90%が20歳未満に多く発生する腫瘍に胚細胞腫(読み方「はいさいぼうしゅ」、英語で「germ cell tumors」)という脳腫瘍があります。
今回はこの胚細胞腫について
- 症状
- 診断
- 治療法
を詳しくご説明したいと思います。
胚細胞腫とは?
胚細胞(germ cell)由来の腫瘍で、小児脳腫瘍全体に占める割合は神経膠腫に次いで多く脳腫瘍の約15%に値します。また、多彩な組織像を呈しますが、ジャミノーマ(胚腫)と奇形腫に代表されます。
好発年齢
20歳以下、特に10歳代の男児に好発します。
好発部位
松果体部(しょうかたいぶ)・トルコ鞍上部(あんじょうぶ)に好発します。
以下のように胚細胞腫瘍は主に6つの腫瘍(ジャーミノーマ、奇形腫、胎児性ガン、卵黄嚢腫瘍、絨毛ガン、混合性胚細胞腫瘍)に分けられ、それぞれの頻度や好発部位は以下の通りです。
また、詳しい原因は不明で一部の胚細胞腫には染色体異常が指摘されています。
胚細胞腫の症状は?
腫瘍が発生した部位によって現れる症状が異なります。
松果体部に現れる症状
中脳水道閉塞による頭蓋内圧亢進症状として
- 頭痛
- 嘔吐
などが現れます。また、下丘の障害として
- 中枢性難聴
が、視蓋前野、上丘の障害として
- Parinaud症候群(パリノー)
- Argyll Robertson瞳孔(アーガイル・ロバートソン)
が現れます。
眼球運動および瞳孔機能障害の症状で、
- 上方注視麻痺
- 調節の麻痺
- 輻輳・眼球後退眼振
- 上眼瞼の後退
- 正面眼位における下向きの眼位を示す傾向
などが症状として現れます。
松果体部胚細胞腫は胚細胞腫の約60%に発生し、9対1で、男児に多く発生します。内訳としては、ジャミノーマが60~70%、奇形腫が20~30%、その他が10%程です。
トルコ鞍上部に現れる症状
下垂体前葉機能障害により
- 低身長
- 肥満
- 二次性徴遅延
- 無月経
といったものが現れ、低身長や肥満はGH低下症状として、二次性徴遅延や無月経はLH低下、FSH低下症状として起こります。
また、視神経・視交叉圧迫により
- 視力障害
- 視野障害
が現れます。その他、視床下部障害として
- 尿崩症
が見られます。
鞍上部胚細胞腫は胚細胞腫の約30%に発生します。男女比は半々で、ジャミノーマが90%、奇形腫やその他が10%という内訳です。
胚細胞腫の診断は?
CT・MRI・腫瘍マーカー・病理組織検査などを行い診断します。
CT検査
松果体部に石灰化を認めます。基底核に発生した場合、基底核発生の胚芽腫は、早期よりCTで基底核の高吸収域と萎縮を示すため、CT検査が有用です。
MRI検査
T1強調像では低信号から等信号、T2強調像では高信号を認めます。また、基底核や視床に発生した場合、同側の大脳半球や大脳脚の萎縮が確認できますが、これは後期に見られる所見です。
CT検査を行い、松果体近傍に白質より高吸収の腫瘤を確認。MRIでは、松果体部および鞍上部に軟部影を確認し、胚腫を疑う所見。
腫瘍マーカー
胎児性ガン、卵黄嚢腫瘍のAFP、絨毛ガンのhCGがマーカーとして使われます。
病理組織検査
腫瘍細胞と小型リンパ球が認められ、two cell patternが特徴でもあります。
胚細胞腫の治療法は?
ジャミノーマ
ジャミノーマに対し、放射線療法と化学療法の併用が原則です。
奇形腫
奇形腫に対しては、外科的療法を行い、腫瘍摘出が原則となります。また、術後に追加で放射線療法や化学療法を行います。
予後は、ジャミノーマの場合、適正な治療を行えば良好ですが、奇形腫の場合、全摘出が出来れば良好となりますが、悪性型では再発や再燃の可能性もあります。
最後に
- 胚細胞(germ cell)由来の腫瘍で、小児脳腫瘍全体に占める割合は約15%
- ジャミノーマ(胚腫)と奇形腫に代表
- 頭痛や嘔吐、難聴や眼の症状の他、成長遅延などが現れる
- CT・MRI・腫瘍マーカー・病理組織検査などを行い診断する
- ジャミノーマに対しては、放射線療法と化学療法の併用
- 奇形腫に対しては、腫瘍摘出と、術後の放射線や化学療法を行う
髄液にのって脊髄に転移することもあります。そのため、放射線療法や化学療法により、徹底的な治療と播種の確認も重要です。