脳のCTやMRI検査を行うと小さな脳梗塞が見つかることがあります。
小さな梗塞は通常ラクナ梗塞と呼ばれ、脳の血管の中でも細い動脈である穿通動脈(せんつうどうみゃく)が詰まることによって起こる脳梗塞です。
小さな梗塞は症状を起こす場合と、起こさない場合があります。
症状を起こさない脳梗塞を無症候性脳梗塞と言います。
今回はこの小さな脳梗塞について、
- どのような症状を起こすことがあるのか
- 原因は何なのか
- 診断はどのようにするのか
- 治療は必要なのか、その場合どのような治療を行うのか
について、解説しました。
小さな脳梗塞の症状は?
小さな脳梗塞の場合、通常ラクナ梗塞という15mm以下のサイズのものを指します。
小さな脳梗塞は、脳梗塞が起こった場所により症状を起こしたり起こさなかったりします。
小さな脳梗塞で症状がない場合
症状を起こさない脳梗塞を上に述べたように無症候性脳梗塞と言います。
たまたま脳ドックで見つかった場合、症状が出ない無症候性脳梗塞のことがほとんどです。
小さな脳梗塞で症状がある場合
脳梗塞が起こった部位に「錐体路」と呼ばれる運動神経が通る場所であれば、麻痺を起こすことがあります。
このように小さな脳梗塞であっても、そこが重要な役割を果たす部位であるならば、それに相応する障害・症状が起こります。
ラクナ梗塞の5つの特徴的な症状(ラクナ症候群)として、以下のようなものが知られています。
なお、以下の障害部位で出てくる解剖は次のMRIの実際の画像で示す図のようになります。
(なおいずれの構造も左右にありますが、下の図では向かって右側のみを表示しています。)
純粋運動性不全片麻痺
障害部位:内包・橋・放線冠
- 顔面を含む対側半身の不全片麻痺
- 舌の対側への偏位
- 構音障害
純粋感覚性脳卒中
障害部位:視床後腹側核
- 顔面を含む対側半身の感覚障害
- 手口感覚症候群
運動失調性不全片麻痺
障害部位:橋腹側・内包・放線冠
- 顔面を含む対側半身の軽い不全片麻痺
- 運動失調(片側の脱力・小脳失調症状)
構音障害・手不器用症候群
障害部位:橋腹側・内包膝部
- 構音障害
- 対側上肢の巧緻運動障害
感覚運動性脳卒中
障害部位:内包後脚・放線冠
- 顔面を含む対側半身の不全片麻痺
- 対側半身の感覚障害
ラクナ梗塞について詳しくはこちらで説明していますので、ご覧ください。→【保存版】ラクナ梗塞とは?症状、画像診断、治療をわかりやすく!
小さい脳梗塞の原因や治療は?
この小さな脳梗塞は、高血圧との関与が強く示唆されており、血圧を下げる治療によりその進行を抑えらえる可能性が高いと考えられています。
また脳梗塞には動脈硬化が深く関与しており、高血圧以外の危険因子である脂質異常・喫煙・糖尿病などがある場合はそれらの治療が必要となります。
症状がない場合は、脳梗塞自体に対する治療は必要がないと言われていますが、既になんらかの症状が現れている場合、脳梗塞自体に対する治療が必要です。
- 血栓の増大予防
- 梗塞巣の拡大防止
- 再発予防
を目的として、薬物療法を主体とした治療がおこなわれます。
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小さな脳梗塞の診断は?
医師による問診・身体診察のほか、CTやMRIといった画像検査を合わせて診断されます。
とくに新しい脳梗塞の有無についてはMRI検査が有用です。
CTでも脳梗塞の診断は可能なことはありますが、基本的に小さな梗塞の場合は陳旧性(古い)の梗塞しかわかりません。
関連記事)【画像あり】脳梗塞はCTでわかるの?MRIの方がよい?
ですので、基本的には脳梗塞の診断は新しいもの(急性期のもの)・古いもの(陳旧性のもの)を含めて脳のMRIで行います。
新しい脳梗塞は拡散強調像(DWI)で異常な高信号となる点が最大のポイントとなります。
一方で古い脳梗塞、とくに小さな梗塞の場合は、MRIの
- T1強調像
- T2強調像
- FLAIR像
と呼ばれる撮像方法から信号のパターンを組み合わせて診断されます。
ラクナ梗塞 | 白質病変 | 血管周囲腔 | |
T1強調像 | 低信号 | 等〜低信号 | 等〜低信号 |
T2強調像 | 明瞭な高信号 | 高信号 | 高信号 |
FLAIR | 等〜高信号時に、低信号 | 明瞭な高信号 | 等〜低信号 |
周囲 | T2WI,FLAIRにて不規則な高信号 | 周囲に高信号を伴わない。 | |
その他 | 最大径3mm〜15mm | 3mm以下 |
- FLAIR像で周囲に高信号を認め、
- T1強調像で抜けている=低信号になっている
のがラクナ梗塞の特徴です。
症例 60歳代 女性 無症状、過去に脳梗塞と診断されたことはない。
MRIのFLAIR像で高信号の(白い)縁取りをもつ低信号の(黒い)点を認めます。
またこの部位はT1強調像の冠状断像では、低信号の(黒い)抜けとして認めています。
陳旧性ラクナ梗塞を疑う所見です。
ただし、この方に症状はなく、また過去に脳梗塞と診断されたことも、脳梗塞を疑うような症状が出たこともありません。
したがって、無症候性脳梗塞と診断されました。
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脳ドックで診断された「小さな脳梗塞」の注意点
脳ドックで小さな脳梗塞と診断されたものは、「古い脳梗塞がある」といった言い方をされることも多くあります。
注意すべきは、血管周囲腔という正常構造の目立つ人がいて、これを脳梗塞と誤診しないようにすることです。
またしばしば問題になるのがやはり白質病変であり、慢性虚血性変化とも呼ばれます。
これらを、安易に「脳梗塞」と診断しないことが大事です。
鑑別方法としては、上の表が参考になります。
参考文献:病気がみえる vol.7:脳・神経 P65・74〜83
参考文献:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる! P126〜128
最後に
- 小さな脳梗塞とは、ラクナ梗塞という15mm以下のもの
- 小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)は無症状な場合と、症状がある場合とがある
- 高血圧が大きな原因となる
- 高血圧の治療が重要
- 信号の組み合わせで診断される
- 小さな脳梗塞は、白質病変なこともある
脳ドックで小さな古い脳梗塞が見つかったということは、必ずしも悪いことではありません。
過去に脳梗塞を起こしたということは、次にも脳梗塞を起こす可能性があります。
そして、次に脳梗塞が起きた場合、小さな脳梗塞とは限りません。
そのため、脳ドックを行ったことで、
「次起こるかもしれない脳梗塞を予防するために気をつけることができる」
とプラスに考えることができるからです。