに注意が必要なため。
薬剤アレルギー 過敏症やアナフィラキシーの予防のため。

問診票に書くだけでなく、不安がある場合は検査前に口頭でも伝えるとよい。

注射後に受診すべき症状

バリウム検査前の注射後に強い症状が出た場合は、検査施設または医療機関へ相談するべきである。

多くの副作用は一時的だが、アレルギー症状や強い動悸、排尿困難、目の強い痛みなどがある場合は注意が必要である。

医療機関へ相談すべき症状

  • 蕁麻疹、全身のかゆみ、発疹がある。
  • 息苦しい。
  • 顔や唇、喉が腫れる。
  • 強い動悸が続く。
  • 尿が出ない。
  • 目の強い痛み、頭痛、吐き気、視力低下がある。
  • めまいやふらつきが強い。
  • 意識がぼんやりする。

特に、息苦しさ、顔や喉の腫れ、冷や汗、意識がぼんやりする症状は、アナフィラキシーなど緊急性のある反応の可能性がある。

バリウム検査自体を断る選択肢

注射が不安でバリウム検査自体を受けたくない場合は、胃カメラなどの代替検査を相談できる。

バリウム検査は胃を調べる方法の一つであるが、胃の検査には胃カメラもある。胃カメラでは食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察でき、必要に応じて生検もできる。

ただし、胃カメラにも、のどの違和感、鎮静剤の有無、運転制限、費用、予約枠などの問題がある。

「注射が怖いから検査をしない」ではなく、「自分に合う胃の検査方法を選ぶ」ことが重要である。

よくある質問

バリウム検査前の注射は何のためですか?

胃や腸の動きを一時的に抑え、胃を見やすくするためである。痛み止めや麻酔ではなく、検査画像を見やすくするための前処置である。

バリウム検査前の注射は必ず必要ですか?

必ず必要とは限らない。施設の方針や本人の状態によって、注射を使う場合と使わない場合がある。

ブスコパン注射は拒否できますか?

本人が希望しない場合、拒否することは可能である。ただし、胃の動きが強くなり、検査画像が見えにくくなる可能性があるため、検査施設と相談して判断する。

緑内障がある場合、注射しても大丈夫ですか?

緑内障、とくに閉塞隅角緑内障では注意が必要である。緑内障の種類を自己判断せず、必ず検査前に申告する。

前立腺肥大がある場合はどうすればよいですか?

前立腺肥大による排尿障害がある場合、ブスコパンで尿が出にくくなることがある。検査前に必ず伝えるべきである。

注射後に目がかすむのは普通ですか?

ブスコパンの副作用で目の調節障害や散瞳が起こることがある。目がかすむ、まぶしい、めまいがある場合は、車の運転を避けるべきである。

まとめ

バリウム検査前の注射は、胃や腸の動きを一時的に抑え、胃を見やすくするために行われる前処置である。

代表的な薬はブスコパンであり、消化管X線検査や内視鏡検査の前処置に用いられる。胃腸の動きを抑えることで、バリウム検査で胃の形や粘膜を観察しやすくする。

一方で、ブスコパンには口渇、目のかすみ、動悸、尿が出にくい、めまい、眠気などの副作用がある。また、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害、重い心疾患、麻痺性イレウスなどでは使えないことがある。

注射が不安な場合や、持病がある場合は、検査前に必ず申告するべきである。必要に応じて、注射なし、代替薬、胃カメラなどが検討されることがある。

バリウム検査前の注射は拒否できるが、検査精度に影響する可能性がある。拒否する場合は、理由を伝えたうえで、検査施設と相談して判断することが重要である。

関連記事

出典

  • PMDA. ブスコパン注20mg 電子添文.
  • PMDA. グルカゴンGノボ注射用1mg 電子添文.
  • 日本消化器がん検診学会. 胃がん検診に関する情報.