高齢者の認知症といえば、アルツハイマー型認知症が最多となります。
しかし、高齢者だけでなく、若年発症もあり
- 64歳以下で発症した場合を、アルツハイマー病
- 65歳以上で発症した場合を、アルツハイマー型老年認知症
と呼び分けますが、これらを総称して「アルツハイマー型認知症」といいます。
誰にも起こる可能性のあるものだからこそ、
「どんな症状が出るのか?」
「介護はどうするのか?」
など、気になってきます。
そこで今回は、アルツハイマー型認知症(英語表記で「Alzheimer’s type dementia」)の症状と看護のポイントを、進行別に解説したいと思います。
本人の心得、家族の心得として、参考にして頂けたらと思います。
そもそもアルツハイマー型認知症とは?
- 脳内でのβアミロイド蛋白(神経毒性をもつ蛋白)の過剰な蓄積
- 加齢
- 体質
- ストレス
- 環境
- 知的活動の減少
など様々な原因(要因)となり、大脳皮質や海馬を中心に多数の老人斑と神経原線維変化が見られ、神経細胞が減少して脳が萎縮し、様々な認知機能障害を招く疾患です。
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アルツハイマー型認知症の症状は?
症状には、必ず発生するものとそうでないものがあります。
必ず発生する症状
- 記憶障害
- 実行機能障害
- 失行
- 失認
- 見当識障害
- 言語に関する障害
などが出現し、今まで出来ていたことが出来なくなります。
必ずではない症状
前期の症状によるゆがんだ外界認知に、性格・素質・環境・心理的状況などが複合的に作用して起こります。
症状としては
- 不安
- 抑うつ
- 自閉
- 幻覚
- 妄想
- 食行動異常
- 迷子
- 徘徊
- 失禁
- 不潔行為
- 暴言
- 暴力行為
など、様々な問題行動が起こり、周りの人が対応に苦しみ、本人の苦痛も大きくなります。
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アルツハイマー型認知症で見られる記憶の障害は?
記憶の程度もそれぞれ異なります。
記憶の持続時間による分類
- 即時記憶:今、言った事をおうむ返しにいう時の記憶→軽度では保たれているが、中度になると障害される
- 近時記憶:数分前から数日前の記憶→軽度で最初に障害が起こる
- 遠隔記憶:昔の思い出→中程度になると、新しい記憶から障害されてくる
長期記憶の種類による分類
- 陣述記憶:エピソード記憶→最初に障害される・意味記憶
- 非陣述記憶:技の記憶は保持されることが多い
アルツハイマー型認知症の見当識障害とは?
自分が生きている時間や場所、人との関係が曖昧になることを、見当識障害と言います。
進行過程としては、
時間→場所→人→の順で曖昧になってきます。
- 時間=軽度の時期から細かい時間単位(時間・日・曜日)が曖昧になり、中程度では季節、年の単位の感覚が障害される
- 場所=中程度になると、自分がどこにいるのかが曖昧になる
- 人=重度に近くなると人との関係がわからなくなり、精神面での不安も大きくなる
関連記事)認知症とは?症状は?検査は?
アルツハイマー認知症の実行機能障害と失行とは?
実行機能障害
ある目的のために、単純行動を順序だてて実行する高度な知的機能に障害が起こること→前頭前野の機能障害により生じます。
失行
運動障害をもたらす器質的な病変がないのに、行動が正しく行われないものを言います。
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アルツハイマー認知症の症状別介護は?
