吐血や下血があると、「何じゃこりゃ!」と慌てて恐怖を感じることが多くあるかと思いますが、嘔吐後の吐血では、消化器の疾患であるマロリー ワイス 症候群の可能性もあります。
しかし、聞きなれないこの病名、今回はマロリー ワイス 症候群(英語表記でMallory-Weiss)について
- 症状
- 原因
- 治療法
を分かりやすくご説明致します。
マロリー ワイス 症候群とは?
反復する悪心や激しい嘔吐や結果、食道胃接合部付近に粘膜下層までの裂創が生じるために、粘膜下の血管が破れて吐血する病態をマロリーワイス症候群と言います。
どのような症状が現れる?
- 嘔吐
- 悪心
- 心窩部痛(しんかぶつう)
- 吐血
- 下血
激しい嘔吐や、悪心を繰り返すことにより、急激に腹圧が上昇し、食道胃接合部の近くの粘膜に浅い裂創が生じ、そこから出血が起こるために、鮮血の混じった吐血や稀に下血といった症状が現れます。
胸痛や腹痛は基本起こりませんが、心窩部痛といってみぞおちあたりが痛むことがあります。また、立ちくらみや目眩といった症状が現れることもあります。
激しい胸痛を伴う場合は、特発性食道破裂(英語名でBoerhaave症候群)の可能性があります。
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マロリーワイス症候群の原因は?
- 過度のアルコール摂取
- 妊娠中の悪阻
- 食中毒
- 乗り物酔い
- 過食
- 摂食障害
- ピロリ菌による消化性潰瘍
- 抗がん剤
- 内視鏡検査
代表的なのは、過度のアルコール摂取や悪阻などが原因となりますが、その他にも上記のような激しい嘔吐を誘発することが原因となります。
どのような検査で診断される?
- 内視鏡検査
- 血液検査
内視鏡検査(胃カメラ)を行い、食道胃接合部付近の粘膜に縦走する裂創(傷の位置や深さ、大きさや出血)を確認出来ます。また、血液検査を行うと、吐血(下血)のために貧血を認めます。
しかし、妊娠中の場合、この内視鏡検査で使用される鎮静剤が胎児にも影響があるため、通常おすすめできません。そのため、症状からマロリーワイス症候群を疑うことになります。
妊娠中の内視鏡検査について詳しくはこちらをご覧下さい。→胃カメラの鎮静剤に副作用はある?妊娠中や授乳中の使用は?
症例:23歳男性
多量の飲酒後、胃液を嘔吐後、吐血を伴い受診。
(出典:医師国家試験106I68より)
食道内視鏡により裂創、出血を認めており、マロリーワイス症候群と診断されました。
マロリーワイス症候群の治療法は?
ほとんどは保存的治療で、自然治癒します(99%)。保存的治療では、
- 絶食
- 補液
- 酸分泌抑制薬
- 止血薬
- 粘膜保護薬
などで、自然治癒を待ちます。また、潰瘍の治療薬として、胃酸の分泌を抑える薬を服用します。
- H2ブロッカー(ヒスタミン受容体拮抗剤)
- PPI(プロトポンプ阻害薬)
妊娠中の場合、胎児に影響が出る可能性も考慮し、基本的には脱水症状予防の点滴のみで安静にし、自然治癒を待ちます。
また、摂食障害が原因の場合は、マロリーワイス症候群の治療を行っても、摂食障害が治っていなければ、再び繰り返すことになります。つまり、同時に摂食障害の治療も必要になります。
治療後の食事の注意
また、マロリーワイス症候群が回復した後も、食事の面で以下のことに注意します。
- 消化の悪いものは控える
- 熱いものを控える
- 辛いものを控える
- 酸っぱいものを控える
- 脂っこいものを控える
- アルコール摂取を控える
- 食べ過ぎを控える(腹八分目)
- 食後すぐに横にならない
繊維の多い野菜や柑橘類も嘔吐を誘発します。ホットミルクによって胃粘膜に膜を作り、少し楽になったという口コミもあります。
内視鏡的止血術
- クリッピング
- アルゴンプラズマ凝固法(英語表記で「Argon plasma coagulation」略語で「APC」)
- 止血鉗子
- 高張Na
- エピネフリン局注
小型のクリップによって、血管や周辺粘膜を結束し止血するクリッピングを行ったり、血管を電気焼灼するアルゴンプラズマ凝固法を行います。また、鉗子により止血したり、止血効果のある薬剤を注入したりします。
最後に
- 反復する悪心や激しい嘔吐により、食道胃接合部付近に粘膜下層までの裂創が生じ、粘膜下の血管が破れて吐血する病態
- 激しい嘔吐の後の吐血が特徴的で、胸痛や腹痛は起こらない
- 過度のアルコール摂取や悪阻など、激しい嘔吐を繰り返したことが原因
- 内視鏡検査で裂創を確認・血液検査で貧血を確認
- ほとんどは保存療法で自然治癒する
- 出血を認める場合、内視鏡的止血術を行う
症状を放置せず、早期に医療機関を受診し、内視鏡検査を行いましょう。というのも、痛みを伴う場合は、特発性食道破裂の可能性もあります。そうなると、早期の治療が回復への鍵ともなりますので、 少しでも早く医療機関を受診しましょう。