様々な癌の中でも食道にできる癌といえば食道癌で、初期でなかなか気づくことができず、気づいた時には進行していて、普段の食事さえにも差し支えが出る大変厄介な癌です。
そんな食道癌(英語表記で「Esophageal cancer」)について
- 症状
- 好発部位
- 検査
- ステージ
- 手術
- 合併症
- 看護
など、1つ1つを詳しくご説明したいと思います。
食道癌の症状は?
早期には無症状なことが多く、進行するにつれ、様々な症状があらわれてきます。
- 食道がしみる
- 燕下障害
- 体重減少
- 嗄声(読み方は「させい」声がかすれること)
- 咳嗽(読み方は「がいそう」咳き込むこと)
- 胸部痛
- 狭窄感
- 嘔吐
- 吐き気(げっぷ)
- 悪心(胸焼け)
- 胸骨後部不快感
などがあらわれます。
食道癌の好発部位は?
- 食道入口部から胸骨上縁を、頸部食道(Ce)
- 胸骨上淵から気管分岐部を、胸部上部食道(Ut)
- 気管分岐部から食道裂孔までを2分割し、その上部を胸部中部食道(Mt)、その下部を胸部下部食道(Lt)
- 食道裂孔から食道胃接合部までを、腹部食道(Ae)
という風に分類されます。
この区分の中で、胸部中部食道に好発します。
発症率として、
- 頸部食道(Ce)が約5%
- 胸部上部食道(Ut)が約15%
- 胸部中部食道(Mt)約50%
- 胸部下部食道(Lt)約25%
- 腹部食道(Ae)約5%
となっています。
また、多量の飲酒歴や喫煙歴のある中高年男性に起こりやすいといわれています。
特に、毎日1.5合以上の飲酒、20本以上の喫煙をしている人は、そうでない人の30倍の発ガンの可能性があると報告されています。
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食道癌の検査は?
- 上部消化管内視鏡検査(食道・胃カメラ)
- 超音波内視鏡検査
- X線造影検査(バリウム検査)
- CT
- 病理組織検査
- PET
などをおこない診断します。
喉の専門は耳鼻科・食道の専門は消化器内科ですが、食道癌を疑った場合、検査機器の整った大きな病院を受診するのが良いでしょう。
上部消化管内視鏡検査(食道・胃カメラ)
肉眼で癌の形状を見ることができます。
肉眼型分類では、
- 早期食道癌(0型)
- 進行食道癌(1~5型)
に分類されます。
早期食道癌ではさらに、亜分類として以下のように分類されます。
癌の形状として
- 表在隆起型0-Ⅰ・・・有茎性0-Ⅰp型・無茎性0-Ⅰs型
- 表面型0-Ⅱ・・・表面隆起型0-Ⅱa型・表面平坦型0-Ⅱb型・表面陥凹型0-Ⅱc型
- 表面陥凹型0-Ⅲ型
とに分けられます。
進行食道癌の場合は、以下のように分類されます。
- (0型・・・表在型)
- 1型・・・隆起型
- 2型・・・潰瘍限局型
- 3型・・・潰瘍浸潤型
- 4型・・・びまん浸潤型
- 5型・・・分類不能型
また、超音波内視鏡検査(EUS)では、壁深達度診断やリンパ節転移の検索に有用です。
症例:50歳代女性
上部内視鏡検査で、表在性の壁の不整を認めています。
食道癌を疑う所見です。
X線造影検査(バリウム検査)
バリウムを飲んでもらい、X線透視下で撮影を行います。
食道癌の形や、食道のどの部位に癌があるのか、気管や胃の噴門部との関係などを評価することができます。
症例:50歳代女性 上と同一症例
気管分岐部〜やや頭側に壁の不整を認めています。
胸部上部食道がんと診断することができます。
手術が行われ、扁平上皮癌の表在食道癌(T1b)と診断されました。
CT検査
CT検査は、進行した食道癌の周囲臓器への浸潤の様子や壁の不整を評価することができます。
また、リンパ節や肺などへの転移の有無をチェックすることができます。
ただし、早期の場合、表在型ではわずかな壁の変形しかないため、CTでは描出できないこともしばしばあります。
症例 50歳代男性
上部消化管内視鏡及び、バリウムを用いたX線造影検査で、胸部中部食道を中心に進行食道癌を認めています。
造影CTでは、縦隔リンパ節転移(#106rec)を認めており、気管分岐部レベルから全周性の壁肥厚を認めていました。
進行胃がんのリンパ節転移と診断されました。
病理検査
腫瘍細胞の塊の中に、癌細胞によって形成される癌真珠が見られます。
早期の場合は、微小な変化のため、ヨード染色をおこなうことが重要です。
PET検査
癌の浸潤や転移を調べるのに有用です。
症例 50歳代 女性
食道癌及び右鎖骨上リンパ節転移の様子がよくわかります。
食道癌のステージ分類は?
