胃がんなどで胃を全摘出、または一部摘出する治療方法があります。
ですが、この胃切除後に出る合併症として、ダンピング症候群・輸入脚症候群・吻合部潰瘍・貧血などがあります。
今回は中でも貧血にスポットを当て
- 原因
- 症状
- 種類
- 検査
- 治療
- 看護
について説明したいと思います。
胃切除後の貧血の原因は?
胃がんなどで胃を切除したり、胃の大部分を切除することがあります。
貧血は、その胃切除後数ヶ月内に生じるものと、4〜5年経過して生じるものとがあります。
- 数ヶ月後に生じる貧血は→鉄欠乏性貧血
- 4〜5年後に生じる貧血は→巨赤芽球性貧血
です。
鉄欠乏性貧血
胃酸の欠如や、胃がなくなったため食べ物の通過時間が短くなったことで、鉄分の吸収が障害され、この鉄欠乏性貧血が起こります。
巨赤芽球性貧血
胃の壁細胞からの内因子と結合してビタミンB12は吸収されるメカニズムがあったものが、胃切除により分泌が低下するために
ビタミンB12の吸収障害が起こり、巨赤芽球性貧血になります。
胃切除の範囲と貧血の関係
右のイラストが胃を全摘出したもので、真ん中が一部を残して切除したもの、左が胃の大部分は残したものの十二指腸断片は閉じた状態となったもの(盲管ができたもの)です。
- 胃を全摘出した場合・・・胃酸分泌・胃内因子分泌・鉄の吸収・ビタミンB12の吸収、それぞれが0になるため、鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血ともに起こる
- 胃の一部を残して切除した場合・・・胃酸分泌は低下・胃内因子は残る・鉄の吸収は低下・ビタミンB12の吸収は保たれるため、鉄欠乏性貧血は起こるが、巨赤芽球性貧血は起こらない
胃切除後の貧血の症状は?
徐々に貧血症状が進行し、気づきにくいことが多い特徴にあります。
ただ、貧血症状の特徴として
- 立ちくらみがする
- 疲れやすい
- 動悸
- 息切れ
- 倦怠感
- 血行不良(顔面蒼白)
- 口内炎
- 爪の反り返り
などを自覚することもあります。
胃切除後の貧血の種類は?
最初に述べましたように、胃切除後の貧血には鉄欠乏性貧血と巨赤芽球性貧血という種類があります。
鉄欠乏性貧血
別名「小球性貧血」ともいわれ、英語表記では「iron deficiency anemia」略語で「IDA」といいます。
貧血の中で最も多いもので、鉄分が不足するために起こる貧血です。
鉄分が不足することが原因ですので、高齢者や鉄分不足の要因となる月経が終わった閉経後の女性にみられる場合は、悪性腫瘍の合併を必ず考える必要があります。
巨赤芽球性貧血
別名「大球性貧血」や「ビタミンB12欠乏性貧血」ともいい、英語表記で「megaloblatic anemia」といいます。
ビタミンB12が欠乏することで起こる貧血ですが、ビタミンB12が不足していても、同時に鉄分が不足している場合は、鉄欠乏性貧血に分類されます。
胃切除後の貧血の検査は?
血液検査やPAS染色(組織学や病理学において使用される検査)をおこない診断されます。
鉄欠乏性貧血の場合、鉄分が基準値よりも下回っていることで診断できます。
巨赤芽球性貧血の場合、ビタミンB12の不足と骨髄中の巨赤芽球がPAS染色で陰性になっていることで確認できます。
胃切除後の貧血の治療は?
治療法として、どちらも食事療法が重要となります。
食事療法
- 3食規則正しく食べる
- 主食・主菜・副菜などバランスよく食べる
- 鉄欠乏性貧血の場合は、鉄分を含む食材を摂る
- 巨赤芽球性貧血の場合は、ビタミンB12を含む食材を摂る
必要があります。
鉄分を多く含む食材・・・レバー・あさり・ほうれん草・納豆など
ビタミンB12を多く含む食材・・・レバー・魚介類・チーズなど
があります。
また、症状が重い場合には、食事療法と合わせ治療も必要になります。
治療
- 鉄欠乏性貧血の場合・・・鉄剤の経口投与または筋注
- 巨赤芽球性貧血の場合・・・ビタミンB12の経口投与または筋注
葉酸も大事に思われますが、巨赤芽球性貧血の場合、葉酸投与で神経症状が悪化してしまうため使えません。
- 参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P128〜131
- 参考文献:内科診断学 第2版 P854・855
- 参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P95
- 参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P73
最後に
- 胃切除後、数ヶ月後に生じ、鉄分不足が原因で起こる貧血は、鉄欠乏性貧血
- 4〜5年後に生じ、ビタミンB12の欠乏が原因で起こる貧血は、巨赤芽球性貧血
- 胃酸の欠如や、胃がなくなったため食べ物の通過時間が短くなったために鉄分の吸収が阻害される
- 胃内因子分泌が減り、ビタミンB12の吸収が阻害されることで吸収障害が起きる
- 徐々に貧血症状が進行し気づきにくいことが多い
- 血液検査やPAS染色によって診断
- 食事療法が重要
- 症状が重い場合には、経口投与・筋注によって治療
胃がん治療ができたのに、それにより貧血になってしまうなんてと思われるかもしれませんが、胃がんが悪化して黒色便や下血をともなうようになれば、それが原因でも貧血になります。
今まであった胃がなくなったため、それにより食生活には今まで以上に注意し、内容や食べ方にも気をつける必要があります。