アルツハイマー認知症は、スロープを降りるようにゆっくり進行します。
この進行の速度に個人差はありますが、遅い人が急に早くなる事は無いとされています。
軽度の段階での症状とケア
症状と問題点
- 近時記憶の障害→1部は記憶に残り、即時記憶と遠隔記憶が保持される。
- 細かい時間の見当障害が起こる
- 非日常的なことに対応する能力が低下する
- 総合的判断や危険管理能力が落ちる
- 不安や混乱が生じる
- とられ妄想が起こる
介護の要点
- 家族への教育支援
- 安全の確保→火のもと・薬の管理・セールスや勧誘・合併症への対応
- 精神面でののケア→尊厳・カウンセリング・継続的相談など
- 家族支援→家族の相談・介護者の会を紹介など
- 将来を考える機会→生き方の理解・事前指定・任意後見制度など
本人の口から言えるのはこの時期のみです。
この初期の段階では、ハッと正常に戻ることもあるため、その際に自己嫌悪に陥る患者の気持ちと向き合うことも重要になります。
中等度の段階での症状とケア
この時期、認知障害が進行し、生活の多くに援助が必要となるり、介護の負担も急増します。
症状と問題点
- 記憶障害の進行→即時記憶、遠隔記憶も障害を起こす
- 見当識障害の進行し混乱が大きくなる
- 生活行為が複雑な行為から出来なくなり、最終的にはほとんど援助が必要となる
- 行動心理徴候が頻発に起こる
- 1人で暮らすことが困難となる
- 身体合併症が起こりやすい
- 介護者への負担が大幅に増す
ケアの要点
- 患者の療養する場所の決定→ケア付き住まいなど
- 家族へのサポートの継続→相談・体調管理・ストレス軽減など
- 行動心理徴候の対応
- 合併症予防・突然死の防止
- 精神面のケア・役割・自律支援など
重度の段階での症状とケア
この時期になると、意味のある会話は不可能となり、身体合併症が頻発するようになります。
症状と問題点
- 単純な行為も出来ず、生活全般に介助が必要となる
- 意味のあるコミュニケーションが全く出来なくなる
- 精神的介護から身体的介護に移行する
- 苦痛や体の変化が伝えられなくなる
- 排泄→尿、便失禁-歩行障害障害の順に身体症状が現れる
- 感染症などの身体合併が頻発に起こるようになる
- 嚥下反射がなくなり、経口摂取が不可能となることで、末期と判断される
ケアの要点
- 介護形態を変える必要=通所→訪問
- 診療形態を変える必要=外来→訪問
- 合併症の管理→感染、転落など
- 意思決定支援=療養の場、緩和ケア、延命治療方針など
- 苦痛評価・症状緩和=呼吸苦、嚥下障害、発熱など
- 延命治療の選択=経管栄養、点滴など
アルツハイマー型認知症、患者の心理状況は?
- 不安感
- もどかしさ
- 自発性低下・うつ
- 混乱
- 被害感
この様に、大変なストレスを抱える事になりますので、以下の様な生活環境を保つようにして下さい。
- 尊厳が保たれる環境
- 役割が保たれ、人と関れる環境
- 安心して人に頼れる環境
- 穏やかな環境→多すぎないない光と音、そして人への配慮
- 安全に配慮された環境
- 規則正しい生活
→生活のリズムを整える
→午前中は活動的に過ごし、午後3時以降は穏やかに過ごすようにする - 午前中に太陽の光を浴びる習慣をつける
- 安楽に暮せる環境
参考文献:
病気がみえる vol.7:脳・神経 P344〜346
全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P174〜176
最後に
- アルツハイマー型認知症とは、脳の細胞が脱落する事が直接の原因で起こる
- 主な症状として、記憶障害・実行機能障害・失行・失認・見当識障害・言語に関する障害がある
- 生活上での問題として、今まで出来ていたことが出来なくなる
- 他に、不安・抑うつ・自閉・幻覚・妄想・食行動異常・迷子・徘徊・失禁・不潔行為・暴言・暴力行為などが起こる場合もある
- 見当識障害とは、自分が生きている時間や場所、人との関係が曖昧になることをと言う
- 失行とは、運動障害をもたらす器質的な病変がないのに行動が正しく行われないものを言う
- 病気の段階別に症状や問題点を理解し、患者と家族へのケアを進める事も重要
- 患者の精神状態を把握し、ストレスのない安心できる生活環境を整える事も大切
このようになると、症状の進行・経過を知ることは怖くも感じますが、介護する側、患者本人の心構えともなります。
初期のうちに、今後の介護体制を考えておくことで慌てず済みます。