低血糖と言いますと、糖尿病の患者さんがインシュリンの投与によって起こる副作用のように思っている方も多いかもしれません。
しかし、糖尿病ではないのに低血糖を起こすこともあるのです。
血糖値というのは高いことばかりが問題にされがちですが、低すぎても問題があります。
今回は、
- 糖尿病ではないのに低血糖になる原因について
- 低血糖はどんな症状が出るのか
- 低血糖になった時の対処法!
これらについてまとめてみました。
糖尿病ではないのに低血糖になる原因とは?
糖尿病が原因ではない低血糖の原因には、疾患が原因となるものと、そうでないものがあります。
病気が原因のものについては以下です。1)
- インスリノーマ
- 下垂体前葉機能低下症
- ACTH単独欠損症
- Addison(アジソン)病
- IGF-Ⅱを産生する膵外腫瘍
病気が原因ではない場合、以下のものが考えられます。
- アルコールの過剰摂取
- ダンピング症候群
それでは、順番にみていきましょう。
インスリノーマ(insulinoma)2)
インスリノーマとは、インスリン分泌を制御する作用のある「膵β細胞」が腫瘍化することです。
腫瘍化することで、本来のインスリン分泌制御ができなくなります。
血糖濃度に応じたインスリン分泌ができなくなるため、インスリンが過剰に分泌されて、低血糖症状がおきてしまうのです。
下垂体前葉機能低下症3)
下垂体前葉とは、脳の中にある脳下垂体の中でも前の部分のことで、6種類ものホルモンを分泌する機能があります。
この脳下垂体前葉から出るホルモンの欠損によって生じる疾患です。
ホルモンの欠損は、下垂体に腫瘍・炎症・外傷・出血・虚血・壊死 などが起こることによって引き起こされます。
下垂体前葉機能低下症を引き起こす原因には、
- 下垂体腺腫
- 頭蓋咽頭腫
- 胚芽腫
- ラトケ(Rathke)嚢腫
- シーハン症候群
- 外傷性
- 突発性
- 自己免疫性
などがあります。
発症しやすい年齢は、20歳代(頭蓋咽頭腫・胚芽腫)と60歳代(下垂体腺腫)です。
この疾患によって、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)・黄体化ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)・プロラクチン (PRL)・成長ホルモン(GH)分泌が低下します。
これらの中で、すべてのホルモン分泌を障害されたものが汎下垂体機能低下症、一部のホルモンのみに分泌障害を認めるものは部分型下垂体機能低下症と呼ばれています。
これらの低下によって生じるのが以下の疾患です。
- 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の低下→副腎皮質機能低下症
- 甲状腺刺激ホルモンの低下(TSH)→甲状腺機能低下症
- 黄体化ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)・プロラクチン(PRL)→性腺機能低下症
- 成長ホルモン(GH)の欠損→下垂体性の小人症
この中で低血糖に関するホルモンは、副腎皮質刺激ホルモンです。
汎下垂体機能低下症の場合や、部分型下垂体機能低下症の中でも副腎皮質機能低下症が含まれている場合に、低血糖が起こります。
副腎皮質機能低下症の症状は、低血糖の他に悪心・嘔吐・食欲不振・全身倦怠感・易疲労感(いひろうかん)・低血圧などもありますので、これらの症状も見られる場合は、下垂体前葉機能低下症を疑うことがあります。
※易疲労感とは、肉体的、身体的にだるいと感じる自覚症状のことで、休息をとっても回復しないもののことです。
ACTH単独欠損症4)
ACTHとは、副腎皮質刺激ホルモンのことですが、上記の下垂体前葉機能低下症の中で、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)のみが障害されたもののことです。
前述のように、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が低下することによって、低血糖などの症状が起こります。
Addison(アジソン)病(Addison’s disiease)5)
アジソン病とは、副腎皮質の80%を占める、球状層・束状層・網状層のうち、90%以上が破壊されて起こる慢性の副腎皮質機能低下症です。
※副腎皮質とは、左右の腎臓の上にある副腎の外側にある部分のことです。
アジソン病の症状には、
- 低血糖
- 易疲労感
- 食欲不振
- 悪心
- 嘔吐
- 体重減少
- 脱力
- 嗜眠(しみん)
- 低血圧
- 低Na血症
- 高K血症
- 味覚の変化(塩分の濃い食事を好む)
- 無月経(女性)
- 性格の変化
- 集中力の低下などがあります。
※嗜眠とは・・・睡眠状態のことで、昏睡よりは軽度であるものの、痛みなどの刺激に反応する状態で、刺激をやめると睡眠状態に戻ること
IGF-Ⅱを産生する膵外腫瘍6)
腫瘍の中でも膵外腫瘍の場合、腫瘍組織がIGF-II を産生することがあります。
IGFには、IGF-Ⅰ IGF-Ⅱの2種類があり、その構造がインスリンと似ていることから、血糖降下作用があります。
そのため、膵外腫瘍がある場合に、低血糖状態になることがあるのです。
アルコールの過剰摂取
アルコールを摂取することによって、低血糖になることがあります。
アルコールには、糖新生(糖を産生する)を抑制する作用があるからです。7)
とくに、アルコール依存症の方によく見られる状態で、食事を十分取らず飲酒することで低血糖になります。
食事量が少ないと、肝臓のグリコーゲン(多糖類)が減少した状態のところに、さらに糖の産生が抑制されてしまうのが原因です。
ダンピング症候群(Dumping syndrome)
ダンピング症候群とは、胃の切除手術を受けた後に起こる症状のことです。
胃の切除手術をすると、胃の機能や体積が低下します。
本来であれば、胃の中で時間をかけて消化してから小腸に移動するのですが、十分に消化されないまま、小腸に流入してしまうことで起こる症状です。
ダンピング症候群の症状には、早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群があります。
早期ダンピング症候群は、食後5〜60分で生じる症状で、後期ダンピング症候群は職後2〜3時間後に生じる症状です。
早期ダンピング症候群の症状には
- 冷や汗
- 頻脈
- 腹痛
- 下痢
後期ダンピング症候群の症状には
- めまい
- 動悸
- 低血糖
これらの症状があります。8)
後期ダンピング症候群は、炭水化物の多量摂取によって、一時的に高血糖になり、過剰なインスリン分泌によって血糖が急激に下がってしまうことが原因です。
ダンピング症候群について詳しくはこちら
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低血糖はどんな症状がでる?
そんな低血糖の症状には
- 蒼白
- 発汗
- 動悸
- 脈圧拡大
- 悪心
- 不安
- 空腹感
- 思考障害
- 行動異常
- 頭痛
- 知覚障害
- 視力低下
- 片麻痺
- 失語症
- 低体温
- けいれん発作
- 昏睡
これらのものがあります。
他にも、低血糖状態が長く続くことで、
- 性格や人格の変化
- 記銘力の低下(新しく体験したことを覚える能力)
- 精神障害
- 運動失調
などをきたすことがあります。9)
低血糖を予防するにはこちらの記事もオススメ!
低血糖になった時の対処法
低血糖を経験した人ならわかるかと思いますが、低血糖になると何も考えられなくなりますよね。
低血糖の症状が出たら、まずは
- 砂糖やはちみつなどの糖分を摂取する
これが基本です。
病院での治療でも、低血糖になった場合は、グルコース(ブドウ糖)を投与するのが基本的な治療となります。9)
外出先であれば、飴や糖分を含んだジュースなどがオススメです。
糖分を摂っても、症状がよくならない場合や、低体温・けいれんなどの重篤な症状の場合はすぐに病院へ行きましょう。
また、症状が落ち着いても、上記で紹介したような疾患が隠れているかもしれません。
原因がわからず心配な場合は、一度病院で診察をしてもらうことをオススメします。
参考:
1)内科診断学第2版 P912
2)内科診断学第2版 P917
3)内科診断学第2版 P947
4) 日本内科学会雑誌第97巻第4号 III.続発性副腎機能低下症の診断 2.ACTH単独欠損症
5)内科診断学第2版 P952
6) 日本糖尿病学会誌第54巻第12号 低血糖についての新しい知見 5.IGF-II 産生腫瘍と低血糖
7)厚生労働省 e-ヘルスネット アルコールと糖尿病
8)糖尿病・代謝・栄養疾患ビジュアルブック p54
9)内科診断学第2版 P913
まとめ
- 糖尿病ではないのに低血糖を起こす原因
- インスリノーマ
- 下垂体前葉機能低下症
- ACTH単独欠損症
- Addison(アジソン)病
- IGF-Ⅱを産生する膵外腫瘍
- アルコールの過剰摂取
- ダンピング症候群
- 低血糖の症状
- 蒼白
- 発汗
- 動悸
- 脈圧拡大
- 悪心
- 不安
- 空腹感
- 思考障害
- 行動異常
- 頭痛
- 知覚障害
- 視力低下
- 片麻痺
- 失語症
- 低体温
- けいれん発作
- 昏睡
- 低血糖になった時の対処法は糖分を取ること
- 低血糖の原因がわからなくて心配な場合は病院へ
いかがでしたか?
今回は糖尿病ではないのに、低血糖になってしまう原因と症状・対処法についてでした。
はじめて低血糖の症状が起こると、驚いてしまうかもしれませんが落ち着いて糖分をとりましょう。
低血糖には病気が隠れていることもありますので、心配な場合は、病院へいくことをオススメします。