胎生遺残物由来の良性腫瘍に頭蓋咽頭腫(読み方は「ずがいいんとうしゅ」英語表記で「Craniopharyngioma(クラニオファリンジオーマ)」)というものがあります。今回はこの頭蓋咽頭腫について
- 症状
- 診断
- 治療法
をご説明したいと思います。
頭蓋咽頭腫とは?
胎生期の頭蓋咽頭管の遺残物であるラトケ嚢に由来する良性腫瘍です。
小児~成人に幅広く見られ(5~15歳、40~60歳代にピーク)、小児の場合の脳腫瘍の約9%を占めます。
好発部位は?
鞍上部(20%)、鞍上部から鞍内(70%)、鞍内に限局(10%)で、視交叉や下垂体、視床下部を圧迫します。
また、被膜を持ち、多くは嚢胞を形成しやすく、嚢胞内にはモーターオイルのような黄褐色の内容液とコレステロール結晶があります。
組織型は?
頭蓋咽頭腫の組織型にはエナメル上皮腫型(85%)、扁平上皮乳頭型(15%)の2種類があります。
- エナメル上皮腫型:若年者に好発(5~15歳)
- 扁平上皮乳頭型:成人に好発(40~60歳代)
と分類されます。
頭蓋咽頭腫の症状は?
腫瘍によって視交叉・下垂体・視床下部などが圧迫されるために様々な症状が出ますが、小児と成人の場合では症状が異なります。
小児の症状
- 視野・視力障害(両側半盲)
- 下垂体機能低下症(GH分泌不全症・低身長症・性器発育遅延)
- 頭蓋内圧亢進症状(水頭症)
- 視床下部障害(尿崩症・体温変化・傾眠・肥満)
小児の場合、腫瘍が第三脳室、室間孔を閉塞し、水頭症による頭蓋内圧亢進症状が出現することが多くあります。
成人の症状
- 視野・視力障害(両側半盲)
- 下垂体機能低下症(易疲労性・低血圧・無月経)
- 視床下部障害(精神症状・性格変化)
上記以外に、薄毛や勃起不能、睾丸萎縮や不妊などの症状が出ることもあります。
頭蓋咽頭腫の診断は?
CTやMRI検査を行い診断します。
CT
トルコ鞍上部に散財する石灰化を伴う嚢胞を形成することが多くあります。嚢胞部分は低吸収域、実質は等~低吸収域を呈します。
MRI
嚢胞はT1強調像で低~等信号を、T2強調像では高信号を示します。実質は、T1強調像でやや低~等信号を示します。しかし、造影により嚢胞壁は強く増強されます。
注意点)ただし、成人の場合、扁平上皮乳頭型が多く、この場合は嚢胞性病変が主体ではなく、充実性成分が主体であり、石灰化の頻度は低いという特徴を持地ます。
嚢胞と石灰化を有する腫瘤が、トルコ鞍の上に確認出来ます。頭蓋咽頭腫を疑う所見です。
症例:40歳代女性
こちらは成人例ですが、石灰化を伴う腫瘤であり、嚢胞成分(内部はT1強調像で高信号を示しており、タンパク濃度の高い液貯留が疑われます)が多い頭蓋咽頭腫の一例です。
頭蓋咽頭腫の治療法は?
外科的療法による腫瘍全摘出を目標とします。また、残存腫瘍に対して放射線療法として定位照射を行います。更に、必要に応じてホルモン補充療法を加えます。
しかし、良性腫瘍であるものの、全摘出は困難で再発が多く、術後の下垂体や視床下部、視神経の機能保持が問題となります。5年生存率は90.4%です。
最後に
- 胎生期の頭蓋咽頭管の遺残物であるラトケ嚢に由来する良性腫瘍
- 5~15歳、40~60歳代にピーク
- 視野、視力障害・下垂体機能低下症・頭蓋内圧亢進症状・視床下部障害が現れる
- 小児と成人では症状が異なる
- 画像診断を行う
- 外科的療法で腫瘍全摘出を目標とする
再発は残存腫瘍のボリュームに依存し、残存腫瘍が大きいとその分再発率が高くなります。また、術後も症状が残る場合は、腫瘍による圧迫が残っているからだと考えられます。予後の放射線療法も重要となるでしょう。