出産後の子供の検診に行かれたことがある方ならご存知だと思いますが、男の子は生後の定期検診で医師による陰嚢の触診があります。
陰嚢内に精巣が確認できない場合は、「停留精巣」の可能性があります。
停留精巣は、発ガンの可能性が通常よりも高いと報告されています。
今回はその停留精巣(英語表記で「Undescended testes」)について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療法
- 不妊や癌化について
をイラストや実際のCT画像を交えながら、分かりやすく解説しました。
停留精巣とは?
停留精巣とは、陰嚢と呼ばれる袋の中に精巣が降りてきていない状態をいいます。
分かりやすくいうと、精巣=金玉です。
通常、精巣(金玉)は、胎児期3カ月頃に上のイラストのように腹部から徐々にで陰嚢(いわゆる金玉袋)に降り始めます。そして30〜32週までに陰嚢内に降りてきます。
ところが、産まれるまでにうまく陰嚢内に降りなかった場合、腹部や鼠径部(足の付け根)に精巣が残ることがあり、その状態を停留精巣(別名「停留睾丸」)というわけです。
停留精巣の症状は?
通常ならば陰嚢を触ると、コリコリとした精巣に触れることができますが、停留精巣の場合触れることができません。
停留精巣の種類
- 片側性
- 両側性
- 鼠径管内に留まっている状態
- 外鼠径管に位置している状態
- 腹腔内に留まっている状態
- 陰嚢上部まで降りてきてる状態
まず、片方は陰嚢内に触れるがもう片方は触れないのが片側性ですが、その場合見た目にも左右の大きさが異なります。
両側とも陰嚢内で触れないのが両側性です。
鼠径管内に留まっている場合でも、たまに陰嚢内にあるけど、次触った時はない・・・という移動性のものもあります。
しかし、詳しく検査をすると、精巣の位置に違いがあります。
[adsense]
停留精巣の原因は?
原因については、
- 胎児期の男性ホルモン
- 妊娠時の母親の飲酒や喫煙
などの関連が疑われていますが、詳しいことは分かっていません。
停留精巣の診断は?
一般的に、医師の触診により陰嚢内に精巣がなければ停留精巣と判断できます。
しかし、詳しい精巣の位置を調べるために、エコーや造影CT検査を行います。
症例 50歳代男性 スクリーニング
造影CTの横断像で右の陰嚢内に精巣を確認できません。そして右の足の付け根である鼠径部に精巣と思われる構造を認めています。
これを冠状断像で見てみると、右の精巣(及び精巣上体)が右の鼠径部に停滞しているため、陰嚢内に認めていないということがよくわかります。右停留精巣の画像所見です。
停留精巣の治療法は?
- ホルモン療法
- 手術
ホルモン療法
ホルモン投与により自然と精巣が降りてくることを期待します。
しかしホルモン療法は、長期間ホルモン剤を服用する必要があり、有効性も低いため海外では行われている場所もあるものの、日本では行われておらず手術治療が主流です。
手術
精巣固定術という方法で、下腹部と陰嚢を切開し、精巣を陰嚢内に固定する手術が行われます。
また移動性精巣の場合は、成長にともない落ち着くこともあるため、様子を見ることになりますが、陰嚢に触れないことが多ければ、入学前に手術に踏み切ることを考えます。
停留精巣の手術後は?不妊や癌化の可能性は?
手術部位を圧迫することにさえ注意すれば、通常通りの生活が送れますが、しばらく定期検診は必要です。
不妊の可能性
- 精巣の位置が高い
- 手術時期が遅い
などの問題があると、精子形成の障害があらわれ、無精子症や乏精子症となる可能性があります。
両側性の場合、無精子症や乏精子症となる可能性は高いものの、治療後は無治療に比べ改善します。
片側性の場合は妊娠率は治療をしてもしなくても大きな変化はなく、両側性よりは不妊の心配は少ないともいわれています。
(ただし一概には言えず、中には治療により改善した例も多くあります。)
癌化の可能性
通常に比べ停留精巣の場合、精巣腫瘍となる可能性は高くなります。
しかし手術時に生検を行なっても、将来の癌化の予測はできないため、リスクは正常な人に比べて高いというだけで、停留精巣患者が皆癌化するとは限りません。
また、早期に手術を行えば癌化の可能性は低くなるといった報告もなく、手術時期と癌化についての関連性は明らかではありません。
(日本小児泌尿器学会ガイドラインより)
最後に
- 陰嚢と呼ばれる袋の中に精巣が降りてきていない状態を停留精巣という
- 陰嚢に本来ならあるコリコリとした精巣に触れない
- エコーや造影CTによって詳しい状態を診断する
- 日本では精巣固定術という手術が主流
- 将来不妊となる可能性もある
- 将来癌化する可能性もある
不妊の可能性はありますが、中には問題ない方も多くいます。
自然妊娠での不妊につながる可能性はありますが、少量でも精子があれば、濃縮したものにより妊娠は可能です。
また、癌化の可能性はあるといっても、精巣癌自体、他の癌に比べるとまれです。
手術を行っても行わなくても癌化の可能性はそう変わらないといわれていますので、気にしすぎることはないという意見もあります。