甲状腺のエコー検査(超音波検査)は、甲状腺に関わる病気の発見および精査に有効です。

明確な症状がないような場合や健診、人間ドックではまず医師の触診や血液検査が行なわれますが、何らかの異常が見つかりそうな場合には甲状腺エコー検査が行なわれます。

ところで、

「甲状腺エコー検査とは一体どのようなものなのでしょうか?」

また、

「甲状腺エコー検査でどのような病気が分かるのでしょうか?」

などなど疑問が多く出てきます。

そこで今回は、

  • 甲状腺エコー検査とは?
  • 甲状腺エコー検査の流れやメリットは?
  • 甲状腺エコー の所見、わかる病気は?
  • 甲状腺の検査での正常値は?

について説明していきます。


甲状腺エコー検査とは?

甲状腺エコー検査とは、お腹でも使うエコー装置(超音波装置)を用いてプローベを頸部に当てて甲状腺の様子をリアルタイムで観察する検査です。

正常の甲状腺のエコー画像は以下のようになります。

横断像と言って輪切りにしている画像です。

echo-of-the-thyroid4-doc1

甲状腺エコー検査ではどのようなことを評価するのでしょうか?
以下の項目などをチェックして所見に記載します。

甲状腺エコー検査で評価する点

  • 甲状腺の大きさを調べる。
  • 腫瘍病変の位置や大きさ、性状などを調べる。
  • 周囲の臓器やリンパ節への転移の有無を調べる。

実際のレポート例の一部は次のようになります。

 

これらの所見を血液検査とあわせて検査を行います。

甲状腺には体に必要なホルモンを生成する重要な役目があり、主に新陳代謝の促進や神経と精神のコントロール、さらに脳や骨の成長や発育にも関係しています。

この甲状腺が病気に侵されると甲状腺が大きくなったり、形が変形するため、まずはエコー検査で甲状腺の全体像を調べます。

もししこりがあった場合は位置と形状、内部の状態を判断し、それと同時に血流の速度や腫瘍の硬さを調べ、その場で良性か悪性を診断することも可能ですが、通常は精密検査に進むことが一般的です。

甲状腺のエコーによる大きさの正常値は?

10MHzの超音波装置(エコー装置)による健常人の甲状腺の計測値の正常値は以下のようになっています。

1)より引用。

峡部・横断厚・横径・縦径の長さ・厚みを評価します。

甲状腺ホルモンの正常値は?

また、上に述べたようにエコーと一緒に血液検査も行われます。
甲状腺は頭の中の下垂体という場所の前葉から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)により調節されています。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)の正常値:0,50~5,00μIU/ml

これは、甲状腺が正常に機能しているか調べる検査値として使われています。

このTSHにより甲状腺ホルモンは調節されています。

甲状腺ホルモンには以下のものがあり、それぞれの正常値は

  • FT4(遊離サイロキシン):0.90-1.70 ng/dL
  • FT3(遊離トリヨードサイロニン):2.30-4.30 pg/mL
  • T4(サイロキシン):6.10-12.4 μg/dL
  • T3(トリヨードサイロニン):0.80-1.60 ng/mL

となっています2)

甲状腺エコー検査の流れやメリットは?

甲状腺 エコー検査の流れやメリットについて説明して行きます!

甲状腺エコー検査の流れ

甲状腺エコー検査は、喉に超音波機器を当てて測定しますが、その際、痛みや圧迫感もなく、身体に無害ですので安心してください。

診察台に首の地肌が出るようにして横になるか、もしくは座った状態でも検査が可能です。

超音波の伝導をよくするため喉に温かいゼリー状の液体を塗りプローブをあて、甲状腺にあたって跳ね返ってきた超音波(人が聴くことができない高い周波数の音波の事)を受信し画像に映します。

検査時間は15~30分程度と短時間で終わります。

身体に無害であり、リアルタイムで臓器の様子を観察することができます。また、妊婦の方でも安心して検査を受ける事が可能です。

甲状腺エコー検査のメリット

人体のうち、甲状腺は体表に位置するためエコー検査に適した臓器の1つです。

専用の探触子(プローべ)を用いれば簡単に鮮明な画像がリアルタイムで得られます。

また、近年のエコー機種の進歩により、従来の触診や視診では発見出来なかった小型の癌が発見可能となり、最近のエコーでは、触知不能の2mm以上の大きさまで鮮明な結節を描き出すことが可能です。

甲状腺エコーの所見、わかる病気は?