壁深達度(T)・リンパ節転移の程度(N)・遠隔臓器転移(M)というTNM因子に基づいて食道癌のステージ(進行度)が分類されます。
また、ステージは0〜Ⅳ(Ⅳa・Ⅳb)期によって治療方法が検討されます。
早期発見できれば(0期)、内視鏡的治療として
- 内視鏡的粘膜切除術(英語表記でendoscopic mucosal略語でEMR)
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(英語表記でendoscopic submucosal tomogtaphy略語でESD)
が有用です。
ですが、
基本は食道癌のグレードに応じて
- (Ⅰ〜Ⅲ期)切除可能であれば手術
切除不能例(Ⅳa・Ⅳb)では
- 化学放射線療法や放射線療法
が選択されます。
食道癌の手術方法は?
食道切除・リンパ節郭清・食道再建が外科的手術でおこなわれます。
食道切除
右開胸開腹食道切除術が一般的で、癌のある食道を切除します。
また、近年では腹腔鏡下でおこなう場合もありますが、高度な熟練した技術が必要です。
リンパ節郭清
脂肪組織などの結合組織に含まれているリンパ節を、術前検査で郭清の範囲を評価した上で、剥離し切除します。
食道再建
胃かんで食道を再建するのが一般的ですが、中には胃を使えない時もあり、その場合は小腸を用いて食道を再建します。
術前・術後に化学放射線療法を用いることもあります。
手術について詳しくはこちら→食道癌の手術!気になる費用や入院期間など徹底解説
手術の適応は?
主にⅠ期〜Ⅲ期までが手術の適応となります。
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食道癌で手術が適応されない場合は?
上記の手術適応に至らない切除不能例では、化学療法が第一選択となります。
また、化学療法と放射線療法を併用することもありますが、単独でおこなうこともあります。
この方法によって癌の縮小や再発防止を期待し、癌が縮小すれば、手術適応となることもあります。
また、それ以外に、姑息的治療(読み方は「こそくてきちりょう」根治を目指す治療以外の全ての医療行為のこと)として食道瘻造設術・バイパス術・食道ステント留置などの治療をおこなうこともあります。
食道瘻造設術
頸部食道を剥離露出し、そこからチューブを胃まで挿入し、留置固定する手術です。
バイパス術
食道を切除せずに胃管を頸部食道まであげて縫合する手術です。
食道ステント留置
X線透視下で、食道ステントを食道癌の狭窄部に挿入し、狭窄を解除する手術です。
症例 70歳代 男性 進行食道癌
X線透視下で、食道ステントが留置されました。
食道癌の術後の注意点は?
術後は合併症が高率に発生しやすいため、注意が必要です。
合併症として
- 呼吸器合併症(無気肺・肺炎)・・・約20%〜30%
- 反回神経麻痺(嗄声・呼吸困難)・・・約15%
- 縫合不全
- 乳び胸
- 術後出血
- 血栓塞栓症
などがあります。
食道癌の術後の看護は?
放射線療法中・化学療法中は水分や電解質の管理として、大量の点滴をおこない、利尿剤を併用して十分な尿排泄を促す必要もあります。
また、内視鏡的粘膜切除術では出血や食道裂孔に注意し、その他の手術でも、術後の合併症には十分に目を配る必要があります。
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P64〜73
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P22〜27
参考文献:内科診断学 第2版 P840・841
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P56・57
最後に
- 早期には無症状なことが多く、進行するにつれ、様々な症状があらわれる
- 胸部中部食道に好発
- 内視鏡検査(超音波内視鏡検査)・X線造影検査・病理組織検査・PETなどをおこない診断する
- TNM因子に基づいて食道癌のステージ(進行度)が分類される
- ステージに応じて治療法が検討される
- 外科的手術によって、食道切除・リンパ節郭清・食道再建がおこなわれる
- 手術不能例では、化学療法や放射線療法が選択される
- Ⅰ期〜Ⅲ期までが手術の適応
早期診断、早期治療が予後に大きく関係しますが、中には喉の症状だけの場合、風邪と間違われやすくもあり、発見が遅れることもあります。
そのため、「何かが違う」「おかしい」と感じた時には、設備の整った大きな医療機関を受診することをオススメします。