慢性膵炎は、別名「膵石症」とも呼ばれ、中高年男性に多い疾患の1つです。
この慢性膵炎は難治進行性の病気で、その進行状態により症状にも違いが出てきます。
原因としてはアルコールが最多であり、進行してからでは、元に戻れなくなります。
「ここのところ腹痛が続くけども、これって慢性膵炎では・・・」と早い段階で気づき、診断・治療することが重要です。
そこで今回は、慢性膵炎(「まんせいすいえん」英語表記で「chronic pancreatitis」)について
- 症状
- 原因
- 検査
- 診断基準
など、詳しく説明していきたいと思います。
慢性膵炎とは?
膵臓に炎症が繰り返し起こってしまう事により細胞が破壊されてしまい、膵臓が硬くなり萎縮してしまう難治性疾患のことを慢性膵炎といいます。
膵臓実質の脱落・繊維化・石灰化などの変化が段階的に起こるため、症状も代償期→移行期→非代償期と進行していきます。
非代償期となると、残っている膵臓では膵臓の機能がもはや代償されないという意味ですので、膵臓の機能に異常が生じます。
具体的には、消化吸収障害・糖代謝障害が起こります。
慢性膵炎の症状は?
- 代償期
- 以降期
- 非代償期
と分けて、説明します。
代償期
5年〜10年が、この代償期といわれています。
- 腹痛
- 悪心
- 食欲不振
- 嘔吐
- 下痢
- 体重減少
慢性膵炎の典型的な初期症状は、上腹部痛や腰背部痛で、多くの患者が訴えるものです。
症状は、急性増悪期と間欠期(強くなったり、治ったり)を繰り返します。
移行期
初期症状である、上記のような症状を残しつつ、徐々に腹痛は軽減されていきます。
そのため、一旦落ち着いたと思われるものの、次の非代償期になると、また症状が強く現れます。
非代償期
消化吸収障害や糖代謝障害が起こるため、
- 下痢
- 脂肪便
- 体重減少
- 多尿
- 口の渇き(多飲)
などの症状が慢性的にあらわれます。
慢性膵炎による糖尿病を発症してしまい、低血糖やケトアシドーシスを起こすこともあります。
糖尿病になり、インスリンが不足すると、血液中のブドウ糖を代謝できなくなるため高血糖状態になります。
そのため、脂肪を分解しエネルギー生産をしようという働きがおきますが、 その際に生産されるケトン体が血液中に急激に増加します。
すると、血液が酸性になるため、異常として発生するのがケトアシドーシスです。
関連記事)急性膵炎はなぜ怖い?重症度分類とは?わかりやすく徹底解説!
慢性膵炎の原因は?
- アルコール性(68%)
- 特発性(21%)
- 胆石性(3%)
- その他(8%)
といわれています。
特に多いのがアルコール性ですが、アルコールを大量に飲んでいる男性に多い特徴があります。
アルコールを長期間大量摂取を続けると、炎症性サイトカインが産生され、それによって膵線維化や実質の脱落などの変化が起こり、慢性膵炎にいたると考えられています。
(toxic metabolic theory)
その他の考えとしては、飲酒によって膵液の質的変化が起こるために蛋白栓ができたり、石灰化によって膵石ができたりすることにつながり、慢性膵炎を引き起こしてしまうというものがあります。
(ductal-plug theory)
(参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P412)
また、その他の原因としては、
- 膵損傷
- 脂質異常症
- 副甲状腺機能亢進症
などがあります。
慢性膵炎患者の約8割は喫煙者であることから、喫煙も関与するのではないかと考えられています。
若年者で発症した場合は、家族性・遺伝性が考えられます。
[adsense]
慢性膵炎の検査方法は?
- 血液検査・尿検査
- 腹部超音波検査
- 腹部CT検査
- 膵胆管造影(ERCP)
- MRCP
- 腫瘍マーカー
慢性膵炎の診断に重要となるのが、膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)です。
血中膵酵素は代償期に、高値となったり落ち着いたりを繰り返し、非代償期になると、徐々に減少していく特徴があります。
アミラーゼの検査方法
- 血清アミラーゼ→血液を採取し、血清部分を自動分析器を使い検出
- 尿アミラーゼ→尿を採取し、その尿を自動分析器を使い検出
関連記事) 血清アミラーゼ(AMY)の基準値は?異常高値・低値ならどんな病気?
腹部超音波像
音響陰影を伴う膵石像が特徴的です。
また、超音波内視鏡(EUS)は初期の慢性膵炎の診断に有用といわれています。
腹部CT
膵臓内に石灰化や膵石、主膵管の拡張などを確認することができます。
また、進行し、石灰化が強くなれば、単純X線でも確認できるようになります。
膵臓の石灰化についてはこちらにまとめました→膵臓の石灰化は慢性膵炎?イラストとCT画像でわかりやすく解説!
ERCP
膵管の不規則な拡張や、膵管内の膵石が見られます。
ERCPについてはこちらに詳しくまとめました→【まとめ】ERCPとは?検査の手順や合併症について
MRCP
ERCPは侵襲性が高いこともあり、近年はMRI装置の発達によりMRCPで膵管を評価することが積極的に行われています。
MRCPでは主膵管の蛇行や不規則な拡張所見を認めます。
なお膵管内の結石である膵石の描出にはCTが優れていますが、MRIにおいてもT2強調像で低信号(黒色)として捉えることができます。
症例 80歳代男性 慢性膵炎でフォローされている。
MRIのT2強調像で膵臓全体に萎縮及び主膵管の蛇行及び拡張(膵臓尾部で目立つ)を認めています。
慢性膵炎に矛盾しない所見です。
膵石ははっきりしません。
腫瘍マーカー
膵がんの心配を伴う場合、
といった腫瘍マーカーが指標として用いられます。
慢性膵炎の診断基準は?
上記の検査により
- 特徴的な画像所見
- 特徴的な組織所見
- 繰り返す上腹部痛発作
- 血液または尿中の膵酵素値の異常
- 膵分泌障害
- 飲酒歴(1日80g:純エタノール換算)
を元に診断されます。
慢性膵炎の診断確定
- 1または2の確定診断所見
- 1または2の準確定診断所見と、345のうち2項目以上
となれば、慢性膵炎と診断されます。
慢性膵炎の準確定診断
1または2の準確定診断所見を認められれば、慢性膵炎の準確定診断となります。
早期慢性膵炎の診断
- 3〜6のいずれか2項目以上+早期慢性膵炎の画像所見
という基準があります。
(慢性膵炎臨床診断基準2009より)
慢性膵炎の治療について、詳しくはこちら→慢性膵炎の治療は?
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P211〜216
参考文献:内科診断学 第2版 P902・903
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P238〜241
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P277〜279
最後に
慢性膵炎の患者数は年々増加してきています。
飲酒と喫煙を共にされている事が多く、断酒と禁煙をする事が大変重要な事とされています。
進行すると膵臓がんのリスクも高まりますので、症状をチェックし
「もしかして?」
と思われる症状や生活習慣などがある場合、医療機関を受診して相談することをオススメします。