甲状腺エコー検査で所見ありの場合には、以下の病気を疑う事が出来ます。
  • 橋本病
  • バセドウ病
  • 甲状腺炎
  • 甲状腺腫
  • 腺腫様甲状腺腫
  • 甲状腺がん

などが挙げられます。

それでは以下に、詳しく説明していきます。

橋本病(慢性甲状腺炎)

甲状腺に炎症が起きている病気ですが、これは細菌が入り込んで化膿するといった炎症とは違い、自己免疫の異常が原因で起きる炎症です。

自己免疫の異常によりリンパ球が自己の甲状腺組織を破壊し、慢性炎症が生じることが原因です。

甲状腺機能が正常の時には症状は出ませんが、甲状腺ホルモンが不足してくると、

  • 顔や手足のむくみ
  • 冷え
  • 体重増加

など、甲状腺機能低下症の特有の症状がみられます。

甲状腺の病気は、どれも女性に多いのですが、中でも橋本病は特に女性に多く、男女比は約1対20~30近くにもなりますし、年齢では20歳代後半以降、とくに30~40歳代に多くみられます。

慢性甲状腺炎のエコー所見は、病期により異なり、多彩です。

典型例では甲状腺はびまん性に腫大して大結節状となり、低エコー(音響レベルの低下)となります。

バセドウ病

甲状腺が腫大し、ホルモンが過剰に分泌された甲状腺ホルモンによる症状と、頻脈や眼球突出の3つの症状が特徴となります。

甲状腺を刺激する抗体が 原因と考えられていますが、本当の原因は不明であり、診断には、血液検査や甲状腺エコー検査が有効とされます。

こちらも女性に多い病気ですが、その男女比率は1対4ほどです。甲状腺の病気全体の男女比は、1対9の割合ですから、甲状腺の病気としては、比較的男性の比率が高い病気です。

発病年齢は、20歳代~30歳代が全体の過半数を占め、続いて40歳代、50歳代となっており、青年から壮年に多い病気となっています。

エコー検査では、甲状腺はびまん性に腫大をして、血流の増加による血管拡張を認めます。

また、血流を評価するカラードプラでは全体的に血流の増加を認め、上甲状腺動脈の平均流速流量も増加します。

甲状腺腫

甲状腺腫瘍には良性の腫瘍がんがあり、良性腫瘍のほとんどは濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)です。

この甲状腺腫瘍は、甲状腺の細胞が自律的に増殖してできるものです。

しかし、外部から甲状腺が刺激されると過形成を起こして、やはり甲状腺が腫れますが、これは腫瘍ではないので、腺腫様甲状腺腫として区別されています。

症状としては、首の腫れやしこり、のどの違和感、声がれがありますが、多くの場合は、症状がありません。

甲状腺腫のエコー所見としては、形状は整で平滑であることが多く、境界部に低エコー帯が存在する場合は、全周性に厚さは均一であることが多く、内部のエコーは均一で、周囲甲状腺と等エコーかやや高エコーとなります。

腺腫様甲状腺腫

上で述べたように、慢性的な甲状腺に対する刺激があり、甲状腺の一部に過形成が生じた状態です。

甲状腺全体にわたる多発性、結節性の増殖変化であり、20-50歳代の女性に多いとされます。

食事からのヨード摂取の不足もしくは過剰、遺伝的な素因が関与すると考えられています。

高頻度に認められ治療の対象にはなりません。

しかし、サイズが増大する場合、美容上の問題で治療されることもあります。

腺腫様甲状腺腫のエコー所見としては、びまん性の腫大を認め、甲状腺の両葉に多数の結節性病変として認められます。

多くは嚢胞性病変であり、実質性結節の場合は境界は不明瞭なことが多いです。

甲状腺がん

甲状腺にできるがんであり、組織の型によって、乳頭がん濾胞(ろほう)がん髄様がん未分化がんなどに分けられますが、この内、乳頭がんが最も多く、甲状腺がんがんの約80%を占めます。

症状はほとんど無く、首の部分にしこりがあるのを手で触れてわかる程度でが、稀に痛みや飲み込みにくい、声がかすれるなどの症状が発生する事もあります。

この甲状腺がんは、男女比率が1:5と女性に多く、年齢層も20歳代から高齢者まで幅広く分布する特徴があります。

また、多くの場合、他のがんに比べて進行が遅く治りやすい特徴もあります。

1)実践エコー診断(日本医師会雑誌特別号/第126巻第8号/平成13年) P295
2)今日の臨床検査2011,2012 P386,400

まとめ

今回のポイントのまとめ!
  • 甲状腺エコー検査とは、甲状腺にエコー(超音波)をあて、甲状腺の大きさや腫瘍病変の位置や大きさ、性状などを調べる検査である。
  • 痛みや圧迫感もなく、身体に無害なので妊婦の方でも安心して検査を受ける事が出来る。
  • メリットとしては、簡単に鮮明な画像がリアルタイムで得られ、触知不能の2mm以上の大きさまで鮮明な結節を描き出すことが可能である。
  • 所見ありの場合は、橋本病やバセドウ病、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、甲状腺がんが疑われる。
  • 甲状腺の検査での正常値は、0、50~5、00μIU/mlである。

 

甲状腺の病気は、治療を続けることで治る可能性も十分ありますし、また甲状腺の影響で甲状腺がホルモンを分泌していても別の臓器まで悪化するということもありません。

甲状腺機能低下症やバセドウ病は、基本的には投薬量法で改善しますし、甲状腺腫や甲状腺炎は範囲が小さければ治療の必要はなく、経過観察で様子をみることになる場合が多いです。

甲状腺癌であっても癌が転移する前 に摘出した場合には、10年後の生存率は90%に達していますので、早めに検査をして、早期発見と早期治療を心がけることが重要となります。